午睡律詩(印影)


老仙招我出塵寰、  老仙 我を招きて塵寰より出づ
飛上江南万里山、  飛上江南 万里の山
翡翠巖頭撥雲臥、  翡翠の岩頭 雲臥を撥し
芙蓉峯下躡星攀、  芙蓉の峰下 星攀を躡(ふ)む
呉波楚岫互呑吐、  呉波 楚岫 互いに呑吐し
白虎青羊相往還、  白虎 青羊 相い往還す
夢覺午窓堪一笑、  夢覚めし午窓 一笑に堪え
情遊只在瞬時閒。  情遊す 只だ瞬時の間に在るを
 午睡 雙石幷刻  午睡 雙石并せて刻す
 
 自作の詩を巨大な石印材に刻した、石井雙石の代表作のひとつ。昭和29年の第10回日展出品作。雙石は当時の文人と違わず、多くの詩を作っており、本作は、年老いた仙人が、煩わしい世から雙石を連れ出したが、それは一瞬の如き、夢であったという内容である。一見すると、印影からは、小印を数十顆、捺したものと捉えてしまうが、そうではなく、一つの巨大な石に縦横の界線を引き、そこに様々な篆書体で多様な表現が混然一体となった作風である。左下には、後に名とした「碩」を用いた、白文自用印「井碩」が捺される。
 なお原印が現存しており(現在は千葉県が所有し、県立美術館が管理)、2016年に「石井雙石篆刻資料」として千葉県の有形文化財(書跡)に指定されている。文化遺産オンラインのWEBサイトで、原印の姿を確認することができる。
 
解説: 髙橋 佑太(二松学舎大学専任講師・博士(芸術学)) 2019.3
 
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