庚申塔

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 庚申塔の起源は道教にある。すなわち、人の身中に宿って寿命をちぢめる「三尸九虫(さんしきゅうちゅう)」を除去するためには、六十日に一度めぐってくる庚申の日を眠らずに過ごし、三尸虫の活動を防げることによって長寿を全うするという考えである。それが、後に仏教と結びつき、講行事として行われるようになり、礼拝の対象として庚申塔がつくられるようになった。その形態や像塔はバラエティに富んでいるが、角柱形や板碑形をなす仏塔形に、表面金剛像、猿田彦大神像、帝釈天像などを刻むか、あるいは単に、庚申、庚申塔という文字のみである。これは江戸時代に盛んに行われた民間信仰のひとつである。十六夜塔、及び二十三夜塔などの月待塔(特定の晩に礼拝、勤行し、その供養のしるしに建てられた)も、同じ講組織による造立である。
 参考資料『江戸時代の民間信仰の実態』
 神社あるいは寺院、更には一般家庭の敷地内において、信仰の対象となっている諸仏、諸神の数は実に多い。それらは、小さな祠や石造の像として、如来、菩薩、天部を始めとしたあらゆる神仏が庶民の様々な願い事=「願掛」にこたえてきた。
 その願掛けの習俗も、今日では全く非日常的となり、また、変質が著しい。病気治癒を主としたこれら願掛けの内容について、その一例(表12)をみておくことは本項の目的にかなうことであろう。
表12 願掛けの内容
 文化11年
願懸重宝記
文化13年
願懸重宝記
諸願
家業・商売繁昌
開運・増福
火難・盗難除
厄除
懐胎・安産
夫婦仲・縁談
蛇除け
酔狂人をなおす
乳を良く出す
小児の月代
裁縫
諸病
歯痛・口中の病
疱瘡
眼病

腰下の病
痰・咳
頭痛
足の病
脚気
腫物
瘧(おこり)
中風
労咳
淋病
しもやけ
歯害
イボ・ホクロ
野狐つき
疾瘡
小児の病気
4
0
0
2
1
1
1
1
0
0
1
0
2
4
3
1
1
1
3
3
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2
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1
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0
1
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9
1
3
3
3
6
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0
1
2
1
1
7
5
10
1
5
2
0
3
1
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4
7
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2
1
9
9
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3
3
6
1
2
2
1
1
1
1
1
1
1
1
2
4
*  願掛け・札の効験ともに含む
祈願対象が幾つもの霊験を持つ場合はその全てを列挙してある。
(「願掛重宝記をめぐって」宮本袈裟雄『歴史公論』9)
(「願掛け重宝記」並木五瓶 文化11年 「神社仏閣 願掛重宝記」初篇 浜松歌国 文化13年)