7.明治7年4月30日

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廿六日出御書状廿九日着、有難拝見
申上奉り候、 君益御機嫌よく
御勤戴候との御左右伺、ま事有難
存上奉り候、左様御座候へ廿六日出
拝見候所、段々御心も解させられ候御書状
にて、ま事大安心、だん/\と私心もおち
付可申と有難かりまいらせ候、私心中は
廿九日出申上候通りの事ニ而、何分心
おさまり不申付、実つゝまず申上候へ
廿七日より浅草観音様へ相願、とふそ私の
心中、道中居候夫の腹中へ承知致
くれ候様厚相願、廿七日より一廻りの内精進、
尤朝四ッ時迄断食ニ而相願候程の事御座候、
御内入せられ候て行届ぬ事、との様御しか
られ申ても、おぶち遊候共、どんなめあい
候ても 旦那様の事ゆへ、との様も恐入
候へ共、長々の御留守中御内の様子も御存
なく心配つゝけの所へ、あの様成なる御書状
にて、御便り遠計の御腹立御書状御歌ニハ
なくと存られ、実残念至極存候間、
一心かけ候御事御座候、是がほんの
せつない時の神頼と申哉、何も今日の
御書状ニ而段々心も落付候事と有難かりまいらせ候、
もとより 君の御心中けがらわしき御事
御きらい、水くさい旦那様と存上す、人様
吹てふ致候程存上居候所、此度さも私か
水くさい者の様成御歌の様拝見、夫故
君も御道中ニ而余り大切なされ遊し、
御心替らせられ候事哉と存申上候へ共、是私が
拝見取違ひと、ま事恐入/\御めん/\
遊し候、右認中へ廿八日出御書状着、
繰かへし拝見、実/\恐入/\
御用中へ種々御苦労相かけ候段
何共/\恐入/\、元より何共恐入候、有難
生がい苦なし 暮候有難御言戴居、
ヶ様成御心あらせられ候筈はないと
存ながら、一ず何か御捨られ申た様な
心持相成り、ぼつとしてしまい、どふして
ヶ様成御心成せられ候哉と存、女ぐち
心出し、度々くど/\申上、何共/\/\/\
恐入/\/\/\めんぼくなく、甘六日・廿八日の
御書状ニ而只々恐入/\候計、山時鳥なそと
御申ニハ只々御自分の御身宿定めんと
の御心候哉なぞと存、私の身取候ては
こんな大へんな事御座なく、胸せまり
いろ/\申上候へ共廿八日出ニ而御歌等ま事
よく/\伺、ま事/\/\大々案心/\/\/\、
今日よふ/\夜明候様成心持相成り
有難/\/\/\御礼申上候、私の様成る
行届ぬ者ヶ様御認戴、実身ちゞみ
候よふ恐入/\/\候、御心替りも候哉と
御きんもつの御事申上、御心らせられ候
御事、只々幾重も/\恐入/\、真平/\
御めん/\遊候、君も御両親様の御ふと
ころより御出後、婦人御まよひ不被為有、私
とても御同様、男子かゝり候事御座なく
ゆへ、長々御奉公もいたし、御首尾よく御勤
戴、此縁へかへり大々案心のうへ、
君の御心と申、こんな嬉しき御事御座
なく、只々私の心 君計へ心尽し
候一すしゆへ、つゐ/\余り長々の御道中
あんしすごしのうへ、つまらぬ事申上、
何共/\/\恐入/\/\/\、とふそ/\真平/\
御めん/\/\願上奉り候、日々の様いろ/\
申上御座候へ共、もふ/\むねさつはりと
いたし候間、御覧すで(捨)に呉々も願上候、
御帰り御左右相知れ候ヽ御早く御伺せ
願上候、廿八日出拝見致せ致ほと恐入/\/\、
この後水くさいことなぞけして/\/\
申上す、真平/\御めん遊、君も御同様
願上候、峯さんの事も腹立まきれ
申上候へ共、元より御よわくゆへの事ゆへ
申上候気御座なく候所、峯さん余り
つまらなき事申ゆへつい/\申上、是も
いろ/\申せ皆私が不宜の事ゆへ、
蓮華院(※1)様へたいし候ても、私か不済ゆへ、
何も御病身ゆへの事と存居候間、御帰り
後御こゞと御めん願、只々私へ御うらみ
請候計、私とても常もなくかた/\
此だん願上候、私身も御あんし戴、実
恐入/\/\、是は女の役、子孫残ス
ための妻の事、旦那様さへ御機嫌
御宜あらせられ候ヽ、ちつ共/\苦ニハ成り
不申、只々早くうみ落し、丈ふそたで(育て)
君の御安心遊し候様成候へ、私外
なく、夫のみ願御座候、兼て頼置候
まき三両分出来、北沢より建さん(※2)
今朝一車御持被下、ま事ひつくり
いたし候程やすく、歓候事御座候、かた/\
認候間なく、今日嬉しさまかせ
おそく成差立候事御座候、万々年/\/\
            めてたくかしく
   なを/\御帰りのうへ万端
   御わひ申上候御事御座候
            めてたくかしく
    四月三十日午後
         二時比出ス
 
旦那様 申上     つけ
     人々御中

※1 蓮華院…峯次郎の将来を案じながら、前年死去した義母。

※2 北沢より健さん…賢次郎。敏克の縁故者か、柳沢家を支援し続ける。