- 愛幽栖
- 石井雙石
- 昭和45年
幽栖を愛す。俗世間を離れて静かに住むことを好むのかと思いきや、I you say(アイ・ユー・セイ)。相手に話すのみのI say youと異なり、「私もあなたも、ともに語り合おう」とも解釈できる、石井雙石独自の造語である。「松梅繁生」の解説で挙げた「愛山喜雨」と同様に、英語とかけたものだが、門下の回想によれば、戦後の昭和23年(1948)に葛飾区堀切に転居後、独学で英語やローマ字を学んだ成果を書や篆刻に活かしたようである。
この「愛幽栖」を縦51cm、横21cmの画仙紙に揮毫した昭和45年(1970)の軸装作品だが、「受」のようにも見える「愛」は「九十八叟雙石」でこそ許される字形であろう。また「幽」の終画「凵」の横画のすぐ上は谷折り目にかかったようで、筆線が途切れている。落款は少し小さな筆か穂先が墨で固まった筆に持ち替えたようで、「九」「八」「雙」「石」と頻繁に墨を継いでいる。「十」の横画を右から「ノ」のごとく書くことは「木」の草体などと同様だが、「九」からそのまま続けており、これまた自在の境地だが、「碩」外円内方朱文印は慎重に捺されている。なお、この印は『雙石先生印譜』第2顆として所収される。
解説: 森岡 隆(筑波大学教授・博士(芸術学)) 2019.3
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