印影「種」


 「種鉥(じ)」と刻すが、二字目の「鉥」については、ままあることであるが、金偏をつけずに旁だけを刻している。元来、「鉥」とは、中国戦国時代の古い印章のことで、銅で作られたものを「鉥」と呼び、玉で作られたものを「璽」と呼ぶ。
 石井雙石は数え年99歳で亡くなったため、本作はまさに最晩年の作品である。本作とほぼ同様に、一字目を大きく、二字目の「鉥」を金偏をつけずに小さくするという構図の「碩鉥」(昭和45年、改組第2回日展出品作)が前年の制作であることから、その構図を応用した作品と思われる。書体は、いわゆる小篆と呼ばれる、左右相称の縦長の篆書を基調とした、シンプルな作風である。ただし、印面左側に並ぶ縦線を等間隔や同じ太さにならないよう配慮したり、外枠をつけるなどして変化を加えようとする意図がうかがえる。
 なお、落款に「種谷扇舟蔵」とあることから、「」と同様、雙石と同じく千葉県出身の書家、種谷扇舟氏(1914‐2004)の旧蔵であることがわかる。
 
解説: 髙橋 佑太(二松学舎大学専任講師・博士(芸術学)) 2019.3
 
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