遺吟
神路山たかき御蔭をあふくかなちりにひとしき我身なからも
書難レ觧處稍添レ力 酒将レ馨時更有レ情 終日無レ人憑凡〓 松窓繊月照二餘清一
うくひすの小首かたけてはつ音哉
庭半分新茶ほしたる野寺かな
けふの月のそかぬ門はなかりける
憎いほとちるやとなりの銀杏の葉 春秋花園 桐 蔭
下略 (桐蔭の女菊子の遺歌一首) (馬風前書略 慶応四辰卯月)
疾くはへてとく花見せよ桜の実 馬 風
梅雨空遠し雲に在す魂 萬 里(馬島秀逸)
時津波鯨や鯱ににけぬらん 桑 蔭(鈴木幾昔)
もち越酒のあたまふら/\ 一 把(辻井利助)
供觸に鏡のぞけば鉄漿(かね)はけて 蕪 言(中川成智)
雀の宿にきりのこす 竹 文 駟
細ふても三日からもふ月なれや 半 米(間 秀矩)
客の所望に著蕷(いも)を堀(掘)せる 五 鹿
城の㟢(崎)へ来やれひたるい目はさせぬ 可 聴
はれても鷺は簑脱ぬ也 可 唱
松風もまつはなれてはたゝの風 登 魚
まきれに出てもなをものおもひ 梅 丘(渡辺梅蔵)
ぬれすとも十二ひとへの袖おもき 時 中(長瀬与吉)
水からくりの狂ふ 八専 雨 堤
餅喰ふて昼する御師の迎馬 如 風
負けても懲りすまた樗蒲(ちょぼ)の胴 桑 阜
此花に腰折れ詠す詩作らす 三 楽(大泉寺)
なかい六田の土手の陽炎 露 岡
鼠から化た鶉の親しらす 為 角
孔子の弟子にあんな噓つき 五 朗
小焜火覆暇乞して門かけて 石 馬(菅井守之助)
降せともない明日は煤拂 胖 之
柳みな芽張れり眠る嶌(島)山に 素 戒
添はとけたか馴れぬ網すき 紫 麦
読ませたりよんたり母の情ふみ 風 獅(河村秀豊)
飛驒でも見へ(え)たきな光りもの 蘿 蔭(市岡政香)
ほこりかに一位の中の明日桧 東 端
千佛禮にはらの減り候 里っ女
女手に仕舞へぬ数の莚豆 巴 水(水野喜蔵)
時雨は翦(き)れて後の名月 四 六(原 宅蔵)
夜るは来る貂も御梁の仲間やら 竹 蔭
鄙のはなしのととく仮御所 馬 睡
競へては笑ふ茶臼の挽木〓 喜 遊(成木鍵蔵)
ほりぬき井戸のなかれとく/\ 二 象
散るときは立派に花のちりにけり 露 文(市岡殷政)
いつのとしよりをしき春かな 元 矩(間一太郎)
右歌遷行。名録は馬風ほか四四名、余興是住ほか八名、追悼は、
林㟢(崎)道分彦い しら雲を
千分にわきてかへり来まさな 親族秀 矩
伊勢の国宇治のさと北山なる父尊霊の奥墓を礼拝し悲歎の袖をしぼり/\
魂呼べど/\いらへは夏の山 息萬 里
文通は一七名、中津川中邨包廣彫となっている(県立図書館蔵)。
Ⅶ-34 桜農實(県立図書館蔵)