花の雪集 全

花の雪集 全 [目録]


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<翻 刻>
 
管理番号「二九」
 
市史編さん室史料 番号「一」
    落合公民館より移管資料
表紙
 
1     画像(翻刻付)

 
    花 の 雪 集  全
 
3     画像(翻刻付)

 
   餞 章
 印
神儒佛の三道を混して俳諧の一道なれりとかや 爰(ここ)に
東濃落合の駅桂庵(かつらあん)の主老は仏門にも信厚く風雅に
おゐては専ら修行地に心を委ねて道に古老の君
たるにそ兼て信陽川中嶋の霊仏にもふてんとの志願
久しかりしも今年此春無分別に思ひたてるとなん
さはよき序なれは越路吾妻の詞友へも多年の
無音を償はんとの囁(ささやき)も宜ならんと黙頭(うなづき)置しか
けふや杖笠おつ取発途ある折も弥生の央なれは
 凍解風和らきて春色良(やや)調ひ誠に時を得し遊慰ならん
 には彼桟(さん)道も若葉して花郭公(ほととぎす)に明暮旅労を補え
 よなとつら/\思ひ廻らして餞(はなむけ)の一章をおくり往返
 恙(つつが)なからんことを祝しことふく
たとらるゝ山路も今や花の雪
             八十叟
              友左坊
              雪 友左
              香 坊
 
4     画像(翻刻付)

 
   仝 餞別
  印
 椎の葉に盛旅の侘も試み遊はんと弥生の日永の折を
 得て発途し名たゝる霊場は元より多年の文教の
 通志にも風交に預らんと厚きこヽろさしを発せ
 らるゝ桂庵老主人を見送り無事に帰郷あれ
 かしと分手に一章を餞(はなむけ)して
芳(かん)はしひは摘(つみ)残されな道の草も
                逸歩仙
              如意 雅
              窟  兆
 
   首途自賀
 印
 霊場参籠の志願空しからす両師の侭儀(じんぎ)を乞得て
 六十爰(ここ)に余る老杖頻(しきり)に発途の心定まり頭陀(ずだ)に合羽の
 用意取あえす独り旅のはりなくも誓ひ尊き御仏の
 加護に洩さるならんと感仰奉る折から桟路も
 花の雪や降ぬる越の後州武の東都を一県せは
 やと千里に一歩をはしむる日は天保七丙申春三月
 中の四日なる良辰(りょうしん)なりき
                  嵩左坊
長閑(のどか)さや連も影添ふ阿弥陀笠
                 美 恵山
                 濃 房印
 
5     画像(翻刻付)

 
    餞別         曽井
 道に輗軏(げいげつ)の心専らなる桂庵主の東行を寿く
               風二仙
軽からん花に薄着の筇(つえ)笠(かさ)は
 連なき旅も春に誘はれ           嵩左
名におかし宿かりむしも虫なから       鸝三
    右三ツ物
    名禄
鳥のむく毛ちるや狩野ヽ夕あらし       鸝三
 余は各親しき前書あれとも略
              ムスブ
                士游
旅立ちの笠着すヽまん花の雲
 千里を望むけさのうらヽか         嵩左
    仝         ミヱシ
                佳肖
着そらして行るヽ笠の中
 雲雀(ひばり)仰きつ蝶を見真似(まね)つ   嵩左
    仝         十四条
                完古
道の栄えニそ菊の分根に旅出とは
 
6     画像(翻刻付)

 
杖にこころを耕せる老            嵩左
    仝         十七条
                梅思坊
見つ聞つゆかれん花に時鳥(ほととぎす)
 さらせる笠に春おしき山          嵩左
    仝表六句      獅子庵連
                六之
折もよし笑ふ山路の明暮は
 面白頬白にうかれ出る旅          嵩左
ひけかねる雛の後宴の座もすみて       風二仙
 神の灯しも移る漏刻(ろうこく)       琴志
忍はしふ吹となふふく月に風         鸝兆
 露と結ひし内証の訳            俚風
    名禄
                門屋
友とては山彦のみそはつさくら        俚風
                北野
力みある葉も和らけつはな薄(すすき)     六之
                古市場
尺八のおとも乱れつ村しくれ         鸝兆
                谷口
手伝ひかまことゝなるや几巾         琴志
 
7     画像(翻刻付)

 
              獅子庵看主
涼風や夕鐘も鳴り帰る帆も          自然斉
    六句表       芥見
                一夢坊
たのしからん行先/\もはなの旅
 世の是非しらぬ蝶鳥を友          嵩左
唯一の神にはひねた式ありて         帛露
 流れのすへもさヽやきの橋         芦水
襟につかぬまことの月を明し合ひ       柳蛙
 八重にひとえも匂ふきく酒         以柏
    名禄
南天の実の色つくや小六月          帛露
高足の鞠(まり)うけ流す柳かな        柳蛙
柴舟にとひ乗一人冬の川           芦水
若草や日々に床しき野とはなる        以柏
世の世話にもまれて後の紙衣(かみこ)哉    一夢坊
    短歌一折      太田
花に宿かりて聞れんほとヽきす  爬水
 
8     画像(翻刻付)

 
 よしや遊戯も夏近き空           嵩左
種蒔も片つく時はかた付て          右流坊
 黒ふ煤(すす)けし竹の釣棚         春燿

そふ水を好んて月の二日酔          卓二
 あちこちともふお祭も又          芦邦
何枚もたまれはこまる質の札         里瑛
 惚れたか因果侭(まま)ならぬぬし      花暁
さかさまな事そ帰路に此涙          東壷
 しら/\白む東雲(しののめ)の山      のふ
おとらすに千本の桜咲すヽみ         里笠
 出代客に興もいくはく           他山
    名禄
芭蕉葉や世帯は狭き庵の庭          卓二
鉢植の松つや/\とはつしくれ        右流坊
よく見れは水は濁らすおほろ月        他山
                      女
紅梅や化粧湯に影にほはしふ         のふ
 
9     画像(翻刻付)

 
ふり向けは山只青しほとヽきす        東壷
雲間覗く影若/\し三日の月         花暁
兀(はげ)山の砂吹ちるや秋の風        春燿
空寝して異見すぬけるふとん哉        芦邦
蜩(ひぐらし)や宿曵(ひき)集ふ町はなれ    里瑛
張絹に心撓(たわ)むやはな樗(おうち)     里笠
    表六句     小里
              里泉
花も実と積らん道にはれの頭陀(ずだ)
 霞汲笠され晒(さらす)る迄         崇左
ひねくさゐ神に誓ひはおかしふて       月洞
 まいらせ候も仮名にさら/\        寿算
都合よふ月見催ひも馬便り          友古
 折そしも萩に嵯峨の風流          笑有
    名禄
葱ものヽ軒に薫るやはるの雨         月洞
賑はしふふえて帰りの乙鳥(つばめ)かな    寿算
 
10     画像(翻刻付)

 
落栗や寝入子の手に二ツ三ツ         笑有
 去なから風吹通す茂りかな         友古
     表八句   神箟
             花童
北ニ行雁や帰りも無事を待
 待遠からん日もなかき旅          嵩左
韋駄天(いだてん)にあけし草餅殕(かび)て居て 寿光
 砥(と)の目に合すきれぬ鉋丁        吾梅
ひんしゃんと当りさはりも悋気(りんき)から  里霍
 子中なしてもまたそんな愚知        東輔
むら雲もはれてさやけく昇る月        露暁
 三笠の山のにしきはなやか         登龍
   名禄
流れ行水おと近し五月はれ          寿光
とひ石をふみはつしけり揚雲雀(あげひばり)  露暁
陽炎や鎌とく光のあたりにも         里霍
もふ来るなとて追ひやるや火取虫       登龍
 
11     画像(翻刻付)

 
灯し火のほそふ更(ふけ)れは鹿のこえ    吾梅
   短歌行         明知
                 娯水
うら山し旅路も花に郭公(ほととぎす)
 かえり見つ着(つけ)る笠も行春      嵩左
広/\と炉塞の跡片つひて         竹遍
 紗綾ちりめんに多い裁もの        繁路

にきはひも月からひたと引つヽき      省鵞
 又尻かえか貴様此季も          鸝逸
金毘羅に火のものたちはうさんらし     花員
 降りとも定められぬ厄空         古橋
賃搗(づき)の麦に水勢みつ車        圭二
 何をとふやら奥州訛(なま)り       汀亀
酔とれもさくらや桃の咲けはこそ      渓花
 蒔なき種の生えるてもなし        翠二

放されて野飼の駒の刎廻(はねまわ)り    止風
 ゆりかえしてもちさい世直し       佳菊
 
12     画像(翻刻付)

 
油断して亥の子の餅をもられたに      里英
 鬢(びん)に霜置きなから気軽ひ      和水
とひ/\に飛ひ石川のふたつみつ      一止
 私領御領の入交りなり          聴雨
出けたけな内証ものヽ月の眉        竜子
 黙頭(うなづき)合ふて江湖崩れの     鷲哉

辻井戸は蜘手のよふに通ひ道        季風
 上り日和のうつくしひこと        省嶋
はれやかな土産待花かほるはな       桃里
 花とは道の不易流行           桂洲
   名禄
若竹や日に/\鳥も遊ひ馴         桃里
そよく葉に浮雲/\やかたつふり      繁路
行秋やかわらぬは只松の風         龍子
とんほうや追ひ歩行子もとんほ髪      里英
月ならて雲井仰くやほとヽきす       省嶋
 
13     画像(翻刻付)

 
戻りには馬士のきて来るふとん哉      渓花
春の野や氈(せん)しいた跡ふんたあと    鸝逸
とは知らて若子のほしかる唐からし     圭二
五月雨や田ことに余る水のおと       其楽
見る人も互ひにりきむ角力哉        止風
鞠沓(まりくつ)は箱に殕(かび)るや皐月雨  和水
とひ/\に根笹の青き枯野かな       鷲哉
刈草にいく度馳(のが)れて野きく哉     花員
雨晴て夕日しみ込もみちかな        佳菊
凍とけや駒も尾袋かけてやり        汀亀
山深し山又浅しき子(し)の声        聴雨
染る葉につや増す露のあした哉       季雨
朝かほや莟(つぼみ)に含くれの露      佳洲
鍬洗ふ水のうこきに鴫(しぎ)立ぬ      竹廬
   表八句       日吉
               五歩
いとはれよ雪も残らん越路には
 
14     画像(翻刻付)

 
切なる信をはなと着る笠          嵩左
暦にも種蒔よしとくはしふて        雄歩
 隔はあらし天照らす神          谷水
釣合ぬとしも妻なら妻思ひ         宜兄
 又酔はんしていやな悪しやれ       嵩由
夜もすから手間とる月の上り舟       一行
 啼つれてとふ雁にはつ鴨         三橋
   名禄
いく度も子に起さるヽ夜永かな       雄歩
旭さすほとはくすれつ霜はしら       谷水
細/\と虫も啼(なき)けり三日の月     宜兄
いつ迄も雫(しずく)の落る茂りかな     嵩由
辻/\の茶店もひけて秋の風        一行
何所(どこ)ゆかん庵とりまひて虫の声    三橋
   表八句          藤村
                  鸝乙
くつとのひて薫りかほれよ梅の枝
 
15     画像(翻刻付)

 
 巣を出れはもふ千里鶯          嵩左
長閑(のどか)さに緑へ(ふちべ)の水も和らきて 歌友
 真砂にましる金のきら/\     英里
今世には稀な操のふたつ髷(まげ)      露芳
 よむも詠(よみ)たり歌の返しの      梅枝
月もはや居待寝待と移る影         廬友
 末枯なしの名も常盤山          梅兮
   名禄
早はらひや炭竃(かまど)あれし其ほとり   歌友
鐘のこえの奥床しさや夕かすみ       梅兮
泉水に月影うとしうす氷          梅枝
ちらほらと松もましりて冬木立       英里
竹の子や不遠慮に出る垣の外        廬友
   短歌一折    岩城下
                和節坊
いく里の蝶もしたはん其(その)笠は
 戯れ種も匂ふのとかさ          嵩左
 
16     画像(翻刻付)

 
居馴染てまつ総角(あげまき)の児桜     二松
 世はならわせの移り行也         洗耳
細/\と山の端に月さし昇り        松傲
 負退の碁に社務のうそ寒         英風
うつくしふたはこ入には粉もなふて     魯哉
 薩摩は遠ひ九州の果           半麗
不孝なと水さヽれてもきれぬ中       遊鵞
 壁にも耳そ泣て嚇(おどす)すな      其柳
咲花にしらり/\と朝ほらけ        古鏡
 瀧の流の裾も和らき           徐風
  名禄
一輪に卓下栄える椿かな          松傲
長閑(のどか)さや音も静けさ片男浪     徐風
最(も)ふひと葉/\と慾の摘菜哉      魯哉
吹交て蝶もちら/\花の雪         英風
月影も朧(おぼろ)や瀧の水けふり      半麗
 
17     画像(翻刻付)

 
爰(ここ)も立忘れし宵やはつ蛙       遊鵞
 姑(シュウトメ)の傍に針子の日長かな   洗耳
咲つヽく果は雲かも山さくら        二松
凍とけや汚れて通ふ渡し舟         其柳
き子(し)啼や雨になる雲吹ちらし      古鏡
  短歌一折      大井
                  良寿仙
霞(かすみ)分けて世の和らきを見巡るか
 折得て永き日まかせの杖         嵩左
草餅もあれと蕨(わらび)は格別に      廬仙
 仕かけにそれる水の自由さ        風止
花に月の空とて澄わたり          裏兮
 袷のほしくひとえてはちと        里芳
さしてあるはかりの破れ障子にて      路長
 鏡にしらみてむら雀なく         竒兆
ぬからすに手水酒をと牽頭(たいこ)から   其因
 こちの素姓をいつ知たやら        干孚
 
18     画像(翻刻付)

 
香に匂ふ吾妻の花の隠れなし        三竒
 山も笑ひをうつす首途          朝和
   各餞別
旅かけて心のはなも咲せにか        三竒
老も花に着そらす笠の曠(こう)あらん    竒兆
東風(こち)に迎えられての旅や広からん   干孚
友を花と蝶を見真似の旅出かも       其因
進るヽ筈か旅路も梅見月          路長
たひゆかし花の先/\蝶こヽろ       朝和
笑ひ合ふてゆかれよ道の目当山       風止
無分別の旅も芽出しの時得てか       里芳
摘みためて頭陀の土産か草つはな      裏兮
花も雪とつむ言の葉の旅床し        廬仙
   歌仙一折   中津川
              霞外坊
雁ならぬ便りたしかそ行かえり
 文にかすまぬ力得し旅          嵩左
 
19     画像(翻刻付)

 
嵩低に筺裏(きょうり)も柳の細工にて    層嶠
 賑はふ市も所からなり          露文
若ければ面白いもの奉公も         東鳥
 唄の拍子に汲桔槹(はねつるべ)      聴古

三日月の影ちら/\と暮かヽり       里融
 尾はなか原に狐さまよふ         左凉
わけのある古主と忍んて墓参り       花仙
 羽織のすそへ鞘の長過          都梁
変爻(こう)の次第そ易の判談は       巴孝
 けふも彼是過し日最中          柳支
手に汗を握るもぬしの気質ゆへ       廬玉
 お酌の粋にまつ浅茅酒          才我
さんふりと碇おろしてかヽり舟       周雅
 欺したよふに雨のはれ行く        和友
つヽかなふ留主もかわらす開く花      嘯和
 花の遊ひにたつ二見形          兎乙
 
20     画像(翻刻付)

 
   各餞別
待もたのし頭陀に越路の花日記       嘯和
先/\の野山もはらふ連ならん       廬玉
長閑さや越路に笠のうら山し        花仙
いさいよし蝶道連の遊戯たひ        巴孝
風流な笠の首途(かどで)や茶摘とき     周雅
曵よからんこし路も花の雪に杖       都梁
門出も嘸(さぞ)な弥生の越の旅       和友
恙(つつが)なきかほりや待んはなの首途   柳支
              女
楽しからむ花を枝折に越路とは       初枝
修行地にこつて長閑な旅出かも       聴古
つもるらんこし路も今は花の雪       露文
笠にうけよ越の胡砂吹花雪吹(ママ)     兎乙
雪さえも解合ふて行道は嘸(さぞ)      東鳥
とめて行か雁のあしあと草つはな      里融
長ふ咲や藤に戸出の旅の花         層嶠
 
21     画像(翻刻付)

 
   表八句         苗城下
                 佳松
朧ならぬ道の首途(かどで)やかつら庵
 花の明りもかりて着る笠         嵩左
高らかに経よみ鳥の声たてヽ        詠帰
 谷ツ七郷の次第おたやか         梅暁
表はれてそふ約束の待遠さ         梅児
 あんまりぬしの若いてもなし       素皎
冴えるほとさえて真白に霜の朝       桂賀
 もとのきしえと着く宝舟         里鳥
   名禄
菜のはなや活ふの欲はさらになし      桂賀
其詠花におとらぬもみちかな        梅児
釣瓶とる手はまたくらし花卯の木      里鳥
畑ぬしの名も笠にある案山子哉       三敬
杵おとにおとろいてとふつはめかな     梅暁
松風の音紛なし秋のくれ          宜仙
 
22     画像(翻刻付)

 
水の面に目立てもなし初しくれ       素皎
衣片敷てぬる夜やむなしの声        詠帰
 今度家翁の発旅は仏都もふてを宗として越武の通志
 を訪はんと立日も幸ひに千里の空霽々(せいぜい)と鶯も笠を
 誘ふ朝盃に安堵して送別を寿く
              幾昔
こヽろよふ首途見送る春日かな
 合点か守れ鳥も古巣を          嵩左
しら玉の椿に神の跡たれて         鳥孝
 三十一文字の手には和らか        五柳
打つけにいわぬ恨みの意地らし       亀水
 拝むにゆるせ中絶(たち)し訳       呂遊
熟(うれ)かける稲も魚鱗と須磨の月     錦河
 おと冷(すさま)しふ寄せるみちしほ    由甫
  古稀に近き慈父の東行を賀し奉りて
祈り/\東風にも無事を待使        隆宇
月雪と仰かん華の旅たより         鳥孝
蝶とヽもに影見おくらん門出笠       五柳
 
23     画像(翻刻付)

 
見送るや花に霞の峯つヽき         亀水
つらね置て長旅おくる柳かな        呂遊
武蔵野に広ふかほらん頭陀の花       由甫
雪と降さくらも嘸(さぞ)な越信濃      錦河
うらやまし行先/\のさくら時       龍故
 見送りの信友にき/\しくこたひの失立始めを隣国
 といひ隣邑湯舟沢に名たヽる眺望を興して
園原や賊草(とくさ)も若し春の月      嵩左坊
 福関のこなたに関山といえるあり旅行の耳目を
 おとろくにはあらねと
ひとつこえふたつ関路に向ふ夏    仝
 寝覚の里にて三月窗(まど)
夢かともおしき寝覚の床の春     仝
 老の杖を助け申さんと跡をしたふて
                 僕
霞目(かすみめ)に笠の書付見おほえん    桟騎
 光陰矢のことく卯の花月と移りぬその花の
 冷艶老旅のこヽろに染入侍れは
 
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今しはし日馴れてからに衣かえ       嵩左坊
 華表嶺は祖師累代の高吟碑面に慕しくさはかりの
 高嶺四時一度に廻るかと見ぬ巫山(ふざん)蜀道も是にはよも
時鳥(ほととぎす)月雪花の中を飛ひ     仝
 猿か場々峠を八九町下りて茶店あり姥捨山に
             廻る道おしえあるより
玉苗や月の田毎に道しるへ         仝
 更級 伝や姥ひとり泣の高吟を感し/\
日にも啼くや姥すて山の郭公(ほととぎす)  仝
 仏都参籠の素願より南信の詞友の風交も予(あらかじ)め
 帰路と約してけふ卯の花月中の一日因縁ある野村坊にそ落
 着侍りぬ先と拝仏聞法の所/\院に拝み奉るに伽藍の
 結構はいふ計(ばかり)なく実尊さ有かたさ感涙双袖を潤して
 只管(ひたすら)唱名の外他事なし
明安し南無阿弥陀仏夜もすから       嵩左坊
 信越の境関川にいたりて
声つたふ関の川瀬の行々子         仝
 瓶(かめ)割峠と云えるはむかし九郎判官奥州へ落給ひし
 頃とや静の由緒湧出る水に感有
 
25     画像(翻刻付)

 
汲/\も源つきし産清水          仝
   越後    中ノ嶋
         今町  連
   短歌行
            羽千
郭公宵から冨士の雲かくれ
 くたすも折そ卯の花の雪         嵩左
褻服(けのふく)に味噌の仕込を手伝ふて   史隆
 笑ひの声の窓洩るヽなり         司□

円いのも斜(かけ)し形も月は月       六釣
 澄て漂ふ浪のおたやか          子風
吹ならす竹に溜りて手の内も        風和
 待てヽあらふ老つもる母         雪潮
世直しの跡はしら/\明はなれ       漣巴
 朔日なれはちかふ常とは         司□
居ならひて花見の舞の御連衆        司□
 あしらふて吸物に独活(うど)の芽     風与

いさヽかな岨畑(そはた)なれと南うけ    竹葉
 
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 放し飼やら牛ののら/\         花睡
錦木も立行年の頃なから          雲臥
 片しく袖の寒き寝こヽろ         雲路
岡崎の櫓太鼓かとんと今          樵重
 三十丈ものひやせん松          雲鯉
あとたれていく代も月の神の加護      秋渕
 的のほまれのすたらぬ扇         佳什

質種にない所貸も顔とかほ         捂井
 裏にはすぬけ道の自由さ         棹翠
濃き交(まぜ)ていろも香もそふ花の枝    葵水
 五風十雨に珍重のはる          素艶
   名禄
一しきり温(ゆ)泉入の客や鹿の声      葵水
花なからゆふ刈柴やふしのつる       六釣
鳥とんて増す水かさや春の川        秋渕
吹れよるかたを塒(ねぐら)かくれのてふ   佳什
 
27     画像(翻刻付)

 
淡雪やすそ野に晴て立煙り         雲鯉
日の裾の永き眺やふしの華         雲路
長閑さや椽(たるき)を覗けは芽出し栗    樵重
               今町連
雨の姿風のすかたの柳かな         風和
むし聞や黙ってかりるたはこの火      捂井
虫の音や紙燭(しそく)に袖をきせて聞    棹翠
良(やや)あつて二羽となりけり秋の蝶    漣巴
明日もよひ入日の雲や桃の花        子風
雨含朝日の艶や木蓮花           雲臥
鳥とふや周章(あわて)て丸ふ蝸牛(かたつむり)竹葉
さしよつて嶋山底し秋の潮         司□
そつと汲水に月あり花雲り         雪潮
骨折て咲風情なり磯の梅          花睡
炭かまやあちらの谷は温泉(ゆ)の煙     風与
草はまた元の闇なりとふ蛍         司□
水の気に曇る睦月の日の出哉        素艶
 
28     画像(翻刻付)

 
磯山や虹の中ゆく鳫(かり)のこゑ      司選
 中の嶋今町中野の詞友の懇情より及ひ半百の日数
 を滞杖して佳節を祝す
旅の気もとけよと恵む粽(ちまき)かな    嵩左坊
     短歌一順 与板城下
五月雨や柳の姿おも/\し  文先
 灯す蛍もうすき夕暮れ          嵩左
稚(おさなき)はおさなき御意に傅(かしず)きて虎嘯
 拭ふたほとは清き鏡戸          花韻

六斎の間もなふ廻る月の市         阿仏
 山ほとつんてあらうねの芋        一水
落ふれて前たれなから京ことは       可晁
 又おなふりというてこそくる       眠翅
引つヽく日和にたつて坱(ご)み埃り     文亀
 閻浮檀金(えんぶだごん)の如来の開扉   桂露
手折きてくれし心も花の土産        珋現
 
29     画像(翻刻付)

 
 霞や酌(くま)ん田螺(たにし)蛤      仙路
漂然と浪爰(ここ)もとに袖の浦       子恭
   名禄
時雨るやかヽりし舟の細明り        珋現
陣とりは乳母か背中やほたる狩       子恭
鳥一羽命なりけり雪の原          眠翅
凩(こがらし)や谺(こだま)にこたふ海の音  可晁
鶏のみの毛にみゆるはるの風        仙路
吹風にさはる物なし雪の原         桂露
こふふりや目の前を飛ふ薄月夜       文亀
立鷺(さぎ)のいよ/\白き青田かな     一水
金借の石ひろひ出す火鉢哉         阿仏
黒塚も白ふ更(ふけ)けり冬の月       虎嘯
   三ツ物
          吉崎
            玉是
釣草はかわかて青し麦の秋
 こころ豊に憩ふ涼し味          嵩左
 
30     画像(翻刻付)

 
上童達のもふては神ならん         素戎
   名禄
造り木の糸もゆるむや五月雨        素戎
   表六句     中野
              桃岐
揺かすか動くか木々の風すヽし
 梅雨のはるヽも自然端的         嵩左
つとめする身も魂は鏡にて         昭似
 そふ誓文は落てなりとも         泉志
彼是と月の秋田の田刈前          得雅
 こえも豊に雁の一群           文以
   名禄
訪ふ人を待受なから門すヽみ        泉志
あり/\と蜘の囲(ゐ)白しはるヽ霧     文以
梅雨晴や簾(すだれ)の先のふしの山     得雅
みしか夜を屏風に延て朝寝哉        昭似
   歌仙一折   大面 若宮
          荻嶋 小栗山
 
31     画像(翻刻付)

 
昼かほのとろりと咲し曇り哉迦孫
 追ふもいふせく片岨の蚰(げじ)      嵩左
司る役に加増を賜りて           流憩
 との樽もみな明いてころかる       栗山
開き帆も真帆と也(なり)はて矢の如く    左流
 もたれてくれなちよつとひと寝入     和牛

月夜にも出すに此子はねたりこと      其芳
 露のしくれの笹にはらつく        蘭枻
いさきよふ放生会鳥啼てとひ        帰苔
 腰に梓(あずさ)の弓を曵く筇(つえ)    志空
折ふしは麦飯喰うふも薬とや        士先
 筵(むしろ)敷なり一台ところは      山路
寒ははや終れとしはし年の内        和月
 うれしい顔にいつ逢るやら        梅寿
丸山の意気地立しも深ひ訳         柳古
 八重雲引て明ほのヽ空          曙芳
 
32     画像(翻刻付)

 
白妙に栄える千本の花に花         梧鳳
 絶す遊ひも春永き宿           喜月
    名禄
                若宮
山ひとつ廻はつて鳫の下(お)りにけり    梧鳳
                大和田
江に近き我寝所や春の月          梅寿
               ヽ
一夜かる宿も盛の牡丹かな         和月
                東光寺
梅ちつて吉野ヽ咄(はなし)しして通る    山路
               ヽ
本意なしや見るまもなくて芥子の花     士先
                フクシマ
水に影洗ひに出るや衣かえ         柳古
                ヲキシマ
のとかさや友呼ふ鶴の靄(もや)を出る    帰苔
              ヽ
淡雪の松葉に溜る夕へかな         志空
              ヽ
行違ふ蛍ひとつは戻りけり         曙峰
              ヽ
鳥の巣や赤枯かヽる宮の杉         流憩
              ヽ
柴の鳥啼直りたる小春かな         喜月
                小栗山
万歳や朝から酔ふた顔て来る        左流
              ヽ
開き見て反故(ほご)を引さく師走哉     栗山
 
33     画像(翻刻付)

 
              ヽ
火をたけは風の見ゆるやけさの秋      蘭枻
              ヽ
旅人も入交りたる汐干かな         和才
松は折竹は臥しけり夜の雪         其芳
 大面の地より三条え移る間はひに如法寺の里とて
 北越に七不思議のいつなる大勢と呼へるあり其一字に尋
 あたるに囲炉裏の隅より燃出る鍋の仕かけあるなし
                   竒意の思ひより
昼もよる蛍かと火の自在鍵         嵩左坊
とりに来ぬ虫も此火のふしき哉       桟騎
   短歌一折
                 裏館
ちら/\と流れに影や夏の月      睡虎
 姿すヽしふ靡(なび)く葉柳        嵩左
つかふ人召遣はるヽ人ありて        東和坊
 たのみませふの声を又候         江左
美しい日和となりてきのふけふ       一蝶
 双の岡に鶴や鴎の            寿風
ぬしもさあ是へ巨燵(こたつ)の酔さまし   洗山
 
34     画像(翻刻付)

 
 聞残しては解ぬうたかひ         文路
ちりひしもつれは山となる類ひ       翠竹
 神代も今も竒瑞さま/\         鶏旦
言の葉に伝りて咲筆の花          山藤
 人和とヽのふ遊ひうらヽか        百丈
   名禄
近ひ頃あそんたに最ふ桜の実        江左
流れても/\月の川すヽし         一蝶
時鳥(ほととぎす)啼や流のまさりけり    東和坊
人よりはうくひすの告(の)る春を春     寿風
後のこえ是そ誠のほとヽきす        洗山
鐘きいてけふも戻るや花の山        山藤
藻の花や覗けは魚のつひかくれ       文路
さヽ啼や旭のもるヽ竹の奥         翠竹
夕かほや月の出しほに咲栄え        鶏旦
持かえて扉を脇に清水かな         百丈
 
35     画像(翻刻付)

 
    名禄     三条
橋柱につる草のひて暮すヽし        呂興
虫の音をたとる縄手や琵琶法師       文鳥
    名禄      新潟
夕立のかヽらぬかたや雲の峯        月樵
きら/\と月も更(ふけ)行霜夜哉      梅次
 そも梅は天神の愛樹にして詩歌連俳に嵩詠せしも
 少からす爰に新潟なる梅次風士に慈愛せられて炎暑も央なる頃
 はからすも霍乱(かくらん)とおほしく眩(くら)みしにあるしは先より連枝迄もいと
 深切の看病に日ならすして快復の恩は禿筆(とくひつ)に尽しかたく
 さは此国の名樹其実の一しほに喰事も進みけれは夫是を謝し侍(はべ)るとて
梅漬や香も八つ房の名にし味        嵩左坊
   名禄    高橋
麦秋や泉水に浮く門埃り          犢外
牡丹さくや数なき花の目に余り       酔龍
そひ寝する孫に手風の扇かな        南強
   名禄                中条
 
36     画像(翻刻付)

 
此水も海にかよふかかんこ鳥        花渓
寝られぬよ花に嵐のさはる音        蘭橋
   名禄         黒川
馬盥(たらい)の水捨かねつむしの声     堂里
はつ雁やあらしに連て浪の音        石翠
   歌仙一折    関
                     右琴
砂庭の塵ひろはせる牡丹哉
 団扇つかいもはかまきぬ隙        嵩左
年号の長ふ続くは目出たふて        梧龍
 さかひの傍尓たて直りけり        東洋
是からは乳母か在所も遠からす       文里
 口上いふて重のむし物          李岡

明るさも三五の月の昼よりも        李精
 まとひからすの啌(こう)寒き声      威和坊
男郎花とも諷はれし君なれと        南明
 義理と意気地はおそろしい也       以静
 
37     画像(翻刻付)

 
去とては候(そうろう)へく候の世てもなし  南山
 一しきりつヽ鞍馬おろしの        如圭
柴垣も朽て縄めのきれかヽり        南皐
 もよひ催ふて炉開の会          為梁
神前の勤は聟に打まかせ          梅□
 いさきよふ只東雲のそら         元謹
おしなへて盛りの花の香に匂ひ       藤端
 詩にも歌にも千金の春          為因
   名禄
有かとて徳利ふり見る夜長哉        慶端
桃さくや畑にやさしい下駄のあと      蘭狂
手を洗ふ朝影きよし杜若(かきつばた)    有明
落栗やこの頃山に馴染児          威和坊
乳もらひを送りて出るや冬の月       李明
山道のいつか隠れて薄(すすき)かな     路成
水/\に隙な手かりん崩梁         慶樹
 
38     画像(翻刻付)

 
葉柳や宵の雫(しずく)のまたのこり     清流
雨はれの庭しつか也ちり椿         嵯交
独楽の茶や味のつく春の雨         為粱
蜘(くも)も巣をあはてヽ迯(にげ)る落葉哉  如圭
鶯(うぐいす)や朝日の枝に身つくろひ    李精
転寝にきくや庵の虫の声          似静
気のはらぬくらしか草に蝶々とふ      化成
花も葉も力かましき椿かな         文理
愛す人のこヽろも高し蘭の花        東洋
巣に鳥のやつれてとふや雨の空       為周
糸つけたよふに戻るや夕雲雀(ひばり)    李岡
川音は今も残て柳かな           李千
紅の花や女こヽろに摘をしみ        梅□
行過た連呼ひもとす清水哉         知禮
雨に角そつと延すやかたつふり       之謹
物すこふとひ行空や冬の月         梧龍
 
39     画像(翻刻付)

 
時雨るや無分別なる淀くるま        南明
まかり出て老も一座を榾火(ほだひ)かな   南山
 倩(つら)/\吟行に覊(つなが)れて其(その)季の移るも忘却し侍るより
 彼の風の音に驚れぬる古歌を思えは
今朝秋と手に取て見る一葉哉        嵩左坊
   七夕
露草やほしの手向も路地の侘(わび)     仝
 関の里に関とめられて良友の懇志一かたならす爰(ここ)に二句
 尓余る後日より中元の賀も不思議の因縁なるへしと心計の廻向(えこう)を
                           なして
灯しもの買ふを浄めの盆会哉        仝
 北越の吟遊予(あらかじ)め終れは会津通り越東武へ赴くに越羽
 奥野の国境なる地名によりて
静さや焼山越も露しくれ          仝
 日の本の絶景千賀(ちが)の浦に舟を浮へて向/\たる
                  斜陽をおしむ
松嶋やしままた嶋とゆふつく日       仝
 日光の御山は仰も恐あれは遙拝奉りて
 
40     画像(翻刻付)

 
実も/\山のにしきや日の光り       嵩左坊
   東武下谷    笑嘯庵
 東濃桂庵の主老こたひ草庵に滞杖を幸ひ東武に
 致景なる里水の辺りに案内するに秋も央の風色に
           乗し思はす此日も黄昏(たそが)れ侍れは
桂影浸すゆかりや墨田川 琴和坊
 秋の眺の望み是宵(このよい)       嵩左
おもしろい勤に替る季もしらて       閑寿坊
 つい立はつひたつて居る也        深喬
呉竹をもれて差日の匂やかに        調和
 野袴のはなされぬ役すし         杜岌

又も亦嘘につらるヽ味噌のかけ       路美
 光つて嗚て白雨の空           折我
逸参に権現山を飛ふ鹿の子         其陸
 身うけのもめにやる文使         何有
湯化粧もそこ/\にして耳に口       杜洲
 何所も掃除の五の日十の日        花狂
 
41     画像(翻刻付)

 
徐(おもむろ)に風もはこへは時かねも    似翠
 尾越の鴨の友はくれやら         昇宇
左遷も今は咄(はなし)のたねとなり     鴎宇
 酒とさえいやいつも長尻         寛路
咲すんは有へからずの道の花        山郷
 花からはなに言の葉のはな        桂静
   名禄
照り合ふた夕日は落て紅葉かな       調和
松かけも染つてそよく花野かな       桂静
麦つひた皃(かほ)見違るおとりかな     路員
遊はせる子にも曵せる嗚子かな       何有
実をもらふ約束遠き接木かな        杜岌
暑き日や軒に光つて蜘の糸         花狂
疲て行野山のおくや秋の風         折我
殕(かび)くさい借着袷や秋の雨       似翠
すむ月の影も戦(そよ)ひて芒(すすき)かな  鴎宇
 
42     画像(翻刻付)

 
蟻ふひて筆子の分るいちこ哉        杜洲
こふ咲はいらぬ暦や冬至梅         閑寿坊
咲せたる露に依怙(えこ)なし草の花     山郷
つむ雪や晦日の闇は海に見せ        深喬
水影の山は何国そ夕かすみ         昇宇
遠く買ふ灯し油や鹿の声          寛路
   東都三夜の吟
待宵や出ては仰く御殿山          嵩左坊
名月や耳にも障る物はなし         ヽ
既望(いざよい)や筆を転して隅田川     ヽ
   浅間山
颪(おろ)し吹や目なしむ嶽のゆふ煙     嵩左坊
   鵞湖遊覧
秋澄や水うみ白ふ浮ふ不二         仝
   信陽     福嶋
嵩左坊は北越行脚(あんぎゃ)をすまし無事に故郷に
 
43     画像(翻刻付)

 
 向ふと聞えけれはその着を祝して
               白鶴楼
桟や蔦(つた)もにしきを餝(かざ)る今 老君
 伏しつ仰きつ帰るさの月         嵩左
剃たての髯(ほおひげ)のあと冷つきて    洗志
 にはななるらん薫りふん/\       柳江
何とやらいわれ有けな軒廻り        雲巒
 下りては又もつひと飛ふ鳥        琴風

手習もうはの空なるわやく連        備葉
 神ぬしとのは此冬も留主         鬼睡
ふりつもる事也雪の白妙に         春明
 松のけしきも長堤すし          志雲
言訳はおかし先度の浮気さた        呼凉
 女てはマアありそその愚痴        閑廬
おとのみに夕立風の吹て行き        一岱
 波にも影の連りし山           梅夫
御所望に武略の外のたしみ芸        臺峰
 
44     画像(翻刻付)

 
 一つは後と喰ひのこす餅         元甫
耕もとヽきて花の節句前          蘭重
 温故知新の道広き春           志水
   名禄
曇ほと岌(たこ)ふなりし山さくら      春明
埋火や余程更(ふけ)行灰の形        蘭重
野遊や相伴させる仕入駒          賀若
落葉して跡に面難(つれな)し峯の松     鬼睡
ふたつとは叟(おきな)もとらす唐からし   呼凉
何所やらに人のこえあり夕霞        琴風
打水や居直したるすヽみ台         文狂
尼寺の菊しほらしや仮名の札        志雲
ゆふ顔や花ひとつ暮ふたつくれ       備葉
香もひろき世とは也けりむめの花      雲巒
                 女
かヽみ行舟の小唄やおほろ月        梅志
さつはりと髪も直して衣かえ        さえ
 
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                 ヽ
行はるやくわらりと明て針仕事       たき
                 ヽ
稚児(おさなご)にゆり起されつ春の雨    きら
                 ヽ
ふわ/\とたつは古葉か春の風       たま
                 ヽ
道/\も若子の根とひや涅槃(ねはん)像   てい
                十二重
狗を抱て迯(にげ)こむしくれかな      吉松
玉とちるかせや柳のひと雫         廬峰
わけ/\し谷数いくつ薬堀         志水
かんこ啼や雨のほろ/\梺(ふもと)道    元甫
けふは最(も)ふ風のあしらふ柳かな     楳夫
縄張ておとした雁もわかれかな       一岱
うくひすや枝うつり/\しては啼      柳江
雲晴て名残をしきや后(のち)の月      一秀
染ものに邪魔して行し時雨かな       里鳳
目覚しになる一輪のほたん哉        洗志
 曽川岨道の名蹴より道祖はせを庵の遺詠を崇て
           末世不易の徳光を祈り/\
桟(かけはし)やつたひ伝はる蔦(つた)にしき 嵩左坊
 
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   短歌一折
              上松
                蘇交
拍子ある中に淋しき砧(きぬた)かな
 松風そふて月も更る夜          嵩左
召さるヽも明日の角力の異様に       呉山
 あとは誰也髪の順はん          梅裏

繋たる駒の飼食ふ音たてヽ         一茶
 雲もさはかす冬□の空          精美
垢離(こり)とりて雪を欺く手を合せ     枝成
 思ひかけしも地下ならぬ方        梅孚
りん/\と鉄棒の音絶間のふ        子燕
 三寸(ミキ)ともよんて徳あるは酒     周二
咲すヽむ花も南の梢から          芦英
 木曽路えもとる鶯を友          筆
   名禄
いろ/\に咲て淋しき花の哉        枝成
蛍見やこヽろに叶ふ宵の雨         精義
 
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江に移る影も風情の柳かな         梅孚
             女
結ふ手に振袖ぬるヽし水かな        たの
時鳥(ほととぎす)こ影にゑらみはなかりけり 呉山
山寺に宿乞ふくれやかんこ鳥        蘆英
日に細り月に肥たる氷柱(つらら)かな    一茶
池水の濁れと清しかきつはた        周二
波高ふひかり尖(とがり)し冬の月      子燕
   表六句       荻原
あふ向は松のこほすや露時雨 其仙
 月も明石の浦の朝□           嵩左
音色迄筐(かたみ)の笛の秋さひて      齢芳
 小粋にねたり言を禿(かむろ)の      佳英
正直を守れは神のおしえにも        其晁
 尾越の鴨の無事に此度          其慶
   名禄
くるえとも羽おとはたヽぬ胡蝶哉      其晁
 
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左右の手に押える琴やほとヽきす      齢芳
霞けり白帆のならふ沖静          佳英
山寺のひとりに太きほた火かな       其慶
   短歌一折     須原
              錦水
鹿なくや野山に移る人こヽろ
 心の月の澄庵もかな           嵩左
墨壷の糸にも露のうるほふて        冨一
 めし時告る螺貝(ほらかい)のおと     梅枝

つかふにも遣ひ安さの居候         意晁
 矢走/\と冬□の空           里朝
枯蘆の穂錦かはつと白ひのは        里遊
 ふり向せたらおほこてはなし       笑咲
阿房らし何所て呑てのそめき衆       可慶
 十し黒日と過て祝ひ日          梅宇
文なくも只清らかに神の花         廬因
 歌よむ鳥も此道の友           露暁
 
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   名禄
夕立や待ぬ向ふの山をふり         廬因
            女
吹風は松にこたえて冬木立         ふき
郭公(ほととぎす)啼や雨もつ薄月夜     里遊
落のこる月はしらけて雉子(きじ)の声    露暁
行秋や一枝紅葉染のこり          笑咲
和らきのもとひや宇治の茶摘哥       里朝
見るほとの物の淋しき枯野哉        梅宇
湯戻りの眠誘ふや朧月(おぼろづき)     可慶
茸狩や友呼ひなから女連          意晁
麦秋や本町すしは琴の音          冨一
   表八句    野尻
            関路
静かさの空や行義に渡る雁
 来にけり秋も豊なる月          嵩左
囲れは女郎花よりあてやかに        鸝芳
 完尓(にこ)り/\と神酒を相酌      影宇
 
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下ケるほとさけて相場も捻(ひね)りかけ   二霍
 矢のことく飛ふ宇治の川舟        桂露
鉢巻に悴けも見せすはやり歌        我省
 営み栄えて松に葉竹に          呂交
   名禄
何となふ寝こヽろもよし春の雨       影宇
菜の花や眺め尽せぬ長縄手         桂露
つみたらぬうちは誠の摘菜かな       二霍
戦(そよ)く影池に漂ふ柳かな        我省
長閑さや空にも鳶(とび)の輪を結ひ     鸝芳
 不思議に関東行同杖の文約も同門通志の因みかし
 さは聊(いささか)の支へより発途のあとをしたひし桂庵老主に
 巡り合ひしを悦ひて
           東肥
             湖山
長月や永日から跡追ひしたひ
 逢ひあふ影も露晒(し)れの笠      嵩左
  衣重陽に改されは頻(しきり)に古郷の恋しうて
菊うりの里間ふてけふを慰みぬ      嵩左坊
 
51     画像(翻刻付)

 
   表六句        三留野
                 梅風
花野/\春は斯ふとも知らさりし
 移るや月も霜と置く露          嵩左
厳(おごそか)な試楽(しがく)の笛の音もすみて 和友
 また殿附の内義ふらるヽ         其重
筒井戸はむかしなからの水鏡        三子
 ぬくめ鳥飛ふ生の松原          香静
   名禄
牛牽(ひき)てひとりもとるや秋の暮     三子
短冊は雨にちきれてさくらの実       和友
業/\仕舞ふてからか門すヽみ       其重
行春やたんさく斗(ばかり)残る枝      香静
   表八句       妻籠
稾焚は埃り立けり秋の暮    止一
 関屋のあとも替らぬは月         嵩左
初鷹の獲(えもの)は贄(にえ)に備りて    亀員
 
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 にこり完尓ほや彼(かの)御気に入     甫仙
鼻の先にふら/\見える美目自慢      亀三
 水も玉江の裾長しなへ          可松
おとつれも林鐘律とあらたまり       其霍
 然らは氷餅を賞翫            賀松
   名禄
羅(もら)ふても欲にはいらぬ唐からし    其霍
おとなしう咲て愛らし女郎花        甫仙
短さくに花やのこして桜の実        可松
ゆすり/\ちる葉散らすや梅嫌       亀三
鳥もこヽろありてやとるか今年竹      賀松
雲去つてうたかひはれつ山さくら      亀員
   表八句               湯舟沢
              豊路
露白ししつけき野路の朝ほらけ
 のこれる月に啼や鶉の          嵩左
彼君の忘れ扇と手にふれて         三志
 
53     画像(翻刻付)

 
 八嶋の方へむける陰膳          虎睡
さはつひた斗(ばかり)に風のおさまりし   柳和
 糞もとヽかす兎角やせ畑         麾扇
つかもない所へ竹の子是は扨(さて)     五出
 家土産もよし凉しみの夏         二川
   名禄
我かけと知らて狂ふか水に蝶        虎睡
舟つけて鴫たヽせたる夕へかな       柳和
 
起て見つ寝て見つ椽の夕涼         二川
友とては沁(しみ)る茶のみそ冬籠(ごもり)  三志
しくるヽやかけつはすれつ虹の橋      麾扇
   短歌一折      馬篭
               古狂
霧雨やひそ/\細る庭燈籠
 月も名残の風炉に寄る友         嵩左
菜の栄えニも鱸(すずき)のきり目にて    文雅
 海の山のと広ひことなり         一桴
 
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脱時は稀に達者て蒲脚半          雄虎
 おろかにしては居れぬ御仏事       霞悠
きよらかな水仙の咲朝日うけ        其調
           女
 ひよ子も連て遊ふ庭鳥          盧因
全盛と諷(うた)ひしもまた近ひ頃      峨裳
 こちらも文に欺され仲間         梅丘
草津湯の花は奇妙と専らに         至徳
 松も翠(みどり)に顕はるヽ色       士中
   名禄
空すんて風もの/\し后の月        文雅
流には影もゆれるやかきつはた       峨裳
買ぬ先にあふいてみたる団扇(うちわ)哉   雄虎
昼かほや露の情は知らぬふり        至徳
媚きし花遠近や夏の山           一桴
白萩や手折袂(たもと)に雨雫(しずく)    其調
                 女
永き日や狂はぬ箴(しん)のおとをほめ    盧因
 
55     画像(翻刻付)

 
錦するや梺(ふもと)の海も染るかけ     梅丘
追ふよふに夕日の影や山時雨        霞悠
弥増(いやまさ)る影たのみけり十三夜    士中
   表八句         山口
馬場引けしあとや静に虫の声  鬼笑
 影は常盤(ときわ)の木の間洩(もれ)月   嵩左
懐(ふところ)に恨の釘の冷つきて      鷺兮
 夢てあつたか思ひはつかし        佳笑
くわら/\と釣瓶の音のくわら/\と    文里
 伊丹の里のいつも賑やか         子啓
見舞ふか神の御留守は称宜も隙       魯由
 いけるなら今寒菊の頃          亀由
    名禄
鶯のはる音や今朝の日の光         魯由
雪の朝や鳥も留り木立おしみ        鷺兮
朝風にちつたは露か萩の花         文里
 
56     画像(翻刻付)

 
            少年
争ふてちきる手柄の熟柿哉         佳笑
柴焚てはるヽ間待ん村しくれ        子啓
すヽしさや掬(きく)する水に移る月     亀由
    表八句              田立
鳩ふくや隔てヽいかぬ真似の声  文考
 梢ほの/\明ほのヽ月          嵩左
秋津国天照らす神まし/\て        栄左
 恥かしいやら嬉しひえにし        一茶
相酌に灯しも忍ふうら座敷         文圖
 風もしつかに波のいさやふ        甫才
八専は一時日迄に夏至の中         和住
 残るあやめの翠簾に移り香        美酔
   名禄
移る星の影もおほろや啼蛙         和住
水車ついとくヽるやみそさヽゐ       文圖
漕下す桴(いかだ)追行しくれかな      甫才
 
57     画像(翻刻付)

 
そよ吹し風もとこえかはつさくら      美酔
 霞とヽもに草庵を立出蔦の若葉に木曾の桟を
 覗き仏都参籠恙く名蹴勝地は更也越路は数多(あまた)の
 籬(まがき)を敲(たた)き武蔵野ヽ良夜に交遊を尽し/\
 後明の今宵無事に帰庵を祝しぬ倩(つら)/\(つら)所々の
 慈愛の程を思ふに山海の恩沢頭陀に実入て三季
 に渡る旅遊こヽろに充満するより爰に
            かしこをかえり見/\
あふ向きつ俯きつ后の月の霜        嵩左坊
  帰庵鳥    西濃 雪香師庵
花の雪に餞別の一章を授けし嵩左老人や
信蜀をはしめ越路東武と遊歴ありしにこそ爰
道の繁栄大かたならさるは全く人和の行届たる
故ならんさは春夏秋の三季に渡り花郭公(ほととぎす)といひ
名にあふ更級(さらしな)の月に興し嘯(うそぶ)きしは誠に
時を得し羈旅(はりょ)にして聊(いささか)恙(つつがな)く芽出度草庵迄
帰杖せしは春秋後明の此日なれは猶(なお)もはれ/\しく
正に道の功(いさお)しならんと悦ひ寿きて
 
58     画像(翻刻付)

 
   歌仙行
             友左坊
旅もとり祝ふゆかりや豆名月
 月に脱得て笑はるヽ笠          嵩左
蟷螂(とうろう)の及はぬ斧を身構えに    逸歩仙
 謂れ有けな明屋敷なり          綾花
御奉行は訴訟にしつと首傾け        里喜香
 灸のかゆみこらへ/\た         影三

埃りたつ風もさつはり吹□(な)いて     其兆
 ひとつふたつと殖る漁り火        知一
子僧等は夏経かすめは友を呼        右麦
 草履かくしに汗流し居る         克巳
ねしれ松根上り松にころひ松        巒化
 古ひ事そや龍の天上(てんじょう)     梅伍
同じ鍋の傍輩(ほうばい)なから翠簾の内   鸝三
 くさり縁かひわしとそなたは       波光
朔日も常の通りに暮て行き         里桃
 
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 何所をあてにか鷺のふは/\       春甫
うるはしう江にも映ふ花の栄々       鳳二
 長閑な宴につヽる詩(からうた)      有翠

薄綿に三人り三色の天窓(あたま)形り    完古
 神もさま/\和光同塵          その
棚引し雲に赤根の日影山          梅思坊
 憩ふ立場に直す乗敷           蘭尓
是見やれ百文銭をいたヽいた        茶兮
 春と移れと年の内から          里友
芬々と香も包すに雪の梅          士游
 艶な唱歌にこヽろひくのか        羅洲
悪しやれの擽(くすぐ)りいやとあちら向   左園
 飛ふかことくと帆に走る舟        帰慶
折もおりと空澄きつて宵の月        湖山
 恐入たる菊地の御成           つや

焚きなれた粟めしてなし水加減       花水
 
60     画像(翻刻付)

 
 すて鶏そふなうとふ事なか        あい
町の名も山門筋のたヽ広ふ         隆宇
 金字に太ふ何の札やら          凉宇
いさほしそ勤てはれの道の花        風二仙
 遊ひ霞す越路武蔵野           幾昔
   名禄
鴫立つや舷(ふなばた)たヽく仕舞ふね    逸歩仙
むら雲はあとに静や渡り鳥         士游
鹿啼やほつと雨間の峯の月         完古
飛石をひと足下りつ露の萩         梅思坊
ひと里の夜はまたくらしむめの花      右麦
日の影は水に流して夕すヽみ        有翠
出代や算えたけふはけふなから       影三
蛙なくや夜は屋根/\の雪雫        里桃
有明の月あか/\と雪の山         知一
建添の窗(まど)に新らし二度の月      波光
 
61     画像(翻刻付)

 
朝/\も秋は秋なから烽(あき)の暮     里喜香
用のない広間を歩行く暑さ哉        里友
吹うちはこらえて芥子の散りにけり     巒化
のとかさや沖遠ふ出るつりの船       蘭尓
五月雨や里もいさやふ夕けふり       春甫
差別なふ人のうかるヽさくらかな      梅伍
桃折るや乳母の背借りて娘の子       その
松ひと木あなたに諷ふ枯野かな       茶兮
はつとたつは鳥か木の葉か朝しくれ     其兆
咲うちは寮賑はしや百日紅         綾花
雁一羽二羽と指さす月夜かな        羅洲
此頃は世事も忘るヽさくら哉        克巳
夕晴の空はこかれて青田かな        鸝三
心まて移りて清し今日の月         左園
聞て寝し時雨の窓や夜半の月        風二仙
風の香や風鈴ひとつふたつ鳴り       雪香園
 
62     画像(翻刻付)

 
  祝吟通題            桂庵連
 老父の素願時を得て花見月に発途を見立后の
 月見に帰杖を出迎てその堅固はいふも更に家族
 恙く今宵の詠をつらねて花に月にかつら庵の
              不易を希ふ祝意
留主の戸や菊も咲せて後の月        幾昔
                     肥後
寄る汐のおと冷しや後の月         湖山
すかしよき枝葉となりぬ后の月       花水
                 女
客の数も違はて嬉しのちの月     つや
                 ヽ
豆引てあと見かえれは後の月     あい
世はたのし我もふたヽひ月見とハ   帰慶
代りなき花のかつらや二度の影    凉宇
ゆたかさの秋なり世なり二度の月   隆宇
 
63     画像(翻刻付)

 
   静庵
夫れ人の名利の場に立ち、衾影(きんえい)に媿(はじ)無く、国家を補する有りて、
身名倶(とも)に泰き者や、士人得意の境也。茅舎
数間、田園粗に足りて、舎哺(しゃほ)鼓腹(こふく)、丘壑(きゅうかく)治む可き者や、
農夫得意の境也。大厦(たいか)を結構し、輪魚(りんぎょ)規
矩(きく)尺寸、準を為して、画棟は重簷(えん)を施し、目を奪う者や、
巧工(こうこう)得意の境也。家に余緡(よきょう)を蔵し、梯航(ていこう)萬里、
賤(せん)に販(う)り貴に売り、身を営み家を肥す者や、商売得意の
境也。之を徐非(じょひ)して一等上乗の者有り。芳声四方に馳せ、
単身盤游(ばんゆう)、妙蹤(みょうしょう)を探り、勝賞を訪ね、行止、惟
意の適ふ所に随ひ到る処、良友路に相迎へ
明窓軟榻(なんとう)の中に笑談す。一番一茶の中に周旋して、
大に後進を誘掖し、騒人の分を極むる者や、桂庵
得意の境也。今梓に上する者は、其の得意の唱和の吟也。
名づくるに花雪を以てする者は、其の途に上りし日、落花雪の如く、
蓋(けだ)し老師の賤章(せんしょう)、之を載する有りて、其の情景の
真に忘る可からざるを以てならんや。 天保辛丑静庵澤田重
徽、養心茶房に書す。時に上春なり。 刻  刻
                  陽  陰