正月近くなって来ると、畑仕事の手伝いもなくなった男の子達は、たこ揚げに熱中しはじめます。先ず、竹藪から切ってきた青竹で竹ヒゴを作り、竹ヒゴの交叉する所や四隅には縒(こより)を巻きつけて、餅のりが付き易いようにしてから、西ノ内紙などの和紙を貼りつけます。たこの下部にうなりを付けたり、糸目には細心の注意を配ってから友達同志で揚げるのです。
家の南側から、今の中村小学校あたりを越え、田中稲荷の方まで見渡す限りの田畑がひらけ、障害物なんぞ何もありません。男の子達は寒い北風に吹かれながら、水っ鼻を筒っぽの袖口でこすりあげつゝ、麦畑の中道や、枯田の中を思う存分駆け廻っては、紺碧の大空に長方形のたこや、飛行機だこを揚げて、冬の日を過すのです。