雲龍


 半切を二分して横に用いた縦33cm、横60cmの画仙紙に草書で揮毫した石井雙石の昭和44年(1969)97歳の軸装作品だが、たなびく雲のような雨冠と、その雲に隠れたのか下の「云」への筆路がたどりにくい「雲」、渇筆をものともせずフィニッシュを左上に跳ね上げた「龍」、それと対応させるように「叟」「雙」の終画を右に勢いよく長く引いた落款など、まさに「雲中の龍」という表現である。落款の「九十七」も、「十」の横画を右から「ノ」のごとく書く形として「九」からそのまま続けて短縮するなど、禅僧の墨跡のごとき含蓄の書と言えよう。落款印は、ともに木印の「碩」朱文方印と「雙石」白文方印を絶妙の間隔をもって捺す。この両印は「胡馬依北風、越鳥巣南枝」、「飲中八仙歌」でも捺されている。
 なお、本作や扁額・暖簾などはふつう右横書きと称されるが、「一行一字の縦書き」と見る説もある。紙高いっぱいに大書するために一字ずつ改行を繰り返すこととなるが、小字の落款は縦に字を連ねるからである。ただ「躍進」や「光風」は右横書き作品である。
 
解説: 森岡 隆(筑波大学教授・博士(芸術学)) 2019.3
 
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