特色といえば、他地域の人とはなす時は、標準語を自由に使いこなし、一方同一地域内の人とはなすときは発音まで変わり、方言を用いてはなし合うのが全く不自然に感じられないことである。
しかし、それも次第に変化しつつあり、方言は姿を消しつつあるといってもよい。
上総地方は、むかしから「ベエベエことば」といわれ、「行くベエ」「もどるベエ」と語尾にベエをつけたり、あるいは「寒かっペエ」とか「よかっペエ」と語尾に半濁音のペエを付けるのが一般的である。この方言も従来の研究では、木戸川を境としてかなり差異があり、当町域を含む山武郡南部では、し・す・ち・つの区別を誤り、「梨」も「茄子」も同様に「ナス」と発音したり、「橋」と「箸」も「ハス」と聞こえるような発音をすると『山武郡郷土誌』は記しているが、これは当地方の「国語教育」の成果といえるか、ほとんど姿を消している。けれども、清音を濁音に発音したり、「イ」と「エ」を混用することは、たとえば「敷居」のことを「シケエ」と言う用法で残っている。ここでは、そのようなことまで、とりあげていてはきりがないので、一応単語で、当町域の方言の特色を示すものを中心としてまとめてみた。したがって、ここにあげたものだけが当町域の方言ではないことを、前もって了承し参照してほしい。次に方言を一覧表の形式でまとめて掲載する(表7)。
方言 | 標準語 |
アブク | あわ(泡) |
アオッチレ | 青白い |
アオノケ | あおむけ |
アガット | あがり口 |
アカマンマ | 血 |
アカッパジ | 大恥 |
アキッペーヤローダ | あきっぽい男 |
アクタイ | 悪口 |
アサッパラ | 朝 |
アシタンアサ | 明朝 |
アジョニモ | どうにも |
アスブ | 遊ぶ |
アタマンケ | 頭髪 |
アタツパ | あたりちらすこと |
アッチ | あちら |
アツコム | またぐ |
アッペコッペ | つべこべ |
アッポ | 汚物 |
アッパトメル | ろうばい |
アナモロ | 穴 |
アニ | なに |
アニサ | なにさ |
アマンダレ | あまだれ |
アマッタレ | 甘えん坊 |
アマッチョ | つば |
アラヌカ | 籾から |
アメンボ | つらら |
アリンボ | 蟻 |
アンダ・アンシタ | どうした |
アンモ | 何も |
アンヤンドン | あの野郎共 |
アンケェ | あのくらい |
アンベェワリイ | 調子が(病気など)悪い |
アンコ | 鳶職 |
アンコロモチ | 饀餅 |
アンナゴ | あの女 |
アンナゴドン | あの女達 |
アンヤロ | あの男 |
アンヤロドン | あの男達 |
アンデェ | なんで |
アンベェ | あんばい・味をみる |
アンサー | あのね |
イイッペ | いいだろう |
イカッペ | |
イイアンベェ | |
イイデンヨー | よいではないか |
イイデンカイ | |
イェー | おい |
イケェスカネェー | 意(心)が好かない |
イシナンゴ | くるぶし |
イスス | 石臼 |
イタッパ | 板きれ |
イッカイ | おりますか |
イッチヤ | 一把 |
イッサキ | 一番先 |
イッテンベェ | 行って見よう |
イッケェ | 大きい |
イッコクモノ | 剛情者 |
イビ | けむたい(煙) |
イナゴ | 乾いた砂 |
イナサ | 東南の風 |
イネンホ | 稲穂 |
イグベェ | 行こう |
ウグシ | 屋根の棟 |
ウスベッテェ | 薄ぺら |
ウスバカ | おろかなもの |
ウソッコ | うそ |
ウッチョメル | 埋める |
ウッチャル | 捨てる |
ウテェ | にぶい |
ウナウ | 耕す |
ウンテェ | 重い |
ウヌラ | お主ら |
ウンナラガス | 馬力をかけること |
エーサンコ | 良い気分 |
エーキブン | |
エンガワ | 廊下 |
エンデェ | 涼み台 |
オイネサー | いけない |
オイネェコッタ | 困ったことだ |
オエル | 終り |
オジッポロ | 長男以外の男 |
オシャラク | 着飾る |
オセェー | おそい |
オセル | 教える |
オッケ | 味噌汁 |
オッツァレル | 叱られる |
オッペシ | 漁船を押す女の人 |
オッカナガリボー | おく病者 |
オッダガ | 俺達が |
オッカンネェー | 恐ろしい |
オッタス | 追いだす |
オッコロス | 殺す |
オッサヨ | 相槌をうつ |
オッパナス | 放す |
オバ | 長女以外の女 |
オケイコ | ネッネコ |
オボキ | うぶ着 |
オヤドン | 両親 |
オラゲ | 我が家 |
オンカ | 公然 |
オンマス | 追い廻す |
カッタテル・カンマス | かきまわす |
カッポセェ | やせている |
カックラッテル | 頭がおかしい・大いに食べている |
カックラス | なぐる |
カベッタ | 稲刈あとの一番耕起 |
カヤ | 炊木 |
カラバカ | 大ばかもの |
カラキッテ | さっぱり |
カンカ(カンコ) | 子供の下駄 |
カンピンタン | やせこける |
ガブクッタ | 水の中に落る事 |
カワイソギニ | かわいそうに |
ギタギタ | ひどく疲れる |
キッポシレテル | たかがしれている |
キッタンネェー | きたない |
キドコネ | かりね・うたたね |
キビショ | 急須 |
キノンバン | 昨晩 |
キモガイレル | 腹が立つ |
ゲンナリ | うんざり |
クゲンスル | 苦労する |
クタバル | 死ぬ |
クッタイ | ください |
クッチャメ | まむし |
クッチャベル | よく喋る |
クッカク | かみつく |
クネ | 垣根 |
クマゼ | 熊手 |
クロ | 畦畔 |
クンノム | のみ込む |
ケエベヤア | 帰ろう |
ケタクソワリイ | あと味が悪い |
ケッタカア | 帰ったか |
ケツネンポ | けち |
ケッポレェ | 気配 |
ゲッポ | 嘔吐 |
ケッタリイ | だるい |
ケード | 屋敷入口前の道 |
ケッタグル | 蹴っとばす |
ケラババ | おけら(虫) |
ケンコ | 貝がら |
ケントンネェ | 見当もない |
ゲーモネェ | 無駄・無益の意 |
ゲレッポ | 最下位 |
コエー・コワイ | つかれた |
ゴザッパタキ | 最後まで居残る |
コシテクレ | ゆずってくれ |
コジャー | 間食 |
コスイ | ずるい |
コソッペー | くすぐったい |
ゴーロ | 土の固り |
ゴッタク | 炊事 |
ゴモクタ | ごみあくだ |
コットズレ | 俺たち |
コッダケ | これだけ |
コッデサ | これで |
コッペツクナ | 文句をいうな |
コバッコ | 端の方 |
コマッチャクレ | なまいき |
コンヤッドン | この子供等 |
ゴロンボカジリ | 間食の好きな者 |
サルゲオチル | おっこちる |
サゲオチリ | |
シケェ | 敷居 |
シッケンナンネェ | どうにもならない |
スッカ | たくさん・いっぱい |
シマァベェー | おしまいにしよう |
シメシ | おむつ |
シャガム(シャゴム) | かがむ |
ジャンボン | 葬式 |
ジョワコ | 娘っ子 |
ションネェヤロダ | しょうもないやつだ |
ジョウボ | 屋敷の入口 |
ショウシィ | はずかしい |
ショロビク | うしろに物を引く |
スケル | 助ける |
ススタッケェ | うるさい |
スッタレ | 泥はね |
スッポンズリ | おいてきぼり |
スッケェー | すっぱい |
スノバ | 納屋・小屋 |
スベタ | 女性にする悪口 |
ズリィ | ずるい |
セグル | 他人の土地をけずる |
セナヤロウ | 長男 |
センザシボウ | 心張棒 |
センゼェ | 野菜 |
ゼンゴ | ぜんまい |
ゼンナ | 蛤の小さいもの |
センニ | 先ごろ |
スナッパラェー | 行事の後の慰労会 |
ソクソク | 除々に |
ソソビ | 失火 |
ソコラントコ | その辺に |
ソウダッペ | そうでしょう |
ソブク | 引く |
ソッポ | 外の方向 |
ソンデネクテン | それでなくても |
ソロット | 静かに |
ダエソレタ | 大ごとな |
タケェー | 高い |
ダスベー | 物を与えること |
ダダッピレェー | 非常に広い |
タッボ | たにし |
ダッペェー | だろう |
タテメエ | 棟上げ |
タマゲル | おどろく |
タマンボ | 黄金虫 |
タルイレ | 結納 |
タレェ | たらい |
タンケェ | からす貝 |
タンゴロマン | おたまじゃくし |
チヤッケェ | 小さい |
チットバリ | 少しばかり |
チッコ | 乳 |
チャブケ | 茶うけ |
チョウス | だます |
チョウバックカタル | うそをつく |
チンドロサッケェー | 血まみれ |
ツットス | さす |
ツマッカシイ | 質素にする |
テショー | 小皿 |
テビ | 小さいみぞ・水路 |
テンカラ | はじめから |
テンデンコ | 自分自分に |
トウシミ | 灯心 |
トウレエ | 後妻 |
ドウコ | ぶりき缶 |
ドク | 退く |
トッコス | とおりこす |
トッパグル | とりはぐる |
トッパドス | 仕損ずる |
トッペッモネェ | 途方もない |
トッツェル | 取押える |
ナゴ | 女子 |
ナサネエイカ | 生まないか |
ナシタカ | 生れたか |
ナラシ | 稲架 |
ナレェ | 東北の風 |
ナント | 墓 |
ナンヨー・ナーヨー | お手玉 |
ニシ・ニシラ | お前・お前等 |
ニヤバ | 母屋の土間 |
ヌカッポ | ぬかるみ |
ヌクトマル | 暖まる |
ヌルマ | のろま |
ネジクル | つねる |
ネエショ | 内緒 |
ネネッコ | 赤子 |
ノゲッタ | ぬぐった |
ノスタケ | 外板張 |
ノーノーさん | 曽祖父母 |
ハシケェ | いたがゆい |
ハジッコ | すみ(角) |
ハダツ | 事をはじめる |
ハッチャセル | ぶつかる |
ハッカスル | がをはりあう |
バッチョウ | 大工 |
ハドス | 仕損ずる・はずれる |
ハバキ | 田ももひき |
ハヤス | からかう |
バンゲ | 晩 |
バンガタ | 夕方 |
バンコ | 料理人 |
ハンナグル | ぶんなぐる |
バンドシ | 夕食の仕度 |
ヒザッカブ | ひざ |
ヒシテ | 終日 |
ヒックジケル | 折れる |
ヒッチョウ | 負ふ |
ヒッチョビク | 引づる |
ヒテップシィ | まぶしい |
ヒデェ | ひどい |
ヒトカタケ | 一食 |
ヒトマルキ | 一束 |
ヒマチ | 休日 |
ヒヤッケェ | つめたい |
ヒレェキ | 広い |
ビンチョ | いびつ |
ブコッネー | ぶあいそう |
ブタグチ | 三角袖の上衣 |
ブッカク | 割る |
ブックス | こわす |
ブッケッタ | たおれる |
ブックヂク | 打ちくじく |
ブッタクル | うばいとる |
ブッツァバク | 引きさく |
ブッパタク | たたく |
ブッタセ | 出せ |
フンヌク | 引きぬく |
ブンマス | 追いまわす |
ヘェッツクバル | 頭をぺこぺこさげる |
ヘクソモナンネェー | 何んにもならない |
ヘナッチ | 粘土 |
ヘナサマ | ひなさま |
ボウチョウタカリ | 頭にできもののできた人 |
ホキル | よく育った |
ホコス | 火を焚きおこす |
ホソックリ | 細いひも |
ボッカ | 根株 |
ボッコス | 打ちこわす |
ホッタラケェス | 投げやりにする |
ボテフリ | 魚の行商人 |
ホンコン | 本気 |
ホマチ | へそくり |
マガット | 曲り角 |
マキザッポ | まき |
マット | もっと |
マチ | おまつり |
マブル | 混ぜる |
マヤ | 馬小屋 |
マルク | 束ねる |
ミテクレ | みばえ |
ムケュドキ | 丸一年 |
ムグル | もぐる |
ムセェ | 容易にへらない |
メエメエタツボ | かたつむり |
モエッチャリ | 燃え残り |
モク | 藻 |
モゲェ | 可愛い |
モジク | もぐ |
ヤケッツリ | やけど |
ヤッベェ | 始めよう |
ヤッカム | こねむ |
ヤットンコラショ | ようやく |
ヤッケェ | やわらかい |
ヤベ | 一しょにこい |
ヤマ | 眉(まゆ) |
ヤロッコ | 男児 |
ヤンデコイ | 歩いてこい |
ヤンメ | はやり目 |
ヤンドン | 野郎ども |
ユケ | 湯手拭 |
ヨコッピン | 横鬢 |
ヨッピテ | ひと晩中 |
ロクデネェー | いじわる |
ワケェモンドン | 若いものたち |
ワザント | わざと |
ワッツァケル | われる |
方言といえば、なにか「いなかくさいもの」と単純に思われがちであるが、その土地の生活の中で長い間に培かわれた貴重なものであり、その地域の特色をよくあらわしているものである。千葉県に於ても県南と県北、東京湾側と太平洋側ではそれぞれ異った特色をもちながらなお全県に共通したものを有している。
古典落語とか、歌舞伎劇の「生世話物」のせりふの中には、こうした方言を知っているとよく意味のわかる場合がある。このことからも往時の方言は、その活用範囲はかなり広く房総もこの範囲に入っていたのであろう。江戸が東京となりどんどん変化していったのに対し、当地域などは、こと方言に関しては、そのまま往時の用法をのこしていたともいえる。方言をつかえということは時代錯誤であろうが、記録として残すことは大切なことであると考え、特に一項を設けここに記した。
民俗関係の聞き取り調査にあたっては、次の方がたに、いろいろと御協力をいただいた。本来ならば各項にその名を記すべきであるが、ここにまとめて記しておくことで御了承いただきたい。
大網地区
三島春枝氏(77歳)、河井清氏(82歳)、立川虎雄氏(82歳)、河野きく氏(74歳)、中島城氏(78歳)、四之宮一義氏(73歳)
山辺地区
高山守夫氏(76歳)、山田武雄氏(73歳)、花沢清氏(75歳)、飯田於莵雄氏(70歳)、小金井金市氏(60歳)
瑞穂地区
土屋清平氏(75歳)、秋葉平氏(65歳)、岩瀬武雄氏(70歳)、今井戢氏(75歳)
増穂地区
土屋一氏(73歳)、石橋順氏(70歳)、板倉利平氏(70歳)、中関邦夫氏(55歳)、岡本佐知氏(60歳)、小川嘉治氏(76歳)
白里地区
四ノ宮慶作氏(79歳)、石田源市氏(82歳)、上代齊氏(85歳)、古川久幸氏(76歳)、佐久間明氏(68歳)、吉田一平氏(76歳)、斉藤俊子氏(82歳)