午後になって、身内の女たちは、奥の部屋で晒木綿を三尺三寸に裁って、経帷子(経かたびら)を縫い始めます。お祖父さんの旅の衣は、たくさんの人々の手によって、一針、二針と縫ってゆくのですが、どう言う理由か糸の先に玉留をしないで縫うのです。それに手甲、脚絆も左右別々の人が縫ったり、紐やコハゼも違う人が付けるのです。
夕方になって床の間近くに移されたお祖父さんの横に蓙を敷き、逆に伏せた盥が置かれました。真新しい下帯をつけ、盥の緑に腰かけて逆さ水で湯灌して貰ったお祖父さんは、ちょん髷も奇麗に櫛けずられ、経帷子を左前に着せられました。首からは白い頭陀袋を掛け、その中にお祖父さんが、この時の為にとしまって置いた四角い穴の一文銭六ヶを入れました。これは冥土ヘの旅の途中で、六地蔵様へのお賽銭にするのだそうです。鳥追いのような編笠や、手甲、脚絆にわらじを履き、杖をついたお祖父さんは、遠い彼の世とやらに旅立つわけなのです。
湯灌をした人々は、冷奴と、一升瓶からの冷酒でお清めします。