食用にも、醤油・味噌の原料にもなる大麦や、うどんなどの原料となる小麦は古くから栽培されていた。明治二十六年（一八九三）の麦の生産は、大田原地方では、大麦が三〇三石、小麦が七、三四一石であった（第19表）。小麦の種類には、白矢羽根、相州、中手坊、三尺などがあった。同三十五年以降相次ぐ台風などにより、米作が不振であって米価は高くなり、飯米に不足するようになると、麦作が奨励され、水田裏作として小麦がつくられるようになっていくのである。また換金用としてビールの大麦がつくられるようになり、同四十四年には金田村に大麦耕作組合ができていたことが報告されている。これは同二十六年洋麦種（ケープ種・ゴールデンメロン種）が、金田村大字羽田戸辺国三郎に下付されて以来、次第に普及していったからと思われる。大正五年（一九一六）金田村では九二三名の人が大麦をつくり、一、八四六俵の移出があった。一俵は一六貫五〇〇匁（約六二キログラム）五斗入であったから、三六九石余（一一四トン余）の生産があったのである。同九年大田原駅（東野鉄道）から積み出された麦類は、六二七トンで米に次ぐ移出量であったのである。

　昭和恐慌期に入ると、小麦の水田裏作が盛んに行われ、同四年（一九二九）には一〇町歩（一〇ヘクタール）しかなかった作付面積が、同十年（一九三五）には二一五町歩（二一五ヘクタール）に増加し、収穫期には、畑も田も黄金色で染められ、麦秋という感じが一層強められたのであった。
　第二次世界大戦後もほぼ同じであり、小麦の品種として農林五〇号、農林六四号、赤ボロ一号などがつくられていた。
　同三十年代後半より小麦畑は減少し、同五十年には一三ヘクタールという最低の数字にまで転落したが、ビール麦は同四十九年の九一ヘクタールを最低に、同五十三年には、同三十五年とほぼ同じ五〇三ヘクタールに復活したのである。