第五節 昭和初期の町村議会

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 大正十五年(一九二六)十二月二十五日、大正天皇が崩御され、翌二十六日に元号が「昭和」と改元された。ここに昭和新時代のスタートが切られたのである。
 当時の日本経済は極端な不景気の中で、またまた金融恐慌や世界恐慌を迎えることになるのである。まさに、きびしい昭和の幕明けであった。
 各町村においては、その行政の執行は税の未納など容易ならざるものがあった。町村議会でも議案案件について真剣な討議がなされたのである。ここに町村議会についての、昭和初期のものと思われる「大田原町会々議細則」があるが、当時の町村議会運営を理解するためにも貴重であるので紹介しよう。

大田原町会会議細則

    大田原町会々議細則
第一条 会議ハ午前第九時ニ始マリ午後第三時ニ終ル 時宜ニ依リ議長ノ意見ヲ以テ之ヲ伸縮スルコトアルベシ

  第二条 議員ノ席次ハ予メ抽選ヲ以テ之ヲ定ムベシ
  第三条 議事ハ通常三次会ヲ経テ決スルモノトス。其順序左ノ如シ
     第一次会 総体議
第一項 議長ハ先ツ議案ヲ各議員ニ配付シ議ヲ開クニ先チ書記ヲシテ朗読セシム

第二項 議案ノ趣旨ニ付疑議アルトキ(トキ)ハ議長ノ許可ヲ得テ其弁明ヲ求ムルコトヲ得

   第三項 質議既ニ畢シ議案ノ総体ニ付可否ヲ決ス
第四項 議案ノ趣旨ハ可トスルモ其方法ヲ改正セントスルトキハ委員ヲシテ之ヲ修正セシメ其報告ヲ俟テ更ニ第一次会ヲ開ク但委員ハ議長之ヲ命シ或ハ投票ヲ以テ之ヲ定ム

     第二次会 逐条議
第五項 議長ハ書記ヲシテ前会ニ於テ可決シタル議案ノ条ヲ逐ヒ之ヲ朗読セシメ討論審議シ其可否ヲ決ス

     第三次会 確定議
第六項 議長ハ書記ヲシテ前会ニ於テ可決シタル議案ヲ総体朗読セシメ其可否ヲ問ヒ之ヲ確定ス

第四条 議員発言セントスルトキハ起立シテ番号ヲ唱ヒ議長ノ許可ヲ得ベシ若シ二人以上同時ニ起立スルトキハ議長其一人ヲ指シテ発言セシム一議員発言中ハ他ノ議員黙聴スベシ

  第五条 同次会中一事件ニ付再議ヲ提出スルコトヲ得ズ
  第六条 凡ソ議員発言スルニ一ノ賛成ナキモノハ之ヲ議題トナスコトヲ得ズ
    但三次会ニ於テハ三名以上ノ賛成ナキモノハ議題トナスコトヲ得ズ
  第七条 凡ソ可否ヲ決スルノ法ハ起立又ハ投票ヲ以テス
第八条 出席ノ議員ハ(町村制第四十五条第一項ニ該当スル外)可否ノ数ニ入ラザルコトヲ得ズ

第九条 修正説アルトキハ原按ニ先チテ可否ヲ決シ其多数ナルトキハ最モ原按ニ異ナルモノヲ先ニシ漸次ニ可否ヲ決スベシ若シ其先後ニ論アルトキハ議長之ヲ決シ或ハ議会ノ意見ヲ問フベシ

第十条 議長ハ議事ノ順序ヲ定メ或ハ議事ノ都合ニヨリ数条ヲ連絡シ又ハ一条ヲ数節トナシ又ハ修正ノ諸説ヲ分別シテ決議ヲ取ルコトアルベシ

第十一条 議事中ハ総テ氏名ヲ称セズ議長ハ議長ト呼ビ議員ハ番号ヲ呼ブベシ

第十二条 議長ハ其議論冗長ニ渉リ或ハ議案ノ域外ニ出ルト認ムルトキハ之ヲ制止スルコトヲ得

議長之ヲ制止シテ其命ニ順ハザルモノアルトキハ議長ハ之ヲ議場外ニ退去セシムルヲ得其強暴ニ渉ルモノハ警察官吏ノ処分ヲ求ムルコトヲ得

第十三条 会議ニ当リ議員ハ充分討論ノ権ヲ有ス然レドモ(ドモ)人身上褒貶毀誉ニ渉ルコトヲ得ズ

  第十四条 議員ハ開議時限前ニ登場シ出頭簿ニ捺印スベシ
但事故或ハ病気ノ為メ会議ニ出席スル能ハザルトキハ其旨ヲ記シテ必ズ開議時限前ニ届出ツベシ

第十五条 議題外議事中ニ起リタル事件ニシテ本則ニ明文ナキモノハ議長之ヲ決シ或ハ議会ノ意見ヲ問フベシ

第十六条 議長ハ毎会議事ニ先チ出席議員数及ビ欠席議員ヲ報告スベシ

  第十七条 凡ソ議員議席ヲ離レントスルトキハ議長ノ許可ヲ受クベシ
  第十八条 議事ノ始終ハ撃柝ヲ以テ之ヲ報ズ
第十九条 本則第十四条ニ違背シタルモノハ本会ノ議決ヲ以テ過怠金弐円以下ヲ科スルコト(コト)ヲ得

 ここに、明治憲法下における町村議会運営が、議長の権限を強く出しながらも、それなりの形で町村の地方議会の中に定着していった様相をみるのである。