たぬき山ときつね山

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ちょっと昔 田無にゴットンゴットン 水車のまわる音や
プファープファーと乗合馬車の ラッパの音が鳴りひびいてたころの事
クリクリ目玉の元気な『与平』という男の子がいたんだよ

 「与平!! 与平!!」
与平
 「なんだい、おっ母さん」

 「ちょっとこれを向台のじ様の所まで届けてきておくれ」
与平
 「あいよ」

 「あの辺はいたずらタヌキやキツネが悪さをするから化かされないように気をつけるんだよ」
与平
 「うん、わかったよ」

 「この間だって隣のじ様が木の枝につるされたおにぎりを持って帰ったら 馬のフンだったそうだよ。キツネが悪さをしたんだよ。」

 
使いが済んで帰り道、山でうさぎを追いかけたり、石神井川で魚をつかまえたり、楽しく遊んでいるうちに、さあ 大変 いつの間にか夕方!!
与平
 「ああ、腹へったな……いそいで帰んなきゃあ!!」

与平は雑木林をぬけて野原を勢いよく走り出した。
与平
 「あれぇー!!」

野原のまん中の切株の上にお茶と一緒に、白いホカホカのおまんじゅうがのっかっていた。
与平
 「うまそうだなぁ!!」

与平は生つばをゴクリと飲んで手を伸した。だが
与平
 「まてよ。おかしいな?」

与平は出がけにおっ母さんのいった話を思い出した。
与平
 「やいやい!!おいらだまされないぞ」

切株を思いっきり足でけっとばした。
すると
ポン太
 「キャン」

と声がしたかと思うと、切株からみるみるしっぽがはえてタヌキになった。
ポン太
 「イ・テ・テ・テ・テ いたいよう」

タヌキは、オイオイなきだした。
与平
 「やっぱり思った通りだ!!やい、よくもだましてくれたな!!」

与平はタヌキをげんこつでポカリ!!
ポン太
 「ごめんよ、ごめんよ」

その時
女の人
 「与平ちゃん、ポン太をかんにんしてやって。そのかわり私のこしらえたおにぎりを召し上がれよ」

今まで見たこともないそれはそれはきれいな女の人が立っていた。
与平はタヌキのしっぽを離してやった。
与平
 「お姉さん、どこの人?おいらホントに腹ペコなんだ。ありがとうよ。」

手を伸そうとして「まてよ」と考えた。
与平
 「この辺に家は一軒も無いし もしかすると……。やい!! 一体お前は誰だ!!」
与平
 「やい しっぽを出せ」

与平が飛びかかると 女の人はヒラリと とびのいた。
そして おおきなしっぽを“ユサッ”と出した。
与平
 「こいつ!キツネだったのか!」
コン子
 「ごめんなさい!! あたいコン子っていうの、どっちがうまく化けられるか競争したの、
ねぇポン太ちゃん」

たぬきのポン太も草むらから出てきた。
ポン太
 「おいら達、与平ちゃんと遊びたかったんだ。」
与平
 「そうだったのか、よしよし。だけど今日ももうおそいから明日にしよう」
ポン太・コン子
 「うれしいな」
与平
 「おれ 早く家へ帰らなくっちゃ」
ポン太
 「近道ならこっちだよ」

与平がポン太に教えられた通り近道を帰ってゆくと、あれあれ 野原のはずれにお地蔵様が立っている。
与平
 「あ うまそうなダンゴがそなえてある。」

与平は思わずつばをのみこんだ。
与平
 「おいらホントに腹ペコなんだ。お地蔵様ごめんよ。」

と与平がダンゴを口に入れたとたん、ペッペッ!!
与平
 「わあっ!! なんだこりゃ、どろの団子だ」
コン子
 「与平さん どうしたの。」

とポン太とコン子がとんできた。
地蔵様(ポン助)
 「フフフハハハァハハハァ」

お地蔵様が笑い出し みるまに小さなチビダヌキになった。
ポン助
 「やった、やった おいらが一番だ」
ポン太
 「ポン助、お地蔵様に化けてバチがあたるぞ!!」
ポン助
 「だって 誰もおいらと遊んでくれないんだもの」
ポン太
 「与平ちゃんが怒って あした遊んでくれなかったらお前のせいだぞ」
コン子
 「そうよ、そうよ。」

そんなタヌキやキツネがおかしくて与平は楽しくなった。
与平
 「大丈夫だよ。明日みんなで遊ぼうぜ。」
ポン太
 「途中まで送ってくよ。」
ポン助
 「送ってくよ。」

与平とポン太とコン子とポン助は 仲良く手をつないで夕焼けの道を歩いて行った。
ポン太達が遊んだ向台六丁目の小さな二つの山は、いつの頃からか『タヌキ山とキツネ山』と呼ばれるようになったんだよ。
耳をすましてごらん
ほら、ポンポコポン、コンコンコンっていう音、今でも聞こえるよ。
 
(おわり)