今からおよそ三百年以前の絵巻物に、田植えの様子を描いたものがある。早乙女が並んで苗を植えている傍らで、牛を使ってまんがで代(しろ)かきをしている農夫の姿、これを見ると、かつての終戦後の姿と少しも変っていない農作業の姿に気付く。実際、終戦後暫くの間は、田打ち、代かき、田植、田の草取り、稲刈り、に示されるように、何百年と続いた作業の繰り返しであった。
ところが、終戦数年後、農業用機械のめざましい開発によって、農業生産の方式を根本的に変えてしまった。現在では、水田の耕起作業から収穫完了まで一切を機械で行うことができる。しかも、それらの作業は農家個々で行うことなく、専門のセンター等に依託して行うこともできるようになった。さて、
実際には、農作業にどんな変化が起ったであろうか。次の表1を眺めてみよう。グラフは、一〇アール当り農作業時間の全国平均を表したものであり、表2は、千葉県の平均である。すぐに気づくことは、昭和三一年(一九五六)機械化が相当に進みはじめた年の農作業時間が、一八四時間以上かかっているのに五一年(一九七六)になると、なんと百時間以上短縮されている。田圃の水に足を入れないで、機械を動かし米がとれる時代になったのである。機械の発達が進まなかった昭和八年(一九三三)とくらべると実に三分の一の時間である。この内容については、農用機械の近代化の項で述べることにするが、ここに至る道程は、決してやさしいものではなかった。人力中心の重労働の時代から、畜力を取入れて能率化し、更に動力を利用する農業へと大きな努力が払われてきたのである。