「…馬籠の青山半蔵、中津川の蜂谷香蔵、同じ町の浅見景蔵-あの三人を寛斉が戯れに三蔵と呼んで見るのを楽しみにしたほど、彼の許へ本を読みに通って来た若者の中でも末頼母しく思った弟子達である。…」(夜明け前・第一部第四章二)三蔵のうち青山半蔵は、島崎重寛で、藤村の父であり夜明け前の主人公である。あとの中津川の蜂谷香蔵は間秀矩(はざまひでのり)で、浅見景蔵は本陣の市岡殷政(いちおかしげまさ)である。寛齊は作中宮川寛齊の名で登場するが本名は馬島靖庵であり三人にとっては学問の手ほどきをし、また国学にも詳しかった師匠である。
特に中津川の間秀矩と市岡殷政は、平田門下となってからは、日本の行く末を憂うる草莽の勤王家としての行動が目立ち、「夜明け前」には実に克明に、「大黒屋日記」等の史料に裏付けられ正確に記されている。