第六節 昭和恐慌と行財政

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 日本の経済界は、第一次世界大戦中の飛躍的発展の好景気の中に、戦争成金も現われたが、終戦と共に経済界のかげりは著しく、それに大正十二年(一九二三)の関東大震災は、さらに追い打ちをかけるものであった。このような不況の中での新時代のスタートは、明けて金融恐慌となり、銀行の倒産が相次ぎ、昭和四年には、アメリカニューヨークの銀行街の株価が大暴落したのをきっかけに、世界経済は大混乱に陥った。この影響は日本にも及び、日本経済の不況は恒常的となっていったのである。
 当市域における経済不況は、昭和二年二月の野州銀行と佐久山銀行の合併に始まり、これは、後に下野中央銀行に吸収合併され、同五年十二月、星野産業銀行・下野中央銀行が破綻休業し、その後解散へと追い込まれたのである。このように地方銀行は、次々と連鎖反応を起こし、休業倒産していったのである。ここに、金融流通に頼っていた商家の経営は危機に見舞われ、そればかりでなく、この影響は農業経営をも圧迫し、土地を抵当に融資を受けていた農民は、土地を手放さねばならなくなり、いっきに小作農へと転落していった者が多かったのである。
 昭和三年の「親園村事務報告」には、次のように記されている。
 
事務ノ処理ニ関シテハ勉メテ迅速ヲ旨トシ、其予算執行ト相俟テ、概シテ良好ノ成績ヲ治メタリト雖モ、連年打続ク農家経済ノ不況ハ年ト共ニ益々村民ノ生活ニ不安ノ念ヲカモシ、殊ニ本年ニ至リテ、更ニ稀有ノ凶作ノ悲運ヲ見ルニ及ヒ、為ニ人心萎縮シテ雄大ナル気風、将ニ去ラントスル時ニ当リ、茲ニ対策シテ各種団体ノ活動ヲ促シ、民力ノ涵養ヲ資スルニ講演講話ノ機会ヲ求メ、或ハ産業組合ト連ケイシテ需要供給ノ道ヲ開キ、尚今後ニ於ケル需給ノ対策ニ力ヲ効シ、堅実ナル農家経営ノ方策ヲ図ラント欲シ、理事者ノ苦心常ニ間断ナシ。

 また、諸税徴収の状況をみると、収入が漸時減退しても、税額を減ずることは行政サイドとしてはできないのである。しかし、「逐年ノ経済不況ハ益々深刻ノ度ヲ加ヘ、為ニ納税成績ニ及ボス影響少ナシトセズ、加フルニ本年ノ生産ニ於テ生産物タル米穀ハ、気候ノ変調ニ伴フ減収ヲ余儀ナクシ、本村一帯ノ減収実ニ三割以上ノ統計ヲ示シ」(「親園村事務報告」)たのである。まさに、減収三割以上とは大変な危機で、村費の増額を余儀なくされ、税以外の寄付やその他の拠出に係る多額の村民負担も増大し、ここに、経費と冗費の節約を訴えているのである。
 同七年の金田村役場記録によれば、農村振興のために、土木事業を行っていることがわかる(第6表)。
第6表 匡救農村振興土木事業
大字名路線名又ハ河川名工種新築又ハ改築ノ別延長巾員工事費摘要
mm
中田原中田原字上深田川西町寒井線切取盛土路面改築一、五〇〇三、〇〇〇二、〇〇〇
中田原中田原字上ノ台東那須野線〃 及新築二、五〇〇二、〇〇〇一、五〇〇
中田原中田原上ノ台鹿畑線路面二、五〇〇二、〇〇〇一、五〇〇
北金丸北金丸川西町余瀬線路面橋梁一、五〇〇二、〇〇〇一、〇〇〇
中田原中田原字河原東那須野線路面一、五〇〇一、〇〇〇一、〇〇〇
(金田・第二〇八)

 なお、昭和十年の記録に、政府所有米穀払下願があるが、金田村農家のうち四六七戸が応急土木事業に参加し、その労賃の一部として、政府所有米一、〇三六俵の払下げを願い出ているのである(第7表)。
第7表 政府所有米穀払下申込控
(昭和一〇年二月二四日)
字名申込俵数申込戸数字名申込俵数申込戸数
中田原一〇二八〇練貫四六二四二
戸野内一〇一〇羽田一三三八八
市野沢六〇五〇奥沢
乙連沢五〇三〇鹿畑五〇三五
北金丸二七一二倉骨一五一〇
南金丸九〇六〇
上奥沢二八四五一、〇三〇四六七
(「金田村役場記録」)

 そのほか、農村経済不況に対する行政の対応としては、米価対策、肥料配給改善などがあったが、農村の自力の経済更生を求めて、全国各市町村の中から年度ごとに指定していった農山経済更生計画は、まさに大規模なものであった。栃木県においては、一年に二〇か町村を指定し、その指導に当たった。大田原地区では、同七年に親園村・野崎村、八年に金田村、十一年に佐久山町が指定されている(第二編第六章経済参照)。
 次に、米価対策の一端を掲げておく。
 
  ○米価対策
  イ 売崩し防止 必ず農会販売組合農業倉庫共同販売する
  ロ 資金必要迫れる者は、米穀を農業倉庫産業組合に担保に資金の融通を受ける
  ハ 販売方法は、平均売を実行すること
  ニ 各部落毎に座談会を開き周知徹底を図り、自衛的手段を講ずること
(「金田村役場記録」)

 このような経済不況下における町村の財政は、どのような状況であったのだろうか。昭和八年度の野崎村と、同十一年度の金田村の場合は、第8表のような歳入・歳出となっている。
第8表 野崎村・金田村の歳入歳出
野崎村
(昭和八年「野崎村勢一覧」)
財政(八年度)歳入予算(臨時費ヲ含ム)科目金額歳出予算(臨時費ヲ含ム)科目金額
財産ヨリ生スル収入七一八役場費四、六八八
使用及手数料六八八会議費一三四
交付金五四六土木費三五
下渡金七、一五九教育費一六、五二二
補助金八三五衛生費六九
寄附金勧業費一九一
繰入金警備費五〇七
繰越金救助費
雑収入三、六二四基本財産造成費二一七
村債財産費
村税国税附加税五、〇九〇補助及寄附金一、五九二
県税附加税二、九三六雑支出三二一
反別割其他六、四〇一予備費五〇〇
其他其他三、二二一
二七、九九八二七、九九八
前年度八五、六一四前年度八五、六一四
租税種別直接国税県税村税前年度
納額七、〇四二円一三、五四四円一四、一八四円三四、七七〇円三六、六〇三円
人員一、七二九人二、五六八人三、一八一人七、四七八人八、一八四人

金田村
(昭和一一年「金田村勢一覧」)
歳入予算(臨時費ヲ含ム)
財産ヨリ生スル収入一、二四五寄附金町村税三〇、八九九
使用料及手数料一、六八〇繰入金其ノ他
交付金七五六繰越金二、二〇〇
下渡金一三、三〇〇雑収入二、五四〇五三、五五〇
補助金九三〇町村債前年度五二、五〇一
歳出予算(臨時費ヲ含ム)神社費一三二勧業費二三四寄附金
会議費二八〇救助費三八〇予備費八〇〇
役場費九、三〇〇警備費九七一其ノ他七七〇
土木費六〇〇基本財産造成費一、二七〇
教育費三一、三二四財産費五三、五五〇
衛生費五五九補助金前年度五二、五〇一