游于藝


 「論語」述而篇の一節「子曰、志於道、據於徳、依於仁、游於藝」(子曰く、道に志し、徳に拠り、仁に依り、芸に游ぶ)から「游于藝」を行草書で書いたもの。孔子は、正しい道を志し、徳を根拠とし、仁によって、芸(教養)に身を委ねるべきであると唱えており、その人生観が表れた言葉として著目な文句であり、書家がよく揮毫する文句でもある。石井雙石もこれを好んだのか、本作の他にも白文印を一顆、篆書作品を一点(数え年93歳)、残している。
 一字目の「游」字については、「遊」字に作ることもあるが、本作では、さんずいを省略し、相当、速い運筆で一気呵成に揮毫している。作品右に「入生一樂」朱文印を捺し、左に「雙石陳人」と署名し、「富貴昌」双魚朱文印を捺す。「入生一樂」は、北宋の詩人、蘇舜欽(1008‐1048)が詠った「明窓淨几、筆硯紙墨、皆極精良、亦自是人生一樂」(明窓浄几、筆硯紙墨、皆な精良を極むるは、亦た自ら是れ人生の一楽なり)を出典としており、文房四宝が優れていることは、人生の楽しみであるという意味である。雙石はこの語の刻字作品も一点(数え年91歳)、残している。
 
解説: 髙橋 佑太(二松学舎大学専任講師・博士(芸術学)) 2019.3
 
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