町村財政にみる町村政の動き

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町村制施行から明治三十年代にかけての村政の動きを町村財政の変化からみてみると、佐久山町では第2表のとおりである。同二十年代の歳入・歳出は伸びがみられず、むしろ低くなったのである。このことは、新しくできた町村が、国家行政の末端としての事務を遂行するためのものであったことを示している。そのため、佐久山町では第1表の中にみられた常設委員を廃止し、同二十七年には区長を設けている。そして町役場は区長に対して国家の命令を忠実に履行させているのである。次の例は日清戦争時のものである。
第2表 佐久山町歳入出決算表
(単位:円)
歳入指数歳出指数備考
明治232,241.955100.02,084.978100.0道路開修2,870間,593,509支出
241,583.07870.61,437.88569.0
251,261.26356.31,227.32258.9
261,255.34056.01,253.75160.1
271,949.20386.91,824.03387.5消防組法被450枚,318,507支出
281,819.61881.21,639.36078.6
291,900.10784.81,745.86283.7
301,876.82183.71,827.76187.7
312,190.78597.71,976.47394.8
323,492.530155.82,633.077126.3
334,856.619216.63,712.770178.1隔離病舎新築費655,071支出
343,437.243153.32,889.440138.6
353,541.890158.03,117.504149.5
363,608.570161.02,931.167140.6
373,305.162147.43,253.326156.0
382,843.189126.82,828.923155.7
393,578.575159.63,410.016163.6
404,374.722195.14,114.535197.3村社神饌幣帛料5,000支出
416,185.998275.96,185.998296.7役場新築費1,282,198支出
427,675.509342.47,675.509368.1福原小学校新築費2,795,625支出
434,765.275212.54,720.472226.4
445,301.428236.54,639.099222.6
457,667.014342.07,151.986343.0小郷野道下36町5反歩払下げ
(佐久山・第41,42)

  諭第六四号
馬匹徴発ノ命令アリタル時ハ、昼夜ヲ論ゼズ六時間以内ニ出発シ一昼夜十二里詰ヲ以テ左ノ物品ヲ携帯、検査場若クハ派出検査場ニ参着シ検査ヲ受クベキ筈ニ付、下令ニ際シ不都合無之様、大至急各馬主ヘ伝達相成度候也

   明治二十七年九月四日
                                        佐久山町役場
   区長    殿
     持参スベキ物品
  一、網具(手網・張網)及駄具 乗馬〓馬ニハ鞍具ヲ要セズ
  二、飼麦 壱斗五升入ル叺或ハ袋
  三、蹄鉄ヲ装セザル馬匹ハ蒿沓六足
  四、飯行李一個及人馬ノ雨具
(佐久山・第二二)

 したがって、町村制が施行された明治二十年代は、町村の自治といっても、それは名ばかりであった。ただ佐久山町において町政の特徴的なことは、第2表にみるとおり、同二十三年の道路改修と、同二十七年の消防法被をそろえたことであろう。おそらく初期の町村政治においては、町村道の整備と消防組の充実が図られたのであろう。このことは、大田原町会日誌の中に、「道路掃除規定」や「大田原町消防組規則」が制定されたり、常設委員の職務権限の第一に「本町内ノ土木工事ヲ監視スルコト」と記載があることからも了解できるのである。
 同三十年代に入ると町村財政は同二十三年に比べて増大し、佐久山町歳出決算は一五〇パーセント台となる(第2表)。そして、特徴的なことは、同三十三年に隔離病舎が新築されていることで、同三十年「伝染病予防法」が公布されて、それに伴って県の補助金を受けて建設されたものである。なお金田村では同三十五年一月金田村立避病院が、上奥沢の国有地を借用して設立されている。
 このような動きのみられる同三十三年の町村財政をみると、第3表のとおりである。大田原市域にほぼ該当する二町三村の歳入の特色は、主に戸別割によって納められる町村税が六五・七パーセントを占めていることであり、歳出では教育費が半分を超える五一・〇パーセントを占めていることであった。町村の住民生活の向上と結びつく土木費・衛生費・警備費・勧業費などはあわせても一〇パーセントに満たなかったのである。
第3表-1 明治33年町村歳入出決算表
歳入
(単位:円)
費目大田原町親園村野崎村佐久山町金田村
財産ヨリ生スル収入4.9504.9500.0
雑収入1,197.916264.320417.745949.713320.1153,149.80914.6
使用料及手数料39.69011.1008.35019.60051.500130.2400.6
前年度繰越金305.5978.40658.539859.453984.4362,216.43110.2
地方税補助費157.158279.317436.4752.0
寄付金.250191.4672.200193.6670.9
一時借入金32.276800.000832.2763.8
国税交付金104.1697.1565.83426.94611.084155.1890.7
県税交付金120.78929.48636.05745.26155.974287.5671.3
町村税4,461.0211,565.7401,729.9472,607.0213,854.90414,218.63365.7
合計6,229.1821,891.4082,480.2154,665.1526,359.53021,625.487100.0
町村税項目
地価割277.341675.590846.665549.4681,173.0763,522.14024.7
国税営業別367.34039.097173.03974.228653.7044.5
県税営業別809.075163.278217.023286.581374.5591,850.51613.0
戸別割3,207.265651.175666.2591,470.8562,233.0418,228.59657.8
所得税割36.600127.077163.6771.1
4,461.0211,565.7401,729.9472,107.0213,854.90414,218.633100.0
(「明治35年那須郡統計書」より作成)

第3表-2
歳出
(単位:円)
費目大田原町親園村野崎村佐久山町金田村
役場費1,554.582546.383614.0591,018.4501,860.4785,593.95228.8
会議費14.4706.9906.8009.20097.173134.6330.7
土木費305.074.760.600306.4341.6
教育費3,288.9501,122.8161,595.0571,543.4742,369.4059,919.70251.0
衛生費95.19619.60018.455884.766196.9051,214.9226.2
救助費.460.450.9100.0
警備費46.3005.3301.000147.830131.328331.7881.7
勧業費5.00010.00015.1726.23047.00083.4020.4
雑支出30.00026.2682.24058.5080.3
基本財産積立金
諸税及負担128.702101.730128.44599.990178.270637.1373.3
町村公債費359.980359.9801.8
臨時費814.730814.7304.2
合計5,468.7341,839.1172,379.7483,712.7806,055.71919,456.098100.0
(「明治35年那須郡統計書」より作成)

 なお、町村税の主要部を占める戸別割は、町村税則によって住民の貧富の差に応じて等級区分され、課税されたのであった。大田原町の明治二十二年度町税規則によれば、戸別割は一〇等に区別されていたのである。