通学路にある石の地蔵様は、何時も足元に石を積んでは拝んで行く子も、道芝を結んで、後から来る子を転ばせてやれ…と悪戯(ワルサ)をする子も、皆一様におだやかなお顔で見ておいでなさる。そのあたりから振り向く西の空には、森の向うに遠い山々が望まれます。ことに武蔵野の大気が冷え、鋭どく冴え渡った朝は、とても素晴しい眺めでした。丹沢の山々を従え、ゆったりと立つ雪の富士、やゝ右手に、所々オレンヂ色に光るのは秩父連山です。その紫の山襞と、朝日を受けてオレンヂ色に輝く残雪とのコントラストは実にみごとでした。子供達にとって、それらの山々はとてつもなく遠く、それこそ何十日もかかって、やっとたどり着ける所と思われていました。一生に一度でいゝ、あの山の頂に立って、むこうの国を見てみたいと思うのでした。