俳人古森省吾・半嶺
二十六日、十曲峠、雌滝、雄滝、
つまごにて
秋よせや枕にあたる水の音
さみしさの蝿に馴けり木その秋
(後略)
本書は伊勢山田の俳人古森省吾と半嶺の二人による信州・江戸行句日記。文化十年(一八一三)の成立である。同年八月半ば伊勢山田を出発、旅の目的の一つが姥捨の観月であり、その近くの芭蕉塚を見ている。そこで、引用した後の句であるが、芭蕉の「送られつ送りつ果は木曽の秋」の句への作者の意識が読み取れる。しかも、新茶屋の芭蕉塚の文字が「……木曽の秋」は「木曽の蝿」と読みとれるとの説が強い故、興味深い。ちなみに、地元美濃派の俳人達が新茶屋に芭蕉塚を建てたのは天保一三年であるが、この時の翁塚開眼供養の際の供養句集の多くにも「蝿」の字を詠みこんでいる。