当市域における経済不況は、昭和二年二月の野州銀行と佐久山銀行の合併に始まり、これは、後に下野中央銀行に吸収合併され、同五年十二月、星野産業銀行・下野中央銀行が破綻休業し、その後解散へと追い込まれたのである。このように地方銀行は、次々と連鎖反応を起こし、休業倒産していったのである。ここに、金融流通に頼っていた商家の経営は危機に見舞われ、そればかりでなく、この影響は農業経営をも圧迫し、土地を抵当に融資を受けていた農民は、土地を手放さねばならなくなり、いっきに小作農へと転落していった者が多かったのである。
昭和三年の「親園村事務報告」には、次のように記されている。
事務ノ処理ニ関シテハ勉メテ迅速ヲ旨トシ、其予算執行ト相俟テ、概シテ良好ノ成績ヲ治メタリト雖モ、連年打続ク農家経済ノ不況ハ年ト共ニ益々村民ノ生活ニ不安ノ念ヲカモシ、殊ニ本年ニ至リテ、更ニ稀有ノ凶作ノ悲運ヲ見ルニ及ヒ、為ニ人心萎縮シテ雄大ナル気風、将ニ去ラントスル時ニ当リ、茲ニ対策シテ各種団体ノ活動ヲ促シ、民力ノ涵養ヲ資スルニ講演講話ノ機会ヲ求メ、或ハ産業組合ト連ケイシテ需要供給ノ道ヲ開キ、尚今後ニ於ケル需給ノ対策ニ力ヲ効シ、堅実ナル農家経営ノ方策ヲ図ラント欲シ、理事者ノ苦心常ニ間断ナシ。
また、諸税徴収の状況をみると、収入が漸時減退しても、税額を減ずることは行政サイドとしてはできないのである。しかし、「逐年ノ経済不況ハ益々深刻ノ度ヲ加ヘ、為ニ納税成績ニ及ボス影響少ナシトセズ、加フルニ本年ノ生産ニ於テ生産物タル米穀ハ、気候ノ変調ニ伴フ減収ヲ余儀ナクシ、本村一帯ノ減収実ニ三割以上ノ統計ヲ示シ」(「親園村事務報告」)たのである。まさに、減収三割以上とは大変な危機で、村費の増額を余儀なくされ、税以外の寄付やその他の拠出に係る多額の村民負担も増大し、ここに、経費と冗費の節約を訴えているのである。
同七年の金田村役場記録によれば、農村振興のために、土木事業を行っていることがわかる(第6表)。
第6表 匡救農村振興土木事業 |
大字名 | 路線名又ハ河川名 | 工種 | 新築又ハ改築ノ別 | 延長 | 巾員 | 工事費 | 摘要 |
m | m | 円 | 人 | ||||
中田原 | 中田原字上深田川西町寒井線 | 切取盛土路面 | 改築 | 一、五〇〇 | 四 | 三、〇〇〇 | 二、〇〇〇 |
中田原 | 中田原字上ノ台東那須野線 | 〃 | 〃 及新築 | 二、五〇〇 | 四 | 二、〇〇〇 | 一、五〇〇 |
中田原 | 中田原上ノ台鹿畑線 | 路面 | 〃 | 二、五〇〇 | 四 | 二、〇〇〇 | 一、五〇〇 |
北金丸 | 北金丸川西町余瀬線 | 路面橋梁 | 〃 | 一、五〇〇 | 四 | 二、〇〇〇 | 一、〇〇〇 |
中田原 | 中田原字河原東那須野線 | 路面 | 〃 | 一、五〇〇 | 四 | 一、〇〇〇 | 一、〇〇〇 |
(金田・第二〇八) |
なお、昭和十年の記録に、政府所有米穀払下願があるが、金田村農家のうち四六七戸が応急土木事業に参加し、その労賃の一部として、政府所有米一、〇三六俵の払下げを願い出ているのである(第7表)。
第7表 政府所有米穀払下申込控 |
(昭和一〇年二月二四日) |
字名 | 申込俵数 | 申込戸数 | 字名 | 申込俵数 | 申込戸数 |
中田原 | 一〇二 | 八〇 | 練貫 | 四六二 | 四二 |
戸野内 | 一〇 | 一〇 | 羽田 | 一三三 | 八八 |
市野沢 | 六〇 | 五〇 | 奥沢 | 九 | 五 |
乙連沢 | 五〇 | 三〇 | 鹿畑 | 五〇 | 三五 |
北金丸 | 二七 | 一二 | 倉骨 | 一五 | 一〇 |
南金丸 | 九〇 | 六〇 | |||
上奥沢 | 二八 | 四五 | 計 | 一、〇三〇 | 四六七 |
(「金田村役場記録」) |
そのほか、農村経済不況に対する行政の対応としては、米価対策、肥料配給改善などがあったが、農村の自力の経済更生を求めて、全国各市町村の中から年度ごとに指定していった農山経済更生計画は、まさに大規模なものであった。栃木県においては、一年に二〇か町村を指定し、その指導に当たった。大田原地区では、同七年に親園村・野崎村、八年に金田村、十一年に佐久山町が指定されている(第二編第六章経済参照)。
次に、米価対策の一端を掲げておく。
○米価対策
イ 売崩し防止 必ず農会販売組合農業倉庫共同販売する
ロ 資金必要迫れる者は、米穀を農業倉庫産業組合に担保に資金の融通を受ける
ハ 販売方法は、平均売を実行すること
ニ 各部落毎に座談会を開き周知徹底を図り、自衛的手段を講ずること
(「金田村役場記録」)
このような経済不況下における町村の財政は、どのような状況であったのだろうか。昭和八年度の野崎村と、同十一年度の金田村の場合は、第8表のような歳入・歳出となっている。
第8表 野崎村・金田村の歳入歳出 |
野崎村 |
(昭和八年「野崎村勢一覧」) |
財政(八年度) | 歳入予算(臨時費ヲ含ム) | 科目 | 金額 | 歳出予算(臨時費ヲ含ム) | 科目 | 金額 | |
円 | 円 | ||||||
財産ヨリ生スル収入 | 七一八 | 役場費 | 四、六八八 | ||||
使用及手数料 | 六八八 | 会議費 | 一三四 | ||||
交付金 | 五四六 | 土木費 | 三五 | ||||
下渡金 | 七、一五九 | 教育費 | 一六、五二二 | ||||
補助金 | 八三五 | 衛生費 | 六九 | ||||
寄附金 | ― | 勧業費 | 一九一 | ||||
繰入金 | ― | 警備費 | 五〇七 | ||||
繰越金 | 一 | 救助費 | 一 | ||||
雑収入 | 三、六二四 | 基本財産造成費 | 二一七 | ||||
村債 | ― | 財産費 | ― | ||||
国税附加税 | 五、〇九〇 | 補助及寄附金 | 一、五九二 | ||||
県税附加税 | 二、九三六 | 雑支出 | 三二一 | ||||
反別割其他 | 六、四〇一 | 予備費 | 五〇〇 | ||||
其他 | ― | 其他 | 三、二二一 | ||||
計 | 二七、九九八 | 計 | 二七、九九八 | ||||
前年度 | 八五、六一四 | 前年度 | 八五、六一四 | ||||
租税 | 種別 | 直接国税 | 県税 | 村税 | 計 | 前年度 | |
納額 | 七、〇四二円 | 一三、五四四円 | 一四、一八四円 | 三四、七七〇円 | 三六、六〇三円 | ||
人員 | 一、七二九人 | 二、五六八人 | 三、一八一人 | 七、四七八人 | 八、一八四人 |
金田村 |
(昭和一一年「金田村勢一覧」) |
歳入予算(臨時費ヲ含ム) | 円 | 円 | 円 | |||
財産ヨリ生スル収入 | 一、二四五 | 寄附金 | 五 | 町村税 | 三〇、八九九 | |
使用料及手数料 | 一、六八〇 | 繰入金 | ― | 其ノ他 | ||
交付金 | 七五六 | 繰越金 | 二、二〇〇 | |||
下渡金 | 一三、三〇〇 | 雑収入 | 二、五四〇 | 計 | 五三、五五〇 | |
補助金 | 九三〇 | 町村債 | ― | 前年度 | 五二、五〇一 | |
歳出予算(臨時費ヲ含ム) | 神社費 | 一三二 | 勧業費 | 二三四 | 寄附金 | ― |
会議費 | 二八〇 | 救助費 | 三八〇 | 予備費 | 八〇〇 | |
役場費 | 九、三〇〇 | 警備費 | 九七一 | 其ノ他 | 七七〇 | |
土木費 | 六〇〇 | 基本財産造成費 | 一、二七〇 | |||
教育費 | 三一、三二四 | 財産費 | ― | 計 | 五三、五五〇 | |
衛生費 | 五五九 | 補助金 | ― | 前年度 | 五二、五〇一 |