町村会の審議の中心は財政審議であるが、次にその財政についてみてみよう。
三新法以来、県内限りの費用を地方税と称し、町村内限りの費用は町村費又は協議費と呼ばれていた。財政運営は町村が自主的に行うことが認められていたが、費目に対する増減の権限しかなかったようである。例えば農事委員・衛生委員が県の指示によって設置され、伍長惣代が村内行政、特に協議委員徴収の補助に当てるために設置され、県の承諾が与えられたりしていたのである。しかし、このことが当時の町村の自治性を限定されたものとしている。
大田原宿の町村費は明治十九年の場合、まず教育費が圧倒的に巨額の負担となっていること、次いで戸長役場費・災害予防及警備費・勧業費・土木費が最も多く、近代における市町村財政の特色を最もよく表わしている(第2・3表)。戸長役場費は戸長が町村の理事者と行政担当者としての性格をもつことから、町村事務の増大は、必然的に国政委任事務の増大となる(第4表)。教育費・土木費なども同様である。国―県財政への転向が、町村費にしわよせとなって地方財政を圧迫していたのである。
第2表 明治19年度大田原宿外一ケ村町村費 |
収支決算表 |
収入の部 |
種別 | 予算額 | 決算額 | 備考 |
| 円 | 円 | |
営業割 | 125.439 | 104.750 | |
戸別割 | 233.098 | 249.228 | |
繰越金 | 51.505 | 51.505 | |
計 | 410.042 | 405.483 | |
支出の部 |
費目 | 予算額 | 決算額 | 備考 |
| 円 | 円 | |
戸長役場費 | 201.942 | 190.207 | |
町村会議費 | 7.000 | 1.645 | |
土木費 | 30.000 | 29.690 | |
救助費 | 13.100 | 0 | |
災害予防及警備費 | 98.800 | 73.647 | |
勧業費 | 39.200 | 30.432 | |
衛生費 | 20.000 | 1.886 | |
計 | 410.042 | 327.507 | |
翌年度繰越高 | 77円976 | |
収入の部 | 支出の部 |
地価割 | 168.997 | 教育費 | 1,115.16 |
営業割 | 207.320 | 会議費 | 4.60 |
戸別割 | 385.500 | 計 | 1,119.76 |
授業料 | 210.000 | | |
地方税補助金 | 54.600 | | |
繰越金 | 93.631 | | |
計 | 1,119.760 | | |
種別 | 件数 |
| 件 |
令達 | 185 |
役場限達 | 444 |
県庁又ハ郡役所へ伺届上申 | 177 |
役場限指令 | 44 |
役場へ所届 | 1,824 |
連書又ハ奥書 | 1,675 |
身代限財産調 | 2 |
諸税取纒 | 100 |
雑件 | 1,602 |
合計 | 6,053 |
次に各項目についてみてみよう。教育費のうちで訓導給・授業生給・会計係などの給料が最も多く、次いで備品・消耗品・郵便費・借家費等の雑費、小使給・訓導授業生旅費等の雑給が三位、四位が修繕費、五位は慰労手当費、以下生徒費・会議費・学事集会費の順になっている。会議費の項目は書記日当・小使給・消耗品・議場借上費となっている。
戸長役場費では、給料・小使給・臨時雇人足・職工等の雑給が最も多く、次いで備品・消耗品・運送費・郵便税・書籍・筆耕料等の庁費、三位が修繕費の順位。
災害予防警備費では、時守給(鐘楼堂)・ポンプ使用費・同修繕費等の警備費、次いで死傷手当の順位。
勧業費では、給料・旅費・臨時雇人足費等の雑給が二位、備品・消耗品・運送費・郵便税の雑費の順。
明治10年 | 明治11年7月~12月まで |
種別 | 金額 | 金額 | 備考 |
| 円 | 円 | |
事務所筆墨費 | 3.7676 | 1.5200 | 大田原宿 |
〃 紙類費 | 26.8530 | 8.9250 | 荻野目村 |
〃 薪炭費 | 5.1860 | 3.3250 | 刈切村 |
〃 油蝋燭費 | 1.0000 | 0.3850 | 大和久村 |
〃 諸器機費 | 2.4050 | 2.4390 | 赤瀬村 |
正副戸長以下出張費 | 11.2130 | 3.0300 | |
道路修繕並掃除費 | 2.6580 | 1.0700 | |
橋梁及修繕費 | 1.4240 | 1.0900 | |
事務所用使給料 | 59.4748 | 19.5000 | |
地租改正費 | 474.6533 | 202.0730 | |
地租改正ニ付担当人日当 | 149.9600 | 96.5120 | |
学校費 | 534.4847 | 269.7900 | |
戸数調費 | 10.3500 | 0 | |
郵便費 | 0 | 0.1900 | |
消防費 | 0 | 96.9600 | |
合計 | 1,283.4094 | 679.8390 | |
土木費は橋梁費と道路費である。衛生費では伝染病予防費・消毒薬諸費・人足賃及び諸雑費等で、救助費は救育費と救助場諸費等である。町村会議費は給料・書記日当・小使給等の雑給に、備品及び消耗品等の雑費である。
種別 | 金額 | 種別 | 金額 |
| 円 | | 円 |
紙 | 1.41 | 地券改正費 | 15.238 |
筆墨 | 0.4825 | 担当人日当 | 17.800 |
炭薪 | 0.220 | 模範等級調日当 | 30.585 |
油蝋燭 | 0.760 | 租税上納ニ付費 | 1.500 |
郵便 | 0.04 | 山林丈量費 | 39.000 |
他出日当 | 0.125 | 戸籍調 | 0.300 |
伍長日当 | 5.410 | 学校 | 39.000 |
祭典費 | 2.500 | 営繕費 | 1.300 |
道路 | 5.400 | 官吏 | 6.000 |
川際 | 42.000 | 々社祭典費 | 1.650 |
橋梁 | 14.450 | 川水堰 | 70.230 |
々社□官□ | 1.155 | | |
村々詞□□ | 2.850 | 計 | 299.4055 |
なお、一般会計年度は七月より翌年六月までである。当時の市域における町村費及び財政の増大の度合いは、史料がないので明らかではない。