「八朔」も過ぎ、畑の野菜も秋野菜へと移って行く頃、横笛の好きな兄は、一風呂浴びた縁側で、祭り囃子の練習を始めます。
お囃子の調べは、やたい、しょうでん、かまくら、しちょうめ、そしてやたいに戻るのですが、特に「しょうでん、かまくら」の調べは、笛が主役で、他所のお囃子よりも何となくゆったりとして、上品に聞えます。やはり京風好みの今川様の領地であったせいでしょうか。(中村の囃子は、神楽囃子などの混らぬ純粋に近いものなのだそうです。大切な文化財を何とかして残しておく方法は無いものでしょうか!)
「トロヒリヤイ トロロ トロヒャトヒャヒリ ヒヒーリ ヒリ……」と青白い月光に濡れつゝ祭りの笛を吹いていると
「良い音色ですなァ」
と、錠口から知らないおじさんが入って来たりもします。
祭りの日も近づいた頃、四つの集落の四人の長が相談して決めた日に、村の若い衆は、南蔵院から板や丸太を運んで来て、お神楽の舞台や、囃子屋台を作りはじめます。これにはかれこれ一日半はかゝってしまいます。祭りが来たら……、祭りが来るまでに……と精出して働らいて来た若い衆にとって、一番楽しい時なのです。