初夏の夕暮どき「トッコ、トッコ」と悲しい声で鳴く鳥がある。一方の足は白く、一方の足は黒いという。むかし一人の農婦が可愛いわが子のトクを田の畔に寝かせていっしょうけんめい田の草をとっていたが、やがて夕方になり一段落したので帰ろうとしてトクの方をみると一羽の大鳥がわが子をさらって、飛び去るところであった。驚いて、大いそぎで半分ぬげかかった「はばき」を脱ぐいとまもなく、その後を追ったがついに見失ってしまった。それからは、夕方になると彼女は一心にトクの行方を追い、鳥と化して泣きながら「トッコ、トッコ、ハヤッコ(早く来い)」と呼び続けて飛んでいくというのである。この鳥の足が白と黒と違っているのは、大鳥にさらわれるわが子をみて、あわてて一方の「はばき」を脱ぐひまがなかったなごりであると言い伝えられている。