(2) 商・工業

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 太平洋戦争中の統制経済のもとで国内の商業は大部分転廃業のうき目をみたが、戦争がおわってもなお停滞気味の傾向にあった。
 当町域も例外ではなかったが、統制解除と経済事情の回復に伴い次第に好転していく営業者も増加する傾向がみられた。山武郡内に於ては東金を中心に、大網・成東・松尾・横芝などの市街地に相当数の店舗がみられるようになったのは昭和二十年代の後半からであった(『山武地方誌』)。この頃当町域の旧町村での商業を営む戸数をみると次のとおりである。
  大網町   一六四戸
  増穂村    二五戸
  白里町    九一戸
 大網町は戦前以来農業の他、商業の盛んな地域であったことは、これまでも度々ふれてきているので改めてくりかえさないが、昭和二十六年の「大網町町勢要覧」の産業別就業人口でこれをみると、その細かな内訳を知ることができる(表86)。
表86 産業別就業者人口
総 数
実数%実数%実数%
総 数4,6831002,71057.61,97342.4
農 業2,97374.51,43330.81,54033.3
林 業165.3153.312.0
水産業10.610.6
鉱 業10.610.6
建設工業1543.11522.920.2
製造工業4889.93647.91242.0
電気及水道業100.290.1910.01
商 業2886.11864.61021.5
金融業320.6200.4120.2
運輸通信業2535.72275.3260.4
サービス業931.9450.9481.0
自由業831.8551.3280.5
公務及団体2293.11662.0631.1
その他の産業623.6362.1261.5
(「大網町町勢要覧」)

 この傾向は、大網白里町となった合併後も地区の特色として今日もみられるところである。
 商業中心として見ると、当町域には大網地区と白里地区の二つの商業の盛んな地域がみられる。
 大網地区の商業は国鉄大網駅(移転以前)を中心とした商店街で、このもとは、戦前よりずっと続いていて専門的なもの、よろず屋的なものに至るまで規模の大小の差はあるにしても、大体の消費生活を充足するに足る店舗が存在していた。これが戦後、経済の復興とともに充実していった。
 昭和二十七年九月調査の山武郡内の商業に関する従業者数と商品売上高に関する集計が『山武地方誌』にあるのでこれを次に引用する(表87)。
表87 従業者数及び商品の売上高
   種別
町村名
総          数
店舗数従 業 者 数商 品 売 上 高
総 数卸 売小 売手数料
 1東金町3731,013586427148,05388,11359,573367
 2公平村173614221,435821,353
 3源 村122917128928911
 4丘山村2135152083382310
 5大和村133316172,0561841,872
 6土気町6397494818,65013,1605,46822
 7大網町80221125964,2603133,833114
 8増穂村234521241,1861031,0767
 9福岡村223522132,9841,4721,512
10白里町9819096947,0813056,75323
11豊海町7713763745,9483695,56514
12片貝町17736618618016,0912,58313,357151
13正気村233918212,0332,0258
14豊成村295428263,6014673,1331
15鳴浜村539248443,73411860313
16成東町14128415712716,3764,50611,708162
17日向村278143386,5833,8442,7345
18大富村294925242,8934572,40432
19南郷村295526292,7807232,0552
20緑海村6811251613,9578083,1418
21蓮沼村5411044661,801581,7412
22上堺村294220221,5061,49610
23大平村203421131,3241,29034
24松尾町84164867810,6912,9427,72524
25睦岡村385624322,1202,08742
26豊岡村1422148796796
27横芝町19341223817425,3442,38322,091870
28二川村7613266664,4364,41818
29大総村1624159365365
30千代田村22381520822822
1,9204,0342,1491,885300,631122,990175,7011,940
(『山武地方誌』)

 これをみると当町域の旧町村でも大網町と白里町がこの近辺の町村では商店が多く、山武郡内でみても東金や成東・片貝・横芝が店舗の多いところであることがわかる。
 昭和二十九年十二月一日、町村合併により大網白里町が誕生した。以来町政の進展と共に、年々消費者人口が拡大しているが、これを町内商店のプラスの要因として作用させる余地がまだまだ残されているということである。『大網白里町基本計画』(昭和五十九年刊行)は「商業機能の活性化」というところで、消費者の要求の多様化、車社会による商圏の広域化という理由をあげている。
 購買者の心理として、当町内で買ったものより千葉市内で買ったもの、それより東京のデパートで買ったものの方が品物が全く同じであっても、何となく良い品物を買ったように思うものであり、特に他地域からの移住者で人口が増大したような地域の人びとがこうした考えをもつものである。したがって、商店の経営者としては、今後こうした先入観をどのようにして打破するかが大きな課題であろう。
 昭和四十四年三月、千葉県商工労働部振興課が『千葉県における中心商業勢力の形成とその分布』という県内各地の商圏調査に関する報告書を出している。
 これをみると十五年以上も前であるが、変ぼうという本項の主題から変遷の一過程として目を向ける必要があろう。
 図25は、購買者(品物を購入したい人)がどのくらい千葉市へ出てくるかという比率を等値線で示したものである。当町域は東西に細長い形をしているため、千葉市に近い位置ではかなり比率に差がある。

図25 千葉市への流出比率曲線(流出率10%以上)
 
 このような範囲が特定される原因として、同報告書は次のように、交通機関との関連をあげて説明している。
 
  東線(当時大網駅を通る外房線のことを房総東線といっていた。)及び東金線、木原線沿線
  千葉駅より約十八キロ、三十分の土気町から五十パーセント、三十分から五十分の大網白里町、本納町、東金市からは、それぞれ十八・二パーセント、十六・六パーセント、二十一・一パーセント、さらに四十キロ以内一時間の茂原市から七・六パーセントとなっているが、東線沿線においてはそれ以遠においてもさほどの減少は見られず、約九十キロの天津小湊以遠において減少する。西線沿線(内房線)と東線沿線(外房線)を比較すると、千葉市への流入においては西線における三十キロと東線における六十五キロの地点がほぼ同率を示している。
 
 このことからみると、大原・勝浦方面は当時千葉に近い都市機能を有し、商圏の中核となる市街が存在しなかったことが指摘されよう。しかし西線(内房線)沿線には木更津市や館山市があり、この周辺町村の人びとはまずここへ出てきて品物を購入し、それでも間に合わないものを千葉市へ、さらに東京へ購入に出かけた。
 したがって、大網白里町は千葉市を核とする商圏の中に入ることになる。このことは現在でもあまり大きな変化はない。千葉市を核とする商圏を構成する周辺市町村は、次の図26に示したとおりである。またそこからどの程度の購買者が千葉市へ流入しているかを併せて示してある(表88)。

図26 千葉市商圏及千葉市への流入人口
 

表88 千葉市への流入表 (流出比率10%以上及流入人口2,000人以上の地域)
 
 この調査が実施された昭和四十三年頃の人口をもとに、千葉市の商圏を構成する市町村をみると、概略は表89に示したように三つのブロックにわけることができる。当大網白里町は第三次圏に入っていることがわかる。
表89 千葉市の商圏構造
商圏範囲吸収率市町村及人口商圏内人口
市町村名人  口
第一次圏吸収率
30%以上
全市域
四街道町
土気町
市原市
八街町

407,436
23,061 
8,044 
132,466 
25,899 
596,906人
第二次圏吸収率20%
~30%未満
佐倉市
酒々井町
東金市
山武町
51,045 
6,101 
32,541 
9,091 
98,778人
第三次圏吸収率10%
~20%未満
成田市
成東町
本納町
大網白里町
長柄町
九十九里町
印旛村
富里村
蓮沼村
43,475 
19,304 
10,091 
22,028 
7,718 
17,745 
7,448 
11,164 
4,769 
143,742人
影響圏吸収率10%
未満
県 下 全 域
(『千葉県における中心商業勢力の形成とその分布』)

 また当町、特に大網地区を商業の盛んな地域として説明したが、この報告書によれば、大網白里町の商店が周辺町村の購買者を吸収する比率は七十パーセント以上(同報告書)の地域のひとつとしてあげている。参考までにこのような商業勢力の強い市町村区分をあげると次のようになる。
 吸収率九十パーセント以上、佐原・館山・木更津・鴨川
    八十パーセント以上、千葉・野田・栄・印西・小見川・銚子・旭・茂原・大多喜
    七十八パーセント以上、柏・浦安・成田・八日市場・大網白里・松尾・勝浦・大原・鋸南・上総
 これは主として、衣料品の購買力を中心にしての調査結果であるが、同報告書は、衣料品群の購買力七十パーセント以上を吸収している都市は、各ブロック内でも商業勢力が大きく、こうした市町村は古くからの歴史があり、整備された商店街を持つ市町村であると説明している。このことは、次に示した同報告書の「山武ブロック買物状況」の表90を参照されるとより具体的に理解されるであろう。
表90 山武ブロック買物状況
  買物先
市町村名
地元吸収地元外流出千葉市流出都内流出その他の県
東金市309  
69.4%
31  
7.0%
94  
21.1%
11  
2.5%
%
445  
100%
土気町64  
35.6 
22  
12.2 
90  
50.0 
4  
2.2 
 
180  
100 
大網白里町282  
70.4
 
41  
10.2
 
73  
18.2
 
5  
1.2
 
 
401  
100
 
九十九里町227  
66.8 
65  
19.1 
43  
12.6 
5  
1.5 
 
340  
100 
成東町737  
62.5 
193  
16.4 
220  
18.6 
30  
2.5 
 
1,180  
100 
山武町22  
10.0 
149  
67.3 
47  
21.3 
3  
1.4 
 
221  
100 
松尾町266  
73.3 
60  
16.5 
36  
9.9 
1  
0.3 
 
363  
100 
蓮沼村77  
39.9 
78  
40.0 
36  
18.6 
2  
1.0 
 
193  
100 
横芝町 
 
 
 
 
 
芝山町202  
63.3 
95  
29.8 
18  
5.6 
4  
1.3 
 
319  
100 
2,186  
60.0 
734  
20.2 
657  
18.0 
65  
1.8 
 
3,642  
100 
(『千葉県における中心商業勢力の形成とその分布』)

 このようにみると新しいもの、流行を追いかけているかの如くみられる商業にも、その根底には時間をかけて蓄積され、整備された「町なみ」がなければ人は寄りつかないことが知られる。またこれが、口先だけでは表現できない「信用」の実態であるかも知れない。さいわい当町には長い歴史の上に立つ基盤があるのであるから、工夫次第であるといっては過言であろうか。現実に『大網白里町基本計画』もこの点に関し町も商業者も認識して努力していることが記され、現在の当町域の商業の様子を『千葉県の商業』(昭和六十年刊・千葉県企画部統計課)によってみると(小売業の場合)、表91のようになっている。
表91 小売業の市町村別,商店数,従業者数,年間商品販売額,売場面積,対前回比
市町村商  店  数従 業 者 数年間商品販売額売 場 面 債
57年60年対前回比57年60年対前回比57年60年対前回比57年60年対前回比
 
山武郡

1,611

1,552
%
96.3

4,913

4,985
%
101.5
万円
5,640,999
万円
6,485,948
%
115.0
m2
80,132
m2
77,679
%
96.9
大網白里町36235999.21,0761,096101.91,319,7521,611,041122.117,48317,826102.0
九十九里町29929498.3818861105.3807,042944,172117.014,87913,00987.4
成東町32630493.31,0091,029102.01,148,2351,387,168120.814,42115,195105.4
山武町807290.019318394.8209,089229,568109.82,8422,61291.9
蓮沼村5555100.0138147106.5209,798227,256108.32,2592,25199.6
松尾町15614995.5524571109.0522,973600,291114.89,9598,57586.1
横芝町23622695.888784094.71,137,5301,167,458192.614,46114,39399.5
芝山町979395.926825896.3286,580318,994111.33,8283,81899.7
(『千葉県の商業』)

 この統計をみると、小売店の数では山武郡内八か町村の中では一位であり、五十七年度と対比し、店の数は減っているが、販売額の面では多少の増加がみられている。
 これらを茂原市や東金市と対比してみると、表92のようになる。Aでみると小売業一商店当りの人口は多いのであるが、Bをみると人口一人に対しての販売高は茂原や東金には及ばないという調査結果である。この点に今後の努力の主眼があるともいえよう。

表92
 
 また商品販売額の変化を昭和四十九年、五十四年、五十七年と対比してみたのが表93である。これをみても当町の商品販売額が順次増大していることがわかる。
表93 年間商品販売額及び人口1人当たり年間商品販売額(伸び率 昭和57年/昭和54年)
上段:年間商品販売額(単位:万円)        
下段:人口1人当たり年間商品販売額(単位:万円/人)
    年
区分
昭和49年昭和54年昭和57年昭和57年/
昭和54年%
大網白里町522,936932,5801,319,75241.5
22.336.148.233.5
茂原市2,776,7865,682,3137,032,10523.8
44.281.295.317.4
東金市1,225,3592,547,1923,679,89444.5
36.371.7100.440.0
千葉市122,765,447255,007,220360,369,10541.3
30.661.273.219.6
(『大網白里町基本計画』)

 なお当町の人びとが買いものをする動向を調査したのが表94である。千葉まで出かけて買い入れる品物は、高級衣料品と贈答品三千円以上の品物である。高級衣料品は千葉市のデパートや専門店の方が品数が豊富で流行の先端をいっているものがあるというのが主たる理由であろう。また中元や歳暮の品物とか、その他の贈答品にしても、千葉市内のデパートなどから贈る方が数がそろったり、確実であることなど、また受けとる相手の心情をも考えての結果がこうした点にあらわれているのであろう。商品は、ただお金を出して買うだけではないことをよく示している。

表94 品目別購買動向
 
写真 大網地区の商店街
写真 大網地区の商店街
写真 白里地区の商店
写真 白里地区の商店

 また電気製品や家具などは近くの大きな街、東金市へ出かけて買い、町内で間に合うものは町内で購入されている。しかし家具の場合は主として東金市へ出かけて買うことがこの表94からわかる、表中の斜線が入っていることからもそれがわかるが、自動車で出かけたり、配達の便があったり、家具のメーカーなどが東金市に進出しているためでもあろう。
 しかし、当町内であらゆるものが一応は買い入れられていることに、当町の商業勢力が強いことをあらわしているといってよいであろう。町でも、きびしい商戦の結果大型店の進出によって、町内の商店が後退してしまうことのないよう配慮し、一方では適切な刺激を与えることによって、商業がより一層発展するよう最良の対策を考えている。
 当町域の工業の様子をみると、昭和二十年代の統計資料が少なく正確さを期待できないのであるが、「大網町町勢要覧」の就業別人口をみると工業関係の就業者数と全体に対する比率は、表95のようになる。特に製造工業に従事している数は男・女ともに大変多く、このころから当町域の女性はかなり働き者であることを示している。
表95 大網町の工業関係就業者数
  区分
種別
総 数
実数%実数%実数%
鉱 業10.610.6
建設工業1543.11522.920.2
製造工業4889.93647.91242.0
(「大網町町勢要覧」昭和26年)

 また、『山武地方誌』によって、昭和二十九年の当町域における旧町村の工業概要をみると、表96のようになる。大きく区分すると大網町を中心とした醸造業、白里町を中心とした織物業、漁業関係の製氷・冷凍業等である。いずれも「地場産業」的色彩を強くもって、地域の人びとの生活と強く結びついて発展していたものである。
表96 昭和29年の当町旧町村の工業概要
名 称種 別所在備考
石野商店酒醸造大網
中田商店〃 〃大網
内宗醸造所醬油醸造白里
藤 屋味噌醸造大網
池田織物織 物白里
大矢織物白里
栗原織物白里
山武産業白里
米沢産業白里
花沢水産製氷・冷凍白里
岡本冷蔵庫白里
(『山武地方誌』)

 しかし合併後の大網白里町となった現在では、工業は著しく多様化してきている。『大網白里町基本計画』によれば、昭和五十七年段階で当町域の工業は表97にみられるように変化してきた。
表97 町工業の推移
     年
区分
50年55年56年57年
工 場 数115112112112
従業者数(人)1,2601,2611,2391,266
出荷額(万円)473,325645,985669,838767,978
1工場当り
従業者数(人)
11.011.311.111.3
(『大網白里町基本計画』)

 この内容は、当町『基本計画』によれば、一事業所当り平均従事者十人程度でその内容は大体煮干しや、みりん干しなど水産物を中心にした食料品加工業であるとのことである。しかし、小数ながらも表98にみられるように、いろいろな工業が存在するのも事実であって、決して工業不毛の地ではない。むしろ農業に専念して他に目を向ける余地がなかったといってもよいであろう。しかし町が大きくなり人口の社会増が著しくなれば、バランスのとれた産業構造をもつ町として発展する必要がある。しかも天然ガス等のエネルギー源もあるので、今後が期待されるであろう。現況を昭和五十九年の『工業統計調査結果報告書』(千葉県企画部統計課編)によって、「企業種の市町村別順位」で大網白里町をみると、表99のようになる。全体数八十の中の順位であるが、事業所数や従業者数では、そう下位にあるわけではないが、収益の段階で大幅にダウンしていることがわかる。
表98 工場数及び従業者数並びに製造品出荷額
製品品目昭 和 48 年昭 和 57 年
事業
所数
従業者数製造品
出荷額
事業
所数
従業者数製造品
出荷額
総数常雇家族総数常雇家族
 
食料品
 
66

489

320

169
万円
95,526
 
62

493

341

152
万円
208,097
繊維工業製品898841423,8526221394,350
衣服、その他
の繊維製品
4112107522,7082
木材、木製品946361012,336942321018,996
出版、印刷
関連品
21
化学工業製品11
なめしかわ、
同製品、毛皮
12
金属製品27777751,501
一般機械器具55750724,9251079641545,319
精密機械器具348487,6572
電気機械器具1
輸送用機械11
その他の製品114504419150,24982402375102,314
秘匿欄132126697,50731331121337,401
合 計1141,4321,212220434,7601121,2661,075212767,978
(『大網白里町基本計画』)

表99 企業種の市町村別順位・大網白里町
事業所数従業者数出荷額(万円)
県内市町
村順位
実数県内市町
村順位
実数県内市町
村順位
実数
26108401,226人52872,238
(『昭和59年 工業統計調査結果報告書』千葉県企画部統計課編)

 したがって、当町では「千葉リサーチ・トライアングル構想」(千葉新産業三角帯構想)をひとつの足がかりとして、新しいタイプの工業を発展させる工夫をしている。