- 寛仁温惠
- 石井雙石
- 昭和46年
全紙(約135cm×約70cm)の長辺を三分したと思われる縦65cm、横45cmの画仙紙にしたためた軸装作品である。まず「寛仁」は平安中期1017年からの4年間の年号では「かんにん」と読まれるが、本作では寛大で思いやりのある意で「かんじん」が妥当であろう。「温惠」はやわらぎしたがうこと。右の二字、特に「仁」はしっかりとした力強い筆致ながら左の「温惠」の字幅が狭く、「温」のさんずいなどは少し不安定に見える。「松梅繁生」でも右の二字が大きく、それが石井雙石の書の特徴とも言えようが、没年の昭和46年(1971)の本作は「九十九老雙石」が渾身揮毫したことが窺える。
白寿での作品は「瑞煙呈福壽」、「無心得良悟」や篆書で「松竹梅」を揮毫した扁額と思しきものなどがあるが、このデジタル博物館の「壽」と同様に草書で「壽」と書いた色紙が、「雙石」外方内円白文印はきれいに捺されているものの、落款「九十九」の様子から最も後のものと思われる。本作も落款に「老」の字が加えられ、また上記のような書きぶりから、この色紙と相前後する時期のものであろう。長い人生行路の果てに揮毫した語が「寛仁温惠」というのは、人情に厚く親切で清貧を貫いたことで知られる雙石らしいことと言える。
解説: 森岡 隆(筑波大学教授・博士(芸術学)) 2019.3
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