黒柿


 画仙紙に淡墨を用いて、大胆な運筆で揮毫したもので、「雙石山人」と署名し、「醉碩」白文印を捺す。淡い滲みや渇筆が美しい作品である。「柿」字の木篇のハネには、中国・唐代の顔真卿による蚕頭燕尾の筆法のような要素がうかがえる。また「黒」字の「灬」(れっか)や「柿」字の篇と旁が左右相称にならないよう、高さや長短に変化をつけている。本作の正確な制作年は不明であるが、雙石は八十歳代後半から小字数の作品を数多く残しており、本作とは別に93歳に揮毫した「黒柿」の作品が残っていることからも、おそらく晩年にしたためたものと推測される。
 題材とした黒柿は、渋柿のうち、樹齢百年を超えた古木に現れる黒い紋様をそなえた木材のことを指す。ただし、全ての古木に紋様が現れるわけではなく、非常に希少であることから最高級木材といわれる。また硬く、光沢が美しいことから、古来、調度品に使用された。雙石は自然に生息する身近なものを好んで印材として用いたが、黒柿も好んでいたのであろうか。
 
解説: 髙橋 佑太(二松学舎大学専任講師・博士(芸術学)) 2019.3
 
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