大田原宿会規則
第一章
第一条 本宿会ハ該宿ノ公共ニ関スル事件及ヒ其経費ノ支出徴収方法ヲ議定スルモノトス
第二条 本宿会ハ通常会ト臨時会トノ二類ニ分ツ其定期ニ於テ開ク者ヲ通常会トシ臨時ニ開ク者ヲ臨時会トス
第三条 臨時会ハ其特ニ会議ヲ要スル事件ニ限リ其他ノ事件ヲ議スルヲ得ス
第四条 通常会臨時会ヲ論セス総テ会議ノ議案ハ戸長ヨリ之ヲ発ス
第五条 通常会ニ於テ第一条ニ掲ル事件ニ付議員ヨリ意見書ヲ出ス時ハ先ツ議会ノ許可ヲ得テ会議ニ附シ其議ノ可否ヲ決セシム
但初度ノ会議ニ於テハ議長公撰ノ後差出スヘシ
第六条 凡本宿会ノ議決ハ戸長認可ノ上之ヲ施行シ戸長其議決ヲ施行スヘカラスト思料スルトキハ其事由ヲ具シ郡長ヲ経テ県令ノ指揮ヲ請フヘシ
但戸長ニ於テ認可シタル事件ハ直チニ郡長ニ報告スヘシ
第七条 通常会期中議員ノ内該宿ノ利害ニ関スル事件ニ付県令ニ建議セントスル者アラバ議会ノ許可ヲ得テ之ヲ会議ニ附シ可決スルトキハ其会ノ所見トシ議長ノ名ヲ以テ之ヲ県令ニ建議スヘシ
第八条 本宿通常会ハ戸長ヨリ宿方ニ施行スヘキ事件ニ付会議ノ意見ヲ問フコトアルトキハ之ヲ議ス
第九条 会場ノ細則ハ本会ニ於テ議定シ戸長ノ認可ヲ得テ之ヲ施行スヘシ
第十条 本会ノ費用ハ総テ該宿協議費ヲ以テ支弁スヘシ
第二章 撰挙
第十一条 本会ノ議員ハ宿方人員ニ従ヒ之カ員数ヲ定ムル左ノ如シ
一住民三千四百四拾二人 議員三十人
但住民百拾五人ニ付議員一人ツツトス
第十二条 議長副議長ハ議員中ヨリ公撰シテ之ヲ戸長ニ報告シ戸長ハ郡長ニ報告スヘシ
第十三条 議長副議長及ヒ議員ハ俸給ナシ
但会期中行厨料ヲ給ス其額ハ会議ノ議決ヲ以テ之ヲ定ム
第十四条 書記ハ議長之ヲ撰任シ庶務ヲ整理セシム其定員及ヒ俸給旅費ノ額ハ会議ノ議決ヲ以テ之ヲ定ム
第十五条 本会ノ議員タルヲ得ヘキ者ハ満二十歳以上ノ男子ニシテ該宿内ニ本籍居住ヲ定メ該宿内ニ於テ不動産ヲ有スル者ニ限ル但左ノ各款ニ抵触スル者ハ議員タルヲ得ス
第一款 白痴瘋癲及ヒ聾唖失明ノ者
第二款 懲役一年以上及ヒ国事犯禁獄一年以上実決ノ刑ニ処セラレタル者
但満期後七ケ年経タル者ハ此限ニアラズ
第三款 身代限ノ処分ヲ受ケ負債ノ弁償ヲ終ヘサル者
第四款 官吏准官吏及ヒ教導職或補以上ノ者
第五款 現今軍務ニ在ル者
第十六条 議員ヲ選挙スルヲ得ヘキ者ハ満二十歳以上ノ男子ニシテ該宿内ニ本籍居住ヲ定メ不動産ヲ有スル者及ヒ満三年以上不断寄留シ該宿内ニ於テ不動産ヲ有スル者ニ限ル
但前条ノ第一款中白痴瘋癲及ヒ第二款第三款ニ抵触スル者ハ選挙人タルヲコトヲ得ス
第十七条 議員ヲ撰挙セントスルトキハ戸長ハ予メ撰挙会ヲ開クヘキ日ヲ定メ少クモ十五日前ニ某日投票ヲ為スヘキ旨ヲ公告シ戸長役場ニ於テ投票ヲナサシムヘシ
但便宜ニ依リ役場外ニ於テ撰挙会ヲ開クコトアルヘシ
第十八条 投票ハ戸長ヨリ附与シタル用紙ニ該宿議員ノ数ニ応シ各自撰挙セント欲スル者ノ姓名ヲ記シ且自己ノ姓名ヲ記シ調印シテ之ヲ合封シ予定ノ日投票函ニ投入スヘシ
但投票ハ代人ニ托シ差出スモ妨ナシ
第十九条 投票ハ撰挙人ノ面前ニ於テ戸長之ヲ披閲シ其最多数ノ者ヲ以テ当撰人トシ同数ノ者ハ年長ヲ取リ同年ノ者ハ抽選ヲ以テ之ヲ定ムヘシ
第二十条 投票披閲ノ際戸長ハ撰挙人名簿ニ就テ投票ノ当否ヲ検シ又被撰人名簿ニ就テ被撰人ノ当否ヲ査ス若シ法ニ於テ不適当ナル者アルカ或ハ当撰人自ラ其撰ヲ辞スルトキハ順次投票ノ多数ヲ得タル者ヲ取ル
第二十一条 当撰人ノ当否ヲ査定スルノ後戸長ハ当撰人ヲ役場ニ呼出シ当選状ヲ渡シ当撰人ハ承諾書ヲ出スヘシ
但当撰人各承諾書ヲ出シタル後戸長ハ其姓名ヲ宿内ニ公告スヘシ
第二十二条 議員ノ任期ハ四年トシ二年毎ニ全数ノ半ヲ改撰ス但最初二年ノ改撰ヲ為スハ抽選ヲ以テ其退任ノ人ヲ定ム
第二十三条 議長副議長ノ任期ハ二年トシ議員ノ改撰毎ニ之ヲ公撰スヘシ
第二十四条 前二ケ条ノ場合ニ於テハ前任ノ者ヲ再撰スルコトヲ得
第二十五条 議員任期中第十五条ニ掲タル諸款ノ場合ニ遭遇スル者アルカ該宿外ヘ転住スルカ又ハ死去シタルトキハ更ニ其欠ニ代ル者ヲ撰挙ス其疾病等止ムヲ得サル事故ナクシテ開会ノ招集ニ応セサル者ハ退職者トシ亦其欠ニ代ル者ヲ撰挙スヘシ
第三章 議則
第二十六条 議員半数以上出席セサレハ当日会議ヲ開クヲ得ス
第二十七条 会議ハ過半数ニ依テ決ス可否同数ナルトキハ議長ノ可否スル所ニ依ル
第二十八条 戸長若クハ其代理人ハ会議ニ於テ議案ノ旨趣ヲ弁明スルヲ得ルト雖モ決議ノ数ニ入ルコトヲ得ス
但第五条ニ付テノ議案ノ旨趣ハ意見書ヲ出シタル議員之ヲ弁明スルコトヲ得
第二十九条 会議ハ傍聴ヲ許ス但戸長ノ要メニ依リ又ハ議長ノ意見ヲ以テ傍聴ヲ禁スルコトアルヘシ
第三十条 議員ハ会議ニ方リ充分討論ノ権ヲ有ス然レトモ人身上ニ就テ褒貶毀誉ニ渉ルコトヲ得ス
第三十一条 議場ヲ整理スルハ議長ノ職掌トス若シ規則ニ背キ議長之ヲ制止シテ其命ニ順ハサル者アルトキハ議長ハ之ヲ議場外ニ退去セシムルヲ得其強暴ニ渉ル者ハ警察官吏ノ処分ヲ求ムルヲ得
第四章 開閉
第三十二条 本宿会ハ毎年一度五月ニ於テ之ヲ開ク其開閉ハ戸長ヨリ之ヲ命シ会期ハ十日以内トス但戸長ハ会議ノ議決ヲ取り其日限ヲ伸ルコトヲ得ルト雖モ直ニ郡長ニ報告スヘシ
第三十三条 通常会期ノ外会議ニ付ヘキ事件アリテ戸長ヨリ開会ヲ要ムルカ又員半数以上ノ同議ヲ以テ開会ヲ求ルトキハ臨時会ヲ開クコトヲ得
但戸長ハ該会ヲ要スル事由ヲ直チニ郡長ニ報告スヘシ
第三十四条 通常会臨時会トモ其開閉ハ戸長ヨリ郡長ニ報告スヘシ
第三十五条 会議ノ論説法律又ハ規則ヲ犯シ或ハ権限ヲ超ユルコトアリト認ルトキハ戸長ハ直チニ其景状ヲ具シ郡長ノ指揮ヲ乞フヘシ
(大田原・第八四)
なお、村会議員の「当選状」が残されているので次に記す。
相沢善平
右薄葉平沢村衆人ノ投票ニ依リ村会議員ノ撰ニ当則明治十三年ヨリ十六年迄四ケ年間議員タルノ職務ヲ尽シ真誠忠実以テ衆人ノ意ニ背カサランヲ冀望ス
仍当撰状如件
明治十三年七月
戸長
印南彦作
(相沢猛 文書)