伴蒿蹊 幡山十景

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伴蒿蹊 幡山十景    [目録]

和歌原文 和歌解説
伴蒿蹊比牟禮山十景
 幡山櫻花  幡山櫻花
神のます 山へのさくら 豊旗の
しらはたなして 今盛なり
神のいる山の桜は、豊かで白く今花盛りである。
 北荘苗代  北荘苗代
澤水を こゝろのまゝに まかせては
みとりもはやき 里のなはしろ
沢水がこころにまかせ思い通りに流れている。
里の苗代の緑も早くも映えている。
 衣笠夏雲  衣笠夏雲
[如法印之説非本国名所、然
稱稱繖山亦萑故直用此名作哥]
(法印(北村季吟)の説のとおり、(衣笠は)本国の名所ではないが、繖山の呼称や古くより名が使われていることから作歌した。)
きぬかさの 山よりうへに さし出て
あやしき峰は 雲にさりける
繖山の上にさし出でて
あやしく見える峰は、雲として去って行った。
  ※周辺に比べて高い繖山を詠っている
 豊浦納涼  豊浦納涼
照す日も かけろふ浦の 藻刈舟
かりてやわれも 夕すゝみせん
照らす日の光で、浦の藻刈舟も陽炎のように揺れて見える。
(私も)藻刈を終え夕涼みをしよう。
 遠景晩霧  遠景晩霧
[故織田公安土城之萑趾]
あきいく世 ふりし大城の なこりさへ
隔るきりの ゆふへさひしき
秋の夕暮、年月がたった大城(安土城)の名残も
霧で隔てられ、ひっそりと静かな夕べである。
 丸山明月  丸山明月
まとかなる 月をうつして 細々波の
よる島山に みる人やたれ
満月を映す湖は、さざ波が島山に寄せている。
(このような美しい光景を)誰が見るであろうか。
 巖崎時雨  巖崎時雨
岩むらの 洲崎にまなく 降しくれ
そむへき木々や 染つくしけん
岩の群れのある洲崎に時雨が降っている。
洲崎に沿う木々も(雨に)染まっている。
 檜杉積雪  檜杉積雪
ふりつ分かれもる 雪にうつみて 此山の
ひはら杉原 けちめわかれす
この山に降り積もる雪で
桧原と杉原の境目は分からなくなった。
 樹間鏡山  樹間鏡山
かゝみ山 おもかけ恥る 老のため
さやにも見せす 繁る木々かも
鏡(山)に写る面影が恥ずかしい。老いのためか
繁る木々がわずかにも見えない。
 山越三上  山越三上
寫し繪の 富士とやいはん むら山の
かなたにひとり 高き三上は
富士山の写し絵にそびえたっている。村山の
彼方にひとり三上山がそびえたっている。
 右 幡山十景
    是山居士三世孫
      資芳薙髪蒿蹊
      七十二齢書于洛南
      老鶯居
文化改元甲子年
      中元