2 医療の中心としての医師 2 Doctors playing a central role in medical care

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 現代は、医師の黄金時代と言われている。だから、医師になるため、何千万もの裏金を使って医科大学へ入ろうとする者が出て問題を起している。しかし、医師の地位がこのように高くなったのは、せいぜい、六、七〇年前からのことにすぎない。菅原章著『日本の病院』(中公新書)によれば「洋の東西を問わず、近代に至るまで、医師の職業身分は高いものではなかった。否かなり低いものであった。江戸末期迄は、別の名を薬師(くすし)といい、漢方薬を商って生計を立てていたが、医業だけでは生計ができず、大部分は内職して生計を立てていた。恵まれた者だけが、殿様のお抱え医師として、二〇―三〇石の実収をいただく程度で、直接殿様の肌にふれることさえできなかった。勿論、一般の薬師は、ピンからキリまであった」という。そこで、明治政府は、明治元年(一八六八)一二月七日、「医療取締及び医療奨励に関する布告」を出した。それによると「医師ノ儀ハ人ノ性命ニ関係シ、実ニ容易ナラザル職ニ候。然ルニ近世不学無術ノ徒猥リニ方薬ヲ弄シ生命ヲ誤候者少ナカラザルヤニ相聞エ……」と述べ、今後は「規則ヲ相立テ学ノ成否術ノ工拙ヲ篤ト試考シ免許之レ有リ候上ナラデハ其業ヲ行フ事相成ラザル様」にしたいという府県への通達である。この後、この精神は次のように実現されてゆく。明治九年、内務省達で、医術開業試験実施を指示し、同一二年、医師試験規則を達して面目を一新、その後、三九年医師法の制定により、医師になるには、医学専門学校又は医科大学を卒業しなければならなくなつた。これによって、医師の地位は次第に高められ、戦後の医療制度の諸改革と相俟って、現在のような医師の黄金時代が現出したのである。