二十日正月も過ぎ、再びもの静かな農村にたち返ったかと思われる頃、三河万才が泥んこの霜解け道を、朴歯の下駄で廻って来ます。鳥帽子に直垂をつけ、ひょうきんな才蔵を供にやって来ます。座敷にあがった万才は、神棚の下で「ハア、ポンポンポン」と鼓をたたいては、面白おかしくこの家の繁盛を唱い納めて行くのです。障子のすき間から、笑いを噛み殺して見ていた子供達を、目ざとく見つけた才蔵は、逃げ出す子等をわざと奥の方まで追いかけ廻してのサービスです。
背中一ぱいに羽をひろげた鶴が飛ぶ直垂の、幅広の袖を北風にゆらし、袋を背負った才蔵と共に、末枯れ果てた夕日の畦道を去って行くのです。お正月と一緒に消えて行ってしまうのです。