前句附の附句が独立した川柳や、冠附から独立した狂俳も他の地区には残っているが、当地方では見当らない。雑俳もこの一例だけである。最も庶民的なこの種の俳諧は当地方では根付かなかったのであろうか。
奉納俳諧前句 [濁点・( )は筆者] | |
句四季 白妙に 只 雪のたゞ中 | |
折 句 山もそろ/\木の芽浮(うき)た津 | |
冠 □ 大名の御意も流るゝ大井川 | |
沓 △ 權に此世へ 神とあらハ連 | |
百 首 現も夢も よい 夫婦中 | |
ほんのりと 中入 花盛 | |
□ 驕なと花野に萱の宮づくり | 千旦林不動軒 |
権 父の名の雲にしらけて白羽の矢 | 新亀 甲 |
白 客僧に値(知)遇申も〓(梅)さくら | 本〓 葉 |
山 青柳にかすむ墨絵の縫下地 | 落合恵 風 |
白 八景の比良はおはらの寒薬 | 下〓 木 |
仝 繕はぬ伊達をすあしの粋(水)仙花 | 本松朴 |
山 やり水の音に蛙も目をすりて | 新山 子 |
現 ミづ性にわしハ木性の馴小舟 | 芳菊子 |
山 御名残おし 鳫金(かりがね)の国もどり | 下田楚 |
中 ほんのりと室にかうじ(糀)の花盛 | 亀 甲 |
△ きら/\と千畳敷の絵天井 | 新凸 凹 |
大 雲にしられぬ ぜに金がふる | 苗木風 月 |
折 伊吹山紙につゝんできりもぐさ | 下雲 碓 |
白 綿帽子やいくら駿河のふじの山 | 下鉄 延 |
中 ほんのりとにほふやうぢの華ざかり | 淀 〓 |
大 錢ハ 牽馬ノ 浮 沓 | 本可 吟 |
仝 すやりけやりの尻がふらつく | 京 菓 |
現 頼政の二の矢は色のあてどころ | 本一 亀 |
権 千両の直うちはいつの氏子から | 下雲 水 |
山 一はけに野は明ぼのゝ 惣模様 | 新冨 什 |
現 夜着ひとつめい/\鳥の羽づかい | 仝土 本 |
白 凩に一枝青し庭のまつ | 馬コメ望 月 |
仝 かけはしや見おろす山にのぼる山 | コマムバ蘭 香 |
中 ほんのりと聞とてむめの花ざかり | 京 菓 |
山 つく/\し故蝶とまれば鑓(やり)のさや | シン巴 星 |
△ きら/\と弥陀は他力の金ひかり | 風 月 |
仝 かさねての十二ひとへは茗荷(冥加)の子 | 淀〓 〓 |
白 針ほどの穴から大イか□ (不明)の株 | 〓 木 |
仝 塩賣のすべる目もとにしほもなし | 千旦幸 色 |
折 鳥の名の利恨(根)返りやいかのぼり | 仝次 〓 |
句 行年や鷺もからすもゆきのくれ | 道楽子 |
白 鉢の木で水風呂たかば六ヶの庄 | シン定 好 |
△ きら/\と草葉にほしの落し種 | 淀范 芝 |
仝 きら/\と雲はなし地の星月夜 | 下木 仙 |
白 雲晴て目も醒ヶ井のいぶき山 | 亀 甲 |
折 隠居とて軽い帋(紙)子のきそはじめ | 〓 木 |
仝 とりゐ越利屈ハぬけて稲荷山 | 本洞 月 |
□ 其日からはれて平和か玉の床 | 可 吟 |
權 ゆのはなを笹に咲せる神子の口 | マゴメ藤 齊 |
折 隠居とはかくるゝの字で聞へ(え)たり | 望 月 |
百 かさね着や三笠乃山に月のかさ | 千旦松 色 |
白 越路では家の棟踏む馬のあし | 本有 由 |
大 佐々木殿でも ぜにのせんぢん(先陣) | 可 吟 |
山 寒還るそらもかでんの封を切て | シン頌 若 |
中 ほんのりと野郎ほうしの花盛 | かつ女 |
山 花を待身は朝起の箒ずき | 下〓 林 |
百 うかりける時雨にのって鉢扣 | シン九 亀 |
△ 結構な国をみやげのするが茄子 | 淀花 ◇ |
□ 耳たぶが御意に入たる玉の床 | 定 好 |
百 逢みてののちは情もうす茶染 | 本洞 水 |
白 花は猶なつ秋も咲よしの(吉野)葛 | 藤 齊 |
山 〓(桃)柿の〓(養)子は今がまつさかり | □□□[不明]無 案 |
現 落葉搔 くまで(熊手)のさきで二人口 | 可 吟 |
△ 結講(構)なあとがよごれて土御門 | 下心 計 |
句 みゝづくや寧(寝)過た顔のうば桜 | 頌 若 |
△ きら/\と砂子ふるふや八重霞 | シン宇 陽 |
山 暦より疝氣ハ腰にはつがすミ | 風 月 |
折 今も其から(唐)に名を蒔 吉備の種 | 落合川 舟 |
仝 いまの世は神も餅なり宜祢(祢宜)次第 | 雲 水 |
白 献立に請合うともやぶ暦 | 本早 道 |
仝 信濃路や霞にのって駒ヶ獄 | 田 楚 |
現 道盛のいくさもなまる小宰相 | 道楽子 |
山 小娘の声も巣たちの若菜つミ | 檐雀子 |
權 陰陽は天が下うむ二はしら | 倚松葛 |
△ きら/\と曇らぬ御代の鐘磨 | 千旦林 |
仝 けつ講を悋氣に咲すさくら色 | 〓 井 |
句 たんぽゝやけふハ野懸の三番叟 | 芳菊子 |
仝 苔干や莫(蟆)の子どものこけむしろ | 望 月 |
仝 一牧(枚)戸たつる田にし(螺)や無人定 | シン不 吟 |
山 姿見の鏡にかげも花ぐもり | 本素 琴 |
折 糸ゆふ(遊)に風の浮織木〻の花 | 風 月 |
山 足帒(袋)ハ 葛 篭ノ 轄 | シン稲 丕 |
中 ほんのりとおはなが〓(貌)も花ざかり | 手賀野 |
折 大イもの垣にぶらりと木瓜種 | 心 計 |
△ 重ねてハ手鰤(手振)で参るひざ直し | シン間 |
山 土筆 (つくしんぼ) 袴をぬいで 無礼講 | コマムバ休 也 |
現 邯鄲(かんたん)のまくらならべて五十年 | 無 案 |
折 いく度も懸て涼しき清(きよ)かんな | 本素 琴 |
△ 重てハならぬ塩干のも合つま | 本水 上 |
仝 きら/\とひだりが龍ハ日の光 | シン左 木 |
白 大こんにからミをつけて蕎麦花 | 幸 色 |
折 今こむと帰る漣 きつね川 | 木 仙 |
△ 結講な金持殿に曽我名(苗)字 | 雲 水 |
仝 けつ講なかんやう(咸陽)宮の帰り花 | 風 月 |
句 碁両には鼻すゝらせて火燵哉 | 次 〓 |
中 ほんのりと蝶も菜種の花ざかり | 下 近 |
△ 結講な三百余里の永廊下 | 〓 木 |
仝 きら/\と錦を神のまへだれに | コマムバ竹 林 |
白 野も山も源氏にひかる国の花 | 鉄 延 |
大 一六(さいころ)ふって 三日 逗留 | 〓 葉 |
□ 揚貴妃の夢に花咲 たまの床 | 千旦林 |
百 来ぬひとを待味噌屋よりこぬか味曽 | 蘭 香 |
權 揚貴妃のむかしむかしハ唐のひと | 望 月 |
百 春すぎてなつといはせぬ歌がるた | 下野 香 |
大 碁は手をうつて 岡目八もく | 素 琴 |
百 はるすぎてあふぎにあつき蟬の声 | 本平 木 |
△ 重ても いけんと餅は呼に来イ | 亀 甲 |
仝 きら/\とかさの雫や珠数(数珠)の玉 | シン玉 延 |
山 苗代も浪に霞てミつかし味 | シン呉 楓 |
□ はんしゃう(半鐘-繁昌)とうち納たり 宮造り | 仝筒 水 |
奉賀御造宮 | |
嘉 通 | |
椎かし(樫)もひかりうつるや八重霞 | |
享保十一秊(年) | 嘉通識 |
丙午三月吉日 | 〓印 |
Ⅶ-3 奉納俳諧前句 (中川神社蔵)
Ⅶ-3 ②
Ⅶ-3 ③
Ⅶ-3 ④