これは田無の向台にあり、いまでも毎年きれいな花を咲かせ、その木にさわった者には幸わせをもたらすといわれるさざんかの木のお話です。
昔々田無村にさよというきだてのやさしい美しい娘がおりました。
さよは 死んだお父さん、お母さんが植えたさざんかを お父さんお母さんのように守り、シロという犬と仲よくくらしていました。
五月に入り、お茶の新芽も出そろったので さよも村娘達と茶摘みに出ました。
さよの白い美しい手はどの娘よりも早く上手に茶摘みができました。
ゴーゴーゴー
風の神様が通りかかりました。
風の神様は美しいさよを見て思わず声をかけました。
風の神
「おまえの名は何というのだ。」
さよ
「さよと申します。」
風の神
「おまえのような美しい娘は初めて見た。さよ!おまえをわしの嫁にしよう。」
さよ
「いいえ、いいえ、私はこうやって茶摘みをし、シロと仲よく暮すのが幸わせなのです」
風の神
「よーし、3日間考える間をやろう。もし断れば、わしの力の限りの風を吹かせよう。
そうなったら畑がどうなるかよく考えるがよい。」
「おまえの名は何というのだ。」
さよ
「さよと申します。」
風の神
「おまえのような美しい娘は初めて見た。さよ!おまえをわしの嫁にしよう。」
さよ
「いいえ、いいえ、私はこうやって茶摘みをし、シロと仲よく暮すのが幸わせなのです」
風の神
「よーし、3日間考える間をやろう。もし断れば、わしの力の限りの風を吹かせよう。
そうなったら畑がどうなるかよく考えるがよい。」
風の神はどこへともなく去っていきました。
さよはどうしたらよいものかと茶畑にたたずんで泣いていました。
そこへ幼ななじみの長左ェ門が通りかかりました。
長左ェ門
「さよさん、どうして泣いているのかい?」
「さよさん、どうして泣いているのかい?」
さよは恐ろしい風の神さまのことを話しました。
長左ェ門
「ひどい風の神だ。それなら私の家に隠れていなさい。」
さよ
「ありがとうございます。」
「ひどい風の神だ。それなら私の家に隠れていなさい。」
さよ
「ありがとうございます。」
ゴーゴー
三日後、約束どおり風の神様は、田無村にやって来ました。
風の神
「さよー、さよー」
「さよー、さよー」
ゴーッゴーッ
シロ
「ウーッ ワンワン」
「ウーッ ワンワン」
シロを見つけた風の神は、長左ェ門の庭をふき荒れながら、
風の神
「さよ、よいか、わしにさからうと、お前も畑も、こうなるのだぞ」
「さよ、よいか、わしにさからうと、お前も畑も、こうなるのだぞ」
そういったかと思うとシロをピューッと吹き上げ、バシッ!っと地面にたたきつけました。
さよを守ろうとしたシロは、かわいそうに、死んでしまいました。
さよ
「シロー…わかりました。私はお嫁に参ります。
でも、お茶のさし木をすませ花が咲き新芽が出るのを確かめてからにさせて下さい。」
「シロー…わかりました。私はお嫁に参ります。
でも、お茶のさし木をすませ花が咲き新芽が出るのを確かめてからにさせて下さい。」
風の神
「よし、それでは、来年の春にはまちがいなく嫁になるのだぞ」
「よし、それでは、来年の春にはまちがいなく嫁になるのだぞ」
さよ
「かわいそうな シロ」
「かわいそうな シロ」
さよはシロをしいがしの根本に、手あつく葬りました。
シロのいない淋しさと風の神さまの恐ろしさにとうとうさよは病気になってしまいました。
長左ェ門
「さよさん、元気を出しておくれ。
風の神さまがきても私がきっと守ってあげるから」
「さよさん、元気を出しておくれ。
風の神さまがきても私がきっと守ってあげるから」
長左ェ門はさよを力づけるのでした。
さよは長左ェ門の優しさにただ涙を流すばかりでした。
雪の降る寒い日に体の弱りきっていたさよはシロのねむっているところへ行きくずれるように倒れました。
さよ
「シロー、シロー」
「シロー、シロー」
…
さよがいないのに気がついた長左ェ門。
しいがしの根本にかけ寄った時には、すでにさよはもう息がたえていました。
さよはシロのいるしいがしに寄りそうように山茶花の花になりました。
それはさよのように優しく清らかな花でした。
春になり風の神さまがやってきました。
風の神
「さよ!さよは、どこだ。かくれていてもすぐわかるぞ」
「さよ!さよは、どこだ。かくれていてもすぐわかるぞ」
ゴー ゴー
風の神
「さよを出せ!そこの若いの。さよはどこだ!」
「さよを出せ!そこの若いの。さよはどこだ!」
必死でがんばる長左ェ門。
風の神様と長左ェ門との戦いは、なん日も続きました。
風の神様はとうとうあきらめて帰って行きました。
力の限りを尽くした長左ェ門は、そのままの姿で力強いいちょうの木になりました。
今でもシロのいるしいがしと長左ェ門のいちょうに見守られ、冬には美しい花を咲かせるさざんか。
春になると「さよ!さよ!」と今だに吹きあばれる風の神様。
でもその目にはとまらないことでしょう。
おわり