苗木領における仏教は、明治三年(一八七〇)全国的にも例をみない徹底した廃仏毀釈が行われたことによって、仏教にかかわる記録は勿論のこと、多くの仏教文化財をも失ってしまった。このことは極めて残念なことでもあると同時に、近世における人々の宗教生活を知る上にも大きな支障となっている。従ってここでは諸記録口伝などにより伝わる範囲内でまとめてみる。
伝承・地名等により苗木にも中世から相当の寺院のあったことは窺われるものの、近世への存続等は考えられない。江戸期苗木領の仏教の主流は、遠山家菩提寺雲林寺創建後、領主の厚い庇護を受けた雲林寺の影響による発展と考えることができる。他には、遠山友貞の妻のために建立された日蓮宗の佛好寺が菩提寺としてあった。さらに領主の祈願をつかさどる天台・真言宗系の寺もあり領内にはその末寺も少なくない。庶民の信仰についてはその実態の把握が大へん困難である。