ここは徳川尾張家のお鷹場です。今年も殿さまの鷹狩りの季節がきました。
村人たちは大変です。
殿さまの鷹狩りがうまくいくように畑を刈りとり道をなおします。
そして鳥や動物たちをむやみにとることも禁止されるのです。
しょう太たち子どもは、鷹のえさにするオケラ、どじょうとりをします。
生きたままとっておくことは、なかなか難しいのです。
子ども達は、先を争ってオケラとりをしています。
そっと抜け出して帰った女の子がいました。
みよです。
みよは病気のおかあさんとふたりぐらしです。
しょう太はこっそりあとをつけていきました。
みよのおけには何も入っていません。
しょう太は自分のとったオケラを全部みよのおけに入れてやりました。
その夜、池に人影がありました。
おしっこをしに外へ出たしょう太はあやしい人影に気付きます。
かってに池で魚をとるのはご法度です。
よその村では鶴をかってにとった男が死罪になったとうわさされています。
小さな影は水に入ってやはり魚をとろうとしています。
しょう太が近寄ってみると、みよでした。
しょう太
「なにしてるんだ?」
「なにしてるんだ?」
みよ
「あ、あたし…」
「あ、あたし…」
みよは泣きそうにうつむきました。
しょう太
「こんなところを大人に見られたら大変だ。早く帰ろう。」
「こんなところを大人に見られたら大変だ。早く帰ろう。」
みよ
「でも、かあさんの具合が悪いから鯉を食べさせて元気になってもらいたいの。」
「でも、かあさんの具合が悪いから鯉を食べさせて元気になってもらいたいの。」
しょう太
「わかった。おれがとってやる。」
「わかった。おれがとってやる。」
しょう太はびくを使って上手に鯉をとるとみよに渡しました。
男
「こらぁ ここで魚をとるのはご法度だぞ!」
「こらぁ ここで魚をとるのはご法度だぞ!」
村の鳥見役が見回りをしていたのです。
鳥見役というのは、殿さまの鷹狩りがうまくいくように、監視する役割の人です。
男
「このぼうず、代官さまに引き渡してやる。」
「このぼうず、代官さまに引き渡してやる。」
しょう太
「ごめんよー。ゆるしてくれー。みよ、これをもってにげろ!」
「ごめんよー。ゆるしてくれー。みよ、これをもってにげろ!」
男
「あ、こら 待たないか!」
「あ、こら 待たないか!」
運よくふたりはばらばらに逃げることができました。
鷹狩りの日がきました。
殿さまは大勢の家来を連れてやってきました。
行列の中にはあの鳥見役が村の様子を説明しています。
鳥見役
「つるや、サギ、キツネやたぬきもたくさんおります。」
「つるや、サギ、キツネやたぬきもたくさんおります。」
鷹が放たれ、えものに向って一直線に飛んでいきます。
鳥たちは羽ばたきながら逃げまどいます。
一頭の馬が鳥の羽ばたく音に驚き前足を上げると突然走り出しました。
山のほうへと走り、乗っていた侍を振り落すと走り去ってしまいました。
侍はがけに落ち、気を失ってしまいました。だれも人が通らないようながけです。
夕方、子どもたちはこっそりと木の実を採りに山に入りました。
あけび、山ぶどうをたくさん食べ、大きな栗の木があるがけに向います。
そのあたりには鷹に傷つけられた鳥の死がいもありました。
こども①
「あー、かわいそうに」
「あー、かわいそうに」
こども②
「しょう太 あそこに人が倒れているぞ」
「しょう太 あそこに人が倒れているぞ」
しょう太
「ほんとだ、おさむらいだ」
「ほんとだ、おさむらいだ」
するするとがけの下までおりると死んだように倒れているお侍がいました。
水を飲ませてみると、
さむらい
「ここは、どこだ。あいたたた」
「ここは、どこだ。あいたたた」
しょう太
「お侍さん がけから落ちたんだね 大丈夫かい?」
「お侍さん がけから落ちたんだね 大丈夫かい?」
さむらい
「そうか、馬に振り落とされ、ころがりおちたか。ぼうずたち助けてくれて礼を言うぞ。」
「そうか、馬に振り落とされ、ころがりおちたか。ぼうずたち助けてくれて礼を言うぞ。」
まだ若いお侍は雪左ェ門といい、その日はしょう太のうちで休んでいきました。
しょう太
「おさむらいさん、かあちゃんの作ったいもがゆ おいしいよ これを食べると、元気が出るよ」
「おさむらいさん、かあちゃんの作ったいもがゆ おいしいよ これを食べると、元気が出るよ」
芋の入ったかゆはごちそうです。
じっとみている子どもや年寄りに雪左ェ門は気が付くと心が痛みました。
次の朝、なんとか歩けるようになった雪左ェ門はしょう太に
雪左ェ門
「命を助けてもらったお礼に何かほしいものがあるか?ぼうず」
「命を助けてもらったお礼に何かほしいものがあるか?ぼうず」
と聞きました。
しょう太
「みよの母さんが治る薬が欲しい」
「みよの母さんが治る薬が欲しい」
としょう太は答えました。
何日かたってお城から包みが届きました。
そこには薬がたくさんと、金平糖が入っていたのです。
はじめてみる金平糖のきれいでおいしいこと。
村の子どもたちは一生忘れないでしょう。
のちに、しょう太に金平糖を贈ってきた雪左ェ門は立派な殿さまになり、人々を苦しめた鷹狩りもやらなくなったということです。
おわり