第八節 戦後の行政

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 遂に戦争は、二十年八月十五日をもって終戦となり、日本は連合軍側の提示するポツダム宣言を受諾したのである。その二日後の八月十七日付で、金田村では、村民は冷静に事態を受けとめ、食糧の増産をはじめ、麦類・野菜類などの供出に協力するよう、金田村長名で部落会長に呼びかけている。
 
国民ノ総力ノモト四ケ年大東亜戦モ戦局我ニ利アラズシテ遂ニ最後ノ段階ニ到達シテ才ヲ納ムルニ到リタリ村民各位ハ部落会長銃卒ノ下克ク忍ビ難キヲ忍ビ戦争完遂ニ全幅ノ協力ヲ惜マズ凡ル苦難ニ堪ヘ戦勝光明ヘノ希望ヲ以テ義勇公ニ奉スル精神ヲ昂揚シツヽアルモ 国際情勢ノ急転ト残虐無道ナル新型爆弾ノ出現ニ政府ハ遂ニ国体護持民族ノ名誉保持ノ為ポツダム会議ノ要項ヲ受諾スルニ到レルハ各位ノ御承知ノ通リニシテ誠ニ遺憾ニ堪ヘザル次第ニ候、然レトモ事コヽニ到リテハ万策尽キタルモノト謂ベク唯今後臥薪嘗膽民族再起ノ途ヲ講スルノ外ナク此ノ際村民ハ冷静事態ノ推移ヲ注意シ其ノ職任ニ挺身シ以後ノ情勢ノ如何ニ拘ラズ食糧ノ増産確保ニ全力ヲ傾倒セラレム事ヲ切望スル次第ニ候

動モスレバ時局ヲ曲解シ農民ノ使命ヲ放棄シ或ハ食糧ノ供出責任等ニ協力セサルハ同胞ヲ一層苦境ニ追ヘ込ミ国民生活ヲ危キニ陥レ国内不安ヲ醸成スルニ到リ治安維持モ又固(ママ)難ヲ来スベク代リテハ詔書必謹ニモ悖リ恐懼ニ堪ヘサル次第ニ候 部落会長ハ部落民各位ノ反省ヲ促シ麦類野菜類ノ供出ニハ従来通リ協力セラルヽ様周知方御取計願上候

(金田・第二一三)

 このように、村民の動揺がないように、早々と手を打ったわけであるが、各種のデマも飛び交い、到底正常な生産活動などできる状態ではなかった。しかし、時とともに落着きをとり戻した人々に、待っていたのは、物資不足と通貨の乱発によるインフレーションであったのである。
 このような状況下における、昭和二十五年の野崎村の税負担状況をみると、一人当り負担金で、前年(二十四年)の四六八円六四銭に対して一、〇〇三円で、二倍以上となっていることがわかる。いずれにしても、戦前に対し、二十一年以降の戦後の一世帯当りや一人当りの負担額が、毎年倍増していることがうかがえるのである(第11表)。
第11表 野崎村住民の負担状況
(単位:円)
村税調定額1世帯当負担金1人当負担金摘要
昭和15年16,11922.263.7615年国勢調査による世帯人口
1619,82327.374.62
1719,44726.864.54
1821,11729.164.93
1923,60832.605.51
2028,16537.526.57
2191,34989.3815.92国勢調査による世帯数
22541,570540.8193.18国勢調査による世帯数
231,691,7121,689.34291.07
242,859,6212,731.25468.64
255,984,6145,937.001,003.00
266,571,4106,519.001,302.00
277,990,9827,820.001,359.00
288,311,3048,429.001,414.00
(「野崎村役場記録」)

 「昭和二十五年自七月至十二月大田原財政事情」(大田原・第七二)によれば、当時改正された「税制」について、
 
(前略)、むしろ困難な面が増加したものと云わなければならず、現在遂行しつつある諸事業、及将来行はなければならない新規事業にも支障ない様、財政運用に慎重を期して行きたいと考えて居ります。

(大田原・第七二)

と、報告している。ここに、同二十五年の大田原町財政グラフがあるのであげよう(第1図)。

第1図 昭和25年度大田原町財政
歳入


歳出
(大田原・第72より作成)

 昭和二十六年のサンフランシスコ平和条約で日本は完全に独立し、国際社会の仲間入りをしたのである。内政的にも経済の発展をみ、ようやく国民は落着きをとりもどした。農地改革をはじめ、六・三制の新教育制度の施行など、戦前と一八〇度の転換の中で、模索しながら、進むべき道を見い出していったのである。
 こうした中で、地方行政の能率化をはじめ、地域産業の発展、公共事業の推進などから、政府は町村合併を推進させるため、同二十八年に「町村合併促進法」を国会で成立させた。栃木県では、同二十九年五月、栃木県町村合併促進審議会を設置し、町村合併計画第一次案を策定した。これによって、大田原への親園・佐久山・金田・野崎地区の合併が促進されるわけであるが、ここに、合併直前の同二十八年度の各町村の財政資料を掲げると第12表のとおりである。
第12表 財政規模(昭和28年度)
歳入決済額
(単位:円)
科目大田原町親園村佐久山町金田村野崎村
町村税18,458,6157,679,5506,151,82816,803,3379,987,470
地方財政平衡交付金8,209,0002,597,0003,745,0006,678,0003,736,000
財産収入7,257,14218,9458,2535,20220304
分担金及び負担金00020
使用料及び手数料411,32034,00091,101248,00176,110
国庫支出金5,790,306329,5021,123,5802,170,6071,363,355
県支出金407,1181,702,458274,9322,474,858685,041
寄附金90,003615,002300,0014,109,251280,010
繰入金59,501011,000,0000
繰越金3,380,0001,030,226978,5913,181,894625,051
雑収入3,272,690324,234331,895130,76250,468
町村債2,900,0002,000,00001,200,0001,500,000
歳入合計50,235,69516,330,91713,005,18238,001,91418,305,809

歳出決済額
科目大田原町親園村佐久山町金田村野崎村
議会費1,264,814427,320488,120659,744589,260
役場費9,448,9003,425,7083,889,6377,374,9003,659,709
警察消防費3,964,0601,566,9281,080,8541,857,2811,171,470
土木費9,544,7001,065,880504,0001,980,053973,200
教育費13,595,4654,808,9813,974,19615,473,4617,646,840
社会及び労働施設費5,195,100206,838194,909375,000106,675
保健衛生費779,183354,477211,700544,155340,495
産業経済費1,671,1553,215,8891,088,3526,144,4991757,450
地方振興費377,0000000
財産費689,94168,778493,6451,391,047135,999
統計調査費44,00029,5008,00057,50023,383
選挙費260,069137,911122,000369,550198,196
公債費411,500511,50120,002242,06189,340
寄附金(注)1 1,059,490411,206829,7671,032,6631,463,792
諸支出金(〃)2 1,630,3180000
予備費300,000100,000100,000500,000150,000
歳出合計50,235,69516,330,91713,005,18238,001,91418,305,809
歳入歳出差引残金00000
(注)1 大田原町以外は諸支出金 (注)2 大田原町以外は繰支金
(「栃木県市町村誌」栃木県町村会編)

 最後に、昭和前期(町村合併前まで)に、町村行政の責任者として敏腕を振るわれた町村長名を記す。
 
    歴代町村長
 大田原町
  川上保太郎(大一三・ 六~昭 三・一二)
  室井音吉 (昭 四・ 二~昭 四・一〇)
  大橋直次郎(昭 四・一一~昭 五・一二)
  川上利一 (昭 五・一二~昭 八・ 四)
  青柳徳之輔(昭 八・ 五~昭一二・ 五)
  若林末造 (昭一二・ 五~昭一六・ 五)
  増渕音一郎(昭一六・ 五~昭二一・一一)
  益子万吉 (昭二二・ 四~昭二九・一一)
                  (初代市長)
 親園村長
  越井金市 (大一五・ 三~昭 九・ 三
  国井淳一 (昭 九・ 三~昭一三・ 三)
  赤羽篤太郎(昭一三・ 四~昭一五・ 四)
  渋江正  (昭一五・ 四~昭二一・ 五)
  荒井正雪 (昭二一・ 五~昭二九・一一)
                  (合併まで)
 佐久山町
  戸村甲子三郎(大 二・ 四~昭一二・ 四)
  八木沢喜一 (昭一二・ 四~昭一八・ 七)
  池田双助  (昭一八・ 八~昭二一・一二)
  森大暁   (昭二二・ 四~昭三〇・ 三)
  石崎正明  (昭三〇・ 四~昭三〇・一一)
                  (合併まで)
 金田村長
  藤田勅之助 (大 九・ 五~昭 二・ 四)
  渡辺宇平  (昭 二・ 四~昭 六・ 四)
  平山助右衛門(昭 六・ 四~昭 七・ 七)
  室井要   (昭 七・ 七~昭二二・ 三)
  小松兼蔵  (昭二二・ 四~昭二九・一一)
                  (合併まで)
 野崎村長
  相沢猛   (大一三・一一~昭 四・ 七)
  江面金吾  (昭 四・ 七~昭 六・ 五)
  橋本益平  (昭 六・ 五~昭 九・ 二)
  江面新一郎 (昭 九・ 二~昭一一・一一)
  伊東儕   (昭一一・一一~昭一三・一〇)
  小野崎正雄 (昭一四・ 二~昭一六・ 八)
  渡辺庄二郎 (昭一六・ 九~昭二二・ 二)
  町井金市郎 (昭二二・ 四~昭二六・ 四)
  白石久博  (昭二六・ 四~昭二九・一二)
                  (合併まで)
  (注) 空白期間は助役等による職務代行