絽紺地裾暈し単0102
絽紺地裾暈し単
(1) 右袖
はるたつ(春立)といふはかりにやみよしの(吉野) ゝ  山もかすみ(霞)けさ(今朝)(見) ゆらむ

<出典>
古今和歌六帖第一・No.4・壬生忠岑

<現代語訳>
立春になったというだけで、まだ雪に覆われているはずの吉野山も、霞んで今朝は見えるのだろうか。
(2)前身頃・右上
あきかせ(秋風)はつかり(初雁) かねそ(聞)こゆなる  (誰)たまつさ(玉梓) をかけて(来) つらむ

<出典>
(古今和歌集・巻第四・秋歌上・No.207・紀友則)

<現代語訳>
秋風に乗って初雁の声が、そら、見えるよ。誰の手紙を身に掛けて来たのだろうか。
(3)前身頃・左上
みわた(見渡)せはやなき(柳)さくら (桜)をこきませ(交)て  みやこ(都)はる(春) にしき(錦) なりける

<出典>
(古今和歌集・巻第一・春歌上・No.56)

<現代語訳>
はるかに見渡すと、緑の柳と桜の花とが混じりあって、都こそがまさに「春の錦」の織り物なのだ。
(4)左袖
(行)きやらで山(路)くら(暮)しつほとゝきす(時鳥)   いま(今)ひとこゑ(一声) (聞) かまほしさに

<出典>
(拾遺和歌集巻第二・夏・No.106・源公忠朝臣)

<現代語訳>
そのまま先に行くことができないで、山道で日を暮らしてしまった。時鳥の声をもう一声が聞きたいばかりに。
(5)前身頃・右中
こと(琴)(音) みね(峰)まつかせ(松風)かよふらし  いつれの(緒) よりしら(調)そめけん

<出典>
(古今和歌六帖・第五・No.3397)

<現代語訳>
琴の音に、峰の松風の音が似通っているように聞こえる。いったいあの松風は、どの山の尾―琴の緒―から美しい音を奏でだしているのだろうか。
(6)左褄
そら(空)ゆくつき(月) ひかり(光)にたゝひとめ(一目)  あひ(見)ひと (人)ゆめ(夢)にし(見) ゆる

<出典>
(万葉集・巻第四・相聞・No.710・安都扉娘子)

<現代語訳>
空を行く月の光で、ただ一目にかかっただけの方が夢に見えます。
(7)前身頃・左下
ころもて(衣手)(取) りとゝこほり((泣)く子にも まされるわれ(我) をおきていかゝせん)

<出典>
(万葉集・巻第四・相聞・No.492・田部忌寸櫟子)

<現代語訳>
衣の袖に取りすがって泣く幼児にもまさる思いで、別れを悲しむ私を残して行かれて、私はどうしたらよいでしょうか。
(8)前身頃・左下、右下
あとたえ(跡)(絶)ひと(人) もわけ(来)なつ(夏)(くさ)の  しけ(茂) くもゝのをおも(思) ふころかな

<出典>
(相模集(第3巻)・夏・No.541)

<現代語訳>
足跡が絶えて誰も草を分けて訪れない家の、茂り放題の夏草のように、絶え間なくたくさんの物思いを募らせるこの頃よ。
(9)右(後)袖~後身頃右
(行)きやらで山(路)くら(暮)しつほとゝきす(時鳥)   いま(今)ひとこゑ(一声) (聞) かまほしさに

<出典>
(拾遺和歌集巻第二・夏・No.106・源公忠朝臣)

<現代語訳>
そのまま先に行くことができないで、山道で日を暮らしてしまった。時鳥の声をもう一声が聞きたいばかりに。
(10)右後袖
人のおや(親)こゝろ(心) やみ(闇)にあらねども  (子)おも(思)みち (道)まよ(迷) ひぬるかな

<出典>
(後撰和歌集巻第十五・雑一・No.1102・兼輔朝臣)

<現代語訳>
子を持つ親の心は闇というわけでもないのに、親たる者、子供のこととなると、道に迷ったかのように、どうすればよいか分からず混乱してしまうことですよ。
(11)後身頃左~左(後)袖
ひくらし(蜩)の((鳴) きつる)なへに(にち)(暮)れぬと  おもへ(思) は山のかけ(陰) にそありける

<出典>
(古今和歌集・巻第四・秋歌上・No.204・読み人しらず)

<現代語訳>
「日暮らし」の名の通り、「蜩(ひぐらし)」が鳴きはじめると同時に日が暮れてしまう、と思ったのは、ちょうど山の陰だからだなあ。
(12)前身頃・左中
人ならは(待)てと(言) ふへき(を)ほとときす(時鳥)  またふたこゑ(二声)(鳴) かて(行) くらむ

<出典>
(三十六人撰・No.117・元真)

<現代語訳>
もし人間ならば待ってほしいというところだが、時鳥は二声と鳴かずに(一声で)飛び去ってしまったよ。
(13)右褄
ところ(所)(狭) くたつかやり(蚊遣)火のけふり(煙) かな  わか身もしたにさこそしかるれ

(出典不明)

<現代語訳>
蚊遣火の煙が立ち上り、辺り一面、煙が覆っている。そうであるため、私自身もその中に居るから煙に覆われている。
(14)右褄
ひとへ(単衣)なるなつ(夏) ころも(衣)うす(薄)けれど  あつ(暑)しとのみも(言) はれぬるかな

<出典>
(相模集(第3巻)・夏・No.117)

<現代語訳>
単衣の夏の衣は薄いけれど、「暑い」という言葉ばかり口をついて出てきてしまいますよ。
(15)右衽裏
わす(忘)れつゝゆめ(夢) かとそおも(思)おも(思)ひきや  (ゆきふみ(雪)(踏) (分)けてきみ(君)(見) むとは)

<出典>
(古今和歌集・巻第十八・雑歌下・No.970)

<現代語訳>
記憶も失せて夢かと思う。かつて思っただろうか雪踏み分けて、君を拝見しょうとは。
(16)左衽裏
ひさかた(久方)なか(中) におひたる(さと(里)なれは  ひかり(光)をのみそたの(頼) むへらなる)

<出典>
(古今和歌集・巻第十八・雑歌下・No.968・伊勢)

<現代語訳>
久方の月と言い習わすその月(后の宮)の中に生まれた桂の里ですので、当然のことながら、中宮様にたとえられるあの月の光のお恵みだけを、頼りに致していることです。
(17)前身頃・左中~衽
あひ(見)てののち(後) こゝろ(心)にくらふれは  むかし(昔)はものおも(思) はさりけり

<出典>
(古今和歌六帖第五・No.2598・藤原敦忠)

<現代語訳>
愛情を交わした後の思慕の情の切実さを比較してみれば、逢瀬以前の心情は物思いとは言えない程取るに足らないものだ。
(18)左(後)袖
こと(琴)(音) みね(峰)まつかせ(松風)かよふなり  いつれの(緒) よりしら(調)そめけん

<出典>
(古今和歌六帖・第五・No.3397)

<現代語訳>
琴の音に、峰の松風の音が似通っているように聞こえる。いったいあの松風は、どの山の尾―琴の緒―から美しい音を奏でだしているのだろうか。
(19)後身頃・左中
あき(秋)(来)ぬと(目) にはさやかに(見)えねとも  かせ(風)の(おと(音) にそ)おとろ(驚) かれぬる

<出典>

(古今和歌集・巻第四・秋歌上・No.169・藤原敏行朝臣)
<現代語訳>
秋が来たと、目にははっきりと見えないけれども、風の音に、ふと、感じられるようになった。
(20)背中心~後身頃・左中
やま(山)かつと(ひと) (言)へともほとゝきす(時鳥)  (待)はつこゑ (初声)われ(我)のみそ(聞)

<出典>

(拾遺和歌集巻第二・夏・No.103・坂上是則)
<現代語訳>
山人といって都の人は蔑むけれども、時鳥の皆が待ちわびる初声は、私だけが聞くのだよ。
(21)背中心~後身頃・左中
(逢)ふことの(絶) えてしなくはなかなか(中々)に  人をも(身)をもうら(恨) みさらまし

<出典>
(拾遺和歌集巻第十一・恋一・No.678・中納言朝忠)

<現代語訳>
逢うことがまったくできないのなら、なまじっかあの人のことも我が身の上も恨まないでいよう。
(22)後身頃・右下
あきかせ(秋風)はつかり(初雁) かねそ(聞)こゆなる  (誰)たまつさ(玉梓) をかけて(来) つらむ

<出典>
(古今和歌集・巻第四・秋歌上・No.207・紀友則)

<現代語訳>
秋風に乗って初雁の声が、そら、見えるよ。誰の手紙を身に掛けて来たのだろうか。
(23)後身頃・右下
わか(和歌)うら(浦) しほみち(汐満)くれはかたをなみ  あしへ(葦辺)をさしてたつ(鳴)きわた (渡)

<出典>
(万葉集巻第六・雑歌・No.919・山部赤人)

<現代語訳>
和歌の浦に潮が満ちてくると干潟がなくなるので、葦のほとりを目指して鶴が鳴きわたることだよ。
(24)後身頃左裾・右裾
(見)る人もなくてちりぬるおくやま(山) の  もみち(紅葉)よる(夜)にしき(錦) なりけり

<出典>
(古今和歌集・巻第五・秋歌下・No.297・紀貫之)

<現代語訳>
見る人もないままに散ってしまう奥山の紅葉(もみじ)は、まったく「夜の錦」であったのだなあ。