春が来ると、新屋敷の農家では井戸替えが始まります。つまり井戸水をすっかり汲み出して、井戸の掃除や、整備をするのですが、これも亦、組中の人が互に助け合って一年に一回行うのです。
先づ井戸側の上に丸太を組み、滑車をつけ、太い綱に結びつけた桶で井戸水をかい出します。水が少なくなった頃、下帯の上に、袢天だけひっかけた井戸掘のおじさんは、桶と一緒にするすると井戸の中に消えて行きます。そして底に積っている砂利や、崩れ落ちた赤土を桶に入れては掛声の合図をします。盲縞や紺絣の単衣に姉さん冠りをして上で侍っている組中の女衆や、袢天姿の男達が、掛け声と共に綱をひくと、去年うっかり落してしまった包丁や、砥石が、桶の中から出てくる事もあります。
井戸替えが済むと、井戸側にお神酒を供えて、今までのように美味しい水が豊かに湧き出ますように、井戸神様にお願いをするのでした。