北村季吟 和歌八幡十景

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北村季吟 和歌八幡十景    [目録]

和歌原文 和歌解説
比牟禮山八幡宮之十景哥並詞
 八幡晩鐘  八幡晩鐘
入あひ(相)に 暮なはなけの ひかりかは
神まつりする 数のともしひ
黄昏時、暮れていく中で放たれているひかりは、
神様をお祀りする数多くの灯である。
 北庄夜雨  北庄夜雨
心ある さとのすまゐの 板ひさし
雨きくよはの をとそへむとや
情け深い(人の住む)里の住まいの板庇に、
夜になって雨が降ってきたのを(庇にあたる)音によって知る。
 衣笠秋月  衣笠秋月
いつこにか 月は見さらん 浦山に
もてはやさるゝ 影やくまなき
どこにいったのか月は見えなくなった。浦山(繖山か)を
引き立たせる(月)影だけがくまなく見えている。
 遠景暮雪  遠景暮雪
更級も 芳野もよしや 月花に
これもはなれぬ 雪の夕はへ
更級(信濃国)や吉野(大和国)のでは美しい月や花が有名だが、
この地の雪の夕映えも劣らぬものである。
 豊浦帰帆  豊浦帰帆
浦ちかみ まつらん妹が 門みえて
帰る波路の 舟急くらし
浦が近くなり、妹が待つ門が見えてきた。
帰る船路を急いでしまう。
 丸山晴嵐  丸山晴嵐
あらしふく 此山松の うつろひて
ふかみとりなる 波さはくらし
嵐が吹き(丸山の)山松(の色が)深緑に変わっていき、
(水辺の)波も騒がしくなっていく。
 岩崎落鴈  岩崎落鴈
春過て 洲崎の芦も 越るまて
いかなるかりの おちとまるらん
春が過ぎて 洲崎の芦(葭)も(岩崎を)超えるほどに成長した。
どうして雁はとまらないことがあろうか。
 檜杉夕照  檜杉夕照
秋をたに しらぬ檜原も 杉村も
なへてゆふひの 色にうつろふ
秋になり 名もない桧原や杉村も
一様に夕日の色に染まる。
 樹間鏡山  樹間鏡山
ほのかには みれともあかす かゝみ山
靑葉かくれや 曇ると いふらん
ほのかには見えるけれどもはっきりとは見えない鏡山。
青葉は曇れというように隠れている。
 山越三上  山越三上
あふみちは むら山あれと 其名さへ
みかみのたけの しもにたつらし
行き交う道には(たくさんの)村山はあるが、その名の通り
三(御)上山の下に立つものばかりである。
天和二年四月十五日 季吟書