- 躍進
- 石井雙石
- 昭和45年
半切サイズを三分して横に用いたと思しき縦31cm、横40cmの唐紙(とうし)にしたためた額装作品だが、本紙右上に捺された引首印(関防印とも)と左下の落款印が、横書きながら右から「躍進」と読むことを誘導する。ともあれ、落款を見なければ「九十八叟」の書と信じられぬ筆致で、その「九十八」も飄々とした書きぶりである。石井雙石の落款はいわゆる数え年で記されていることから、逝去前年の昭和45年(1970)の書だが、「進」のしんにょうを右に長く、筆圧を緩めずに伸ばして「躍」を乗せ、左方に力強く前進しているような表現がなされており、晩年にあっても柔軟な発想で揮毫したことを示している。
なお、落款印は『雙石先生印譜』第12顆所収の、姓一字と名を合わせた「井碩」朱文長印で、「午睡律詩」、「樂哉無一事」にも捺されている。また、右上の白文引首印の語「晏如」(あんじょ)は心安らかに落ち着いていること。93歳で息女宅に移った後も妻の逝去、自身の家中での転倒骨折などに遭ったが(息女回想文)、まずは穏やかな晩年を過ごしたことが窺える。
解説: 森岡 隆(筑波大学教授・博士(芸術学)) 2019.3
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