光風


 「黒柿」や「躍進」と本作と、紙質は異なるものの半切サイズを三分して横に用い、二字揮毫したものである。軸装と額装のいずれでも家庭で掛けるのに適当な大きさの用紙であり、石井雙石は折々に用いたであろう。軸装とした本作の「光風」は、雨後の草木に渡る風、春の晴天に吹くそよ風といった意があり、穏やかで家庭で鑑賞するのにふさわしい語句だが、本紙周りの中廻しに緑系の牡丹唐草の裂(きれ)を用いたのも、この語句を受けたものであろうか。
 筆致から柔毛筆を執ったと察せられるが、墨をたっぷり含ませての揮毫。「光」の収筆もゆったりと弧を描きつつ、「風」の初画への気脈が看取される。同様に右横書きでしたためられた落款「九十六叟雙石」から、昭和43年(1968)の作品と知るが、この齢にして「光」から「風」への大きな運腕である。落款に添えられた「碩印」白文印は『雙石先生印譜』第11顆として所収されるが、「一笑百印」などと同じく竹印である。
 
解説: 森岡 隆(筑波大学教授・博士(芸術学)) 2019.3
 
目録を見る