飲中八仙歌


 盛唐の詩人杜甫(712‐770)が、賀知章(659‐744)や張旭(生没年不詳)ら同時代の酒客八人を二十二句に詠んだ七言古詩「飲中八仙歌」のうち、李白(701‐762)を詠じた「李白一斗詩百篇、長安市上酒家眠、天子呼来不上船、自称臣是酒中仙」を六行ないし七行にしたためた軸装2点である。本紙はともに縦34cm、横66cmで半切の画仙紙を二分して横に用いたものだが、書風から晩年の同時作と見てよい。
 この詩は「酒を一斗飲むごとに百篇の詩を作る李白は長安の酒亭で大酔して眠り、玄宗皇帝が船遊びでお召しがあった時も一人で船に乗ることが出来なかったが、自らを酒仙と称する」といった内容で、石井雙石は共感しつつ書くことができたであろうし、実際、飲中揮毫したことが窺える。ともに落款「雙石」の左に、漏白辺式「碩」白文方印と「雙石」朱文方印を捺すが、その下に「半仙」白文印が添えられているからである。「半ば仙人」と控えるが、白寿を迎えた後も「酒はまだあるか」と尋ね、「沢山あるなら当分死ねないな」と笑った翌日の昭和46年(1971)10月29日正午に大往生を遂げたのであってみれば(息女回想文)、雙石もまた「雙石一斗刻百顆」の堂々たる酒仙であった。
 
解説: 森岡 隆(筑波大学教授・博士(芸術学)) 2019.3
 
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