節分

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 荒浪のように、竹藪や屋敷林に吹き荒れていた北風も弱まり、庭先の梅の蕾もふくらみ始めるとそろそろ節分がめぐってきます。
 節分の日、昼間のうちに玄関の大戸や、戸袋、とんぼ口(土間への出入口)、下の便所の入口まで、すべての出入口には竹串につけた目刺しの頭と、ひいらぎの小枝をさして置きます。鰯の頭が嫌いだなんて、鬼もやっばり人間様並みに好き嫌いが激しいのでしょうか。
 豆殻をパチパチと燃やし、ホーロクで煎った大豆は、一升桝に入れて神棚にあげて置くのですが、子供達は、何となく夜が来るのが待ち遠しくて仕方ありません。
 暗くなると例によってカチカチと切火したお灯明が、仏壇や神棚に灯されると、やっと豆蒔きが始まります。一升桝を抱えた父親がどら声を張りあげて蒔き始めます。蒔き終った出入口から再び鬼が入って来ないように、慌てゝ戸を閉めるのは子供の役目です。
 家の中が済むと今度は屋外の祠です。庭先の三っ峰様のお灯明だけが、真暗闇の中に、赤くチロチロと燃えています。吹く風も何となく春めいて、オリオン星座も美しくまたゝく頃、ほんの少しだけ伸びた麦畑を越して、遠くの森からも「福は内」の声が、かすかに流れてきます。
 余った福豆は茶釜に入れます。黒茶色に艷良く燻された自在鍵に吊るされた茶釜が、しゅんしゅんと音をたて始めると、そだをくべていた母親は、「茶釜の豆が当った者は、良い事が有るんだよ」と、囲炉裏を囲んでいる子供達に、ひしゃくで湯を注いで呉れるのです。湯呑み茶碗に入った福豆を見つけた子供達は、今にも何か良い事が起るような、そんな期待で浮々するのです。