農業機械化がもたらしたもの

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第一に、労働生産性の向上、つまり省力化という面ですばらしい効果をあげていることは、云う迄もない。これは、表8・9の数字を見れば、一目瞭然である。
 
表8 水稲作業別労働時間の推移(10a当り時間)(千葉県統計)
項目
 年次
合計種子
予措
苗代
一切
小計本田
耕起
元肥本田
整地
田植小計追肥除草灌排水
管理
防除小計稲刈り
稲干し

こき
もみ
乾燥
もみ
ずり
小計
昭和8226.58.374.446.598.3
13187.48.660.431.487.0
16169.09.457.231.071.4
19177.07.054.048.567.4
21193.38.659.855.869.0
25200.18.874.236.880.8
28172.07.262.432.868.8
31182.20.68.99.518.36.210.027.061.51.024.012.337.346.421.06.573.9
35174.70.711.412.111.26.47.728.153.40.923.414.438.746.118.55.970.5
37164.40.610.310.910.35.26.527.749.70.720.814.536.042.219.85.867.8
39150.30.59.510.07.04.210.427.148.71.014.18.11.724.945.712.83.15.166.7
40154.20.512.212.77.64.511.227.951.20.817.28.11.327.443.711.63.14.562.9
41149.10.510.511.06.04.211.027.148.30.815.38.32.126.543.312.03.14.963.3
42157.10.610.110.75.93.711.928.650.10.919.911.81.734.342.211.92.95.062.0
43147.80.810.110.95.94.711.827.149.51.215.27.51.725.643.210.42.85.461.8
44133.00.79.610.35.54.810.826.547.60.911.27.31.320.737.210.22.24.754.3

 
 
表9 作業必要時間(10a当り)
作業機械時間
水田耕起トラクター1時間
耕耘機2  
代かきトラクター0.5 
耕耘機1.5 
田植田植機2  
刈取バインダー2  
脱穀ハーペスター1.25 
刈取脱穀コンバイン1.66 
(昭55. 千葉県統計)

 
 俗に「連休百姓」という言葉がある。一ヘクタール程度の農家は、五月の連休に、耕起、代かき、田植まで行い、あとは日曜日にでも防除と管理作業をして、九月の連休に収穫や調整をすればよいというのである。農業の機械化が、兼業化を定着させたといわれるゆえんである。
 事実、長柄町農家数の変化(表10)をみると、総戸数は、昭和三三年から一七%も減少しており、専業農家は、三三年を一〇〇とすると、五〇年は一八・五という減少ぶりである。そして、兼業は、五〇年には二二四戸も増加し、農家総数の九一%となり、更に増加の傾向にある。しかし、この原因は、単に省力化だけの問題ではない。
 
表10 専業,兼業別農家数(農業基本調査)(長柄町)
区分総数専業兼業
農家率指数農業が主兼業が主
昭33
35
40
45
46
47
48
49
50
1,455
1,419
1,368
1,320
1,296
1,271
1,241
1,230
1,203
85.8
84.7
82.6
78.9
77.5
75.2
72.3
70.9
68.1
584
549
297
137
149
143
108
104
108
100
94.0
50.9
23.5
25.5
24.5
18.5
17.8
18.5
871
870
1,071
1,183
1,147
1,128
1,133
1.126
1,095
672
557
739
774
763
531
435
502
505
199
313
332
409
384
597
698
624
590

 
 機械化の進展は、農家経済に大きな負担となってきた。今日、中型技術体系による一連の機械を購入すれば、八〇〇万円から一千万円は軽く超えるという。その耐用年数は五年であるから、年に一六〇万円の機械の償却費が必要となる。機械化貧乏という言葉がいわれてから久しいが今なお、この機械投資を要求しているものは何だろうか。それは、農民が、稲作反収を向上させながら省力化を図ろうとする悲願にほかならない。しかし、このために農民は、短縮された時間を他の仕事にまわして、収入をふやす道を考えねばならなくなった。これが兼業農家を増加させる結果になっているといえないだろうか。
 農業近代化は、農民の生活を楽にしようとしたには違いないが、一方では、農民から共同や相互扶助の精神を奪い、農家経営への新な問題を生じさせている。
 
   註
1 『種を蒔く人』(家の光協会)
2 朝日新聞、五五年九月二九日付「田んぼの中の牛舎」(百々信夫)による。