仙境


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 仙境に朝陽が昇り、陽に照らされた山肌がほんのり赤く染まる。近景の岩場から松林を抜けそそり立つ山、奇岩の連なる遠山へとジグザグと積み重ねる構図をとり、潤いのある薄墨の地にかすれた線を重ねてモチーフを描き出している。
 林響は明清画や江戸時代の南画家・池大雅、浦上玉堂の作品を愛蔵しており、大正14年に明末清初の石濤の傑作《黄山八勝画冊》(現在は泉屋博古館所蔵)を入手したことで知られている。林響は古画を見ることで画趣を高め、構想を豊かにしたいと述べており(『美術画報』39-4、1916年)、大正半ば以降、作品に南画の手法を取り入れているが、なかでも大正末頃から現れるかすれた奔放な線には、擦筆を得意とした石濤や玉堂の影響が感じられる。
 
解説: 城西国際大学水田美術館学芸員 堀内 瑞子(2019.3)
 
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