二 近代の開拓

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 那須野が原の開拓の本格的展開は、明治期に入ってからである。特に那須野が原の開拓は、明治政府の最も頭痛の種であった士族授産という方向ではなく、印南丈作・矢板武を頂点とする民間人による開拓のほかに、明治維新に功績のあった新華族(旧士族)による華族農場の展開が、その特色であった。しかし、旧華族や士族による開拓がなかったわけではない。

印南丈作事跡調書

 ところで、大田原における近代に入ってからの開拓をみると、大田原藩の士族授産による開拓計画、旧大田原藩士鈴木義達や富豪細小路孫八・成田久八らによる西原開墾(後に子爵渡辺国武に売却)、西郷従道・大山巌による加治屋開墾(後に西郷農場・大山農場に分かれる)、金田地区の渡辺農場(一部渡辺千秋分(伯爵渡辺国武の実兄))、鍋島農場(一部)、佐野農場(一部)、安藤農場など明治期に生成した農場がみられる(第12表)。
第12表 那須野が原における主要大農場一覧
(50町歩以上,水利権は那須疏水)
No.農場名別,俗称等土地取得年同西暦地区
1那須牧場明治111878東原他
2肇耕社(三島農場)〃 131880西原
3那須開墾社
4郡司開墾
5漸進社天蚕場〃 141881東原
6那須東原開墾社埼玉開墾
7東肇耕社
8佐野農場佐野開墾
9加治屋開墾大山農場西原
10西郷農場
11青木農場青木開墾東原
12石丸農場〃 151882
13深川農場〃 ?
14共墾社〃 161883
15傘松農場品川農場湯津上原
16毛利農場豊浦農場〃 181885東原他
17戸田農場戸田開墾〃 201887西原
18千本松農場松方農場〃 211888
19矢板農場
20大島農場
21鳥山農場
22佐々木農場
23渡辺農場(千秋分)〃 241891東原
24鍋島農場鍋島開墾〃 261893
25長地農場渡辺農場〃 271894西原
26伊東農場〃 281895
27安藤農場安藤開墾〃 381905大田原
28藤田農場〃 331900東原
29植竹農場〃 321899糠塚原
30高田農場〃 331900西原
31細川農場〃 361903
32甲子農場昭和31928
(注)太数字 大田原地区に関係する農場
No.農場名創始者初めの面積後の面積
(町歩)
水利権動向備考
1那須牧場栃木県673約2800
(明14)
(個)一部共墾社に,明18毛利農場に栃木県営
2肇耕社三島弥太郎他171037520
(昭6)
21.61明治19三島個人農場に華族(子爵)
3那須開墾社印南丈作・矢板武他30003419
(明14)
71.22明治26解散
4郡司開墾郡司忠平他12501.06入植者に売却
5漸進社西山真太郎他53737.74明治~大正,藤田らに売却
6那須東原開墾社吉田市十郎他898520.49〃 ~〃 藤田,太平らに
7東肇耕社深津無一他1768314.30明治19青木農場に売却
8佐野農場佐野常民131257
(大正末)
2.68→解放華族(伯爵)
9加治屋開墾大山巌2522735.25→〃 →売却〃(公爵)
10西郷従道2482481.63昭和12迄に解放〃(侯爵)
11青木農場青木周蔵5821576
(明20?)
12.11→解放→〃(子爵)
12石丸農場石丸安世他823350
(明26)
4.87一部を残して明26鍋島に
13深川農場深川亮蔵他132545.31明治32大部分が鍋島に
14共墾社天野武三郎他17580108
(明17)
2.24士族授産
15傘松農場品川弥二郎239226?4.99明治33平田東助らに華族(子,伯)
16毛利農場毛利元敏1906?1326?18.86→解放→〃(子爵)
17戸田農場戸田氏共883883→解放→〃(伯爵)
18千本松農場松方正義2351650
(明30)
昭和3蓬莱殖産KKに〃(公爵)
19矢板農場矢板武151354
(明44)
昭和16頃迄にほとんど解放
20大島農場大島高任95明治33高田慎蔵に売却
21鳥山農場鳥山利貞152昭和6までに売却譲渡
22佐々木農場佐々木高美129昭和初年までに売却華族(侯爵)
23渡辺農場渡辺千秋135135→解放〃(伯爵)
24鍋島農場鍋島直大151383
(明32)
9.49昭和16解放〃(侯爵)
25長地農場渡辺国武1001001.36→昭和12までに解放〃(子爵)
26伊東農場伊東弥太郎100売却,解放
27安藤農場安藤三夫8989→解放
28藤田農場藤田和三郎198842
(大5)
14.00→飛行場→解放
29植竹農場植竹三右衛門375375→解放→
30高田農場高田慎蔵95190昭和3朝鮮銀行に
31細川農場細川潤次郎25?67昭和16までに売却華族(男爵)
32甲子農場朝鮮銀行95184
(昭11)
昭和13村尾敏一に(栄農場)
(「那須野ケ原開拓のあらまし」磯忍)

 そのほか、大田原にも近代に入ってから各地に小規模な開拓が開かれたが、そのうち本項では、大田原の中城開墾や北金丸の谷中開墾などに多少触れたい。