伊沢蘭軒
二八日卯時発(須原)、一里二十丁野尻駅、木曽川石岩に映山紅(ツツジ)盛に開く……和合酒を買ふ。二里半三富野駅、一里半妻籠駅、二里馬籠駅、扇屋半次郎家に宿す。苦熱たえがたし。行程七里半許。
伊沢蘭軒は江戸後期の医学者、考証学者。代々福山藩に仕えて、儒学、医学、本草を学んだ。長崎留学ののち、福山藩の侍医となり、儒官を兼ねた。『伊沢蘭軒の日記』は彼が文化三年(一八〇六)五月一九日、長崎奉行に随行して江戸を出立、同年七月六日長崎に到着するまでの記録である。五月二八日、前夜須原宿に泊まった彼は、この日、高熱をおして三〇キロを歩きづつけて馬籠に到着している。