第二節 河川漁業

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 大田原市域における河川漁業を、ひとり大田原地内を貫流する河川においてのみ見るというだけで、その上流と下流、つまり、那珂川水系の中でとらえないと、正しく理解することはできない。
 そこで、本節では、那珂川北部漁業協同組合の五十一年度、五十五年度の「総会資料」を主に、その現状について見てみたい(以下、掲載資料のうち、ことわりのない場合は、両年度の「総会資料」(那珂川北部漁業協同組合大田原支部事務局資料)である)。
 河川漁業は、一般に遊漁(釣)がその主体であるが、そのほか、投網漁業・簗漁業・瀬付漁業・蟹筌(かにうけ)漁業・鮭(さけ)特殊漁業・やす突漁業・四ツ手網漁業・さいたたき漁業・魚堰漁業などがある。これらは、いずれも、所定の遊漁料・漁業料を漁業組合に支払いながら行っているわけであるが、近年の組合員の増加には著しいものがある。例えば、那珂川北部漁業協同組合大田原支部の場合の組合員数は、第6表のように増加のあとをたどっている。
第6表 大田原支部組合員数の変遷
人数
昭30年ごろ60
40332
45787
50922
542,296
(「那珂川北部漁協各年度総会資料」)

 昭和三十年ごろは、鑑札は受けるが出資していない遊漁者が組合員数の四~五倍いたが、遊漁者鑑札料と組合員の場合の出資分を含めた負担料が同額になるに及んで(五十六年度の場合、組合員遊漁鑑札料四、〇〇〇円、組合員資格二、〇〇〇円、計六、〇〇〇円)、組合員数の著しい増加をみるのである。しかし、組合員数の増加は、そうした制度的な面だけでなく、前述したような、余暇社会に対応した地域住民の生き方の変容でもあろう。次に五十年度と五十四年度の那珂川北部地区の組合員数を掲げてみよう。この表で大田原市の場合は、大田原(主に大田原・金田地区)、佐久山(主に佐久山・親園地区)、矢板(野崎地区が含まれる)支部が該当支部となるが、大田原地区の人が西那須野支部に、西那須野地区の人が大田原支部に入会している場合もあり、厳密に地区組合員数を把握することはむずかしい。なお、口数については、一組合員一口が主体であるが、複数の口数を出資している組合員もいるので、組合員数と口数は一致していないわけである(第7表)。
第7表 期末各支部組合員数及び持分口数調
支部名喜連川矢板箒根西那須野大田原佐久山湯津上川西黒羽両郷
50年度人数396890127488934436414633458282
口数409907132493998441438729496331
54年度人数6621,6512151,0762,2966155971,091701353
口数6761,6662201,0812,3476196211,182732387
支部名須賀川伊王野芦野那須黒磯高林鍋掛本部
50年度人数221353106484591201132337,179
口数316361106505667219147577,752
54年度人数2814941521,0791,5703251843313,375
口数3765021521,0991,6553432005513,913
(「那珂川北部漁協51・55年度総会資料」)

 河川漁業の中核は、何といってもアユ漁である。つまり、アユの豊凶は河川漁業の盛衰を左右する。五十年度の場合、那珂川北部漁協では、四月上旬に二〇〇キログラム、四月下旬一、〇〇〇キログラム、五月上旬一、一〇〇キログラムと五月上旬までに放流完了を約したのである。しかし、アユの需給関係は極度の異常をきたし、結局、価格は異常な上昇で予算も行き詰まり、天然そ上の魚影も少なく、ウグイ・コイの放流を削減・中止し、一〇〇万円の欠損もやむなしとして、アユ一、七六五キログラムの放流を行っている(「五一年度総会資料」)。その他、この年は、コイ六〇〇キログラム、ヤマメ一五、〇〇〇尾、ニジマス二、八〇二キログラム、ワカサギ一〇〇万粒の放流を行った。次に五十四年度の那珂川水系北部地区の移殖放流数量をあげれば、第8表のとおりである。これによると、アユの河川別放流数量は、箒川は那珂川本流についで多く六九七・二キログラム、蛇尾川は一〇キログラムであった。
第8表 那珂川水系北部地区移殖放流状況(54年度)
(1)アユの放流
月日数量月日数量
kgkg
14.1740855.14350
24.27210.265.16374
35.137075.19358
45.4353.82,424

河川別放流数量
河川名数量河川名数量
kgkg
那珂川本流1,128.8蛇尾川10  
箒川697.2武茂川31  
余笹川202  奈良川34  
荒川177  三蔵川12  
内川23  松葉川11  
黒川98  2,424  

(2)コイの放流 600kg 12月7・8の2日間下記の通り実施
支部名数量支部名数量
kgkg
那須支部40芦野支部20
伊王野支部45黒羽支部30
両郷支部30大田原支部70
須賀川支部25佐久山支部60
湯津上支部30矢板支部90
川西支部40喜連川支部70
鍋掛支部10
黒磯支部40600

(3)ヤマメの放流 18,500尾 5月24日下記の通り実施
支部名数量支部名数量
那須支部2,500矢板支部2,500
伊王野支部2,200箒根支部2,500
両郷支部1,300高林支部6,000
須賀川支部900
黒羽支部60018,500
(注)組合分 17,000尾
   県助成分 1,500尾 計18,500尾

(4)ニジマスの放流 2,000kg
支部名数量支部名数量
kgkg
喜連川支部116川西支部218
矢板支部226黒羽支部83
箒根支部40須賀川支部51
西那須支部132両郷支部63
大田原支部294伊王野支部73
佐久山支部101芦野支部30
湯津上支部81那須支部195
黒磯支部204高林支部56
鍋掛支部372,000

(5)銀毛ヤマメ(サクラマス)放流
   2月10日下記の通り実施 7,000尾 平均20g
場所尾数場所尾数
那珂川高岩2,200箒川堰場橋1,200
〃 黒磯鉄橋1,200〃 小種島橋1,200
黒川合流点1,2007,000
(「那珂川漁協55年度総会資料」)

 近年の河川漁業上の問題点は、なんといっても水質汚染と残留物の蓄積が漁業に及ぼす影響である。それに加えて、五十年度の場合は、千島海流(寒流)の異常南下が不漁をもたらしたと、那珂川漁協は五十一年総会で報告している。
 
 家庭排水に混入する洗剤、人の健康を害し、井戸水を奪う驚異的数量の農薬、化学薬品、森林に撒布された除草剤等の積年の相加、相乗作用と残留物の蓄積等が河川に及ぼす影響、被害の実証、解明は、到底我々の知識、技術ではできないが、最近、中腐水性の土壌が本流に多く採捕され、渇水期の河床水垢の変色が甚だしいのは、この証左ではないか。加えて、昨年以上に太平洋寒流の異常南下による冷水帯の接岸が、本年度鮎に未曽有の不漁をもたらし、当年度事業のすべてに齟齬異状をきたした最大の原因と思われる。

(「五〇年度総会資料事業報告」)

 前述したように、河川漁業には、釣の遊漁のほか、簗漁業・瀬付漁業・蟹筌漁業・魚堰漁業・投網漁業・鮭特殊漁業・四ツ手網漁業・やす突漁業・さいたたき漁業などあるが、河川の等級によって、その漁業料金も異なってくる。特に規制されている漁業は、簗・瀬付・蟹筌・魚堰などの漁業である。そして、それらの漁業は、許可漁業申請を簗は六月二十日(県指定のものは五月三十一日)、蟹筌七月二十日、瀬付二月二十日までに提出し、許可条件を厳守することを誓って認可されるわけである。ここに河川等級表があるので掲げよう。箒川の場合、大田原を貫流する部分の河川等級は、三級が主体であるが、二級や四級の部分も含まれていることがわかる。なお、蛇尾川は五級河川に該当するのである(第9表)。
第9表 河川等級表
等級区域
1級那珂川 箒川合流点より下流の区域
2級那珂川 余笹川合流点より下流の1級を除く区域
箒川  蛇尾川合流点より下流の区域
荒川  内川合流点より下流の区域
3級余笹川 黒川合流点より下流の区域
那珂川 東北線鉄橋より下流の1,2級を除く区域
箒川  大田原市平沢御用堰より下流の2級を除く区域
武茂川 大内川合流点より下流の区域
4級黒川  東北線鉄橋より下流の区域
余笹川 東北線鉄橋より下流の3級を除く区域
那珂川 3級区より上流の区域
箒川  3級区より上流の区域
逆川  木幡橋より下流の区域
5級1,2,3,4級に含まれない准用河川
6級国有河川
(「那珂川漁協51年度総会資料」)

 河川漁業のうち、築漁業はアユの漁獲において、また、河川漁業全体からみても、その占める割合は大きい。したがって、簗漁業はその漁業料も、第10表のように一二段階に分かれている。
第10表 簗漁業料(51年度の場合)
1級1棟297,000床幅1米に付 21,000円加算
2級216,000〃      18,000〃
1級の285,800〃      7,800〃
2〃 278,000〃      5,200〃
3級37,180
4級23,660
5級15,340
6級10,140
7級の116,990床幅2米未満の1級河川のもの
〃  211,960〃      2級河川のもの
〃  310,140〃      3級以下の河川のもの
8級5,200水車堀用水堀のもの
(「那珂川漁協51年度総会資料」)

 当市域では、箒川流域に次の四か所の簗がかけられている。
  下石上  矢板市沢
  佐久山  佐久山字五人河原下
  佐久山  佐久山岩井橋上
  大神   大神字大神下
 なお、蛇尾川には、宇田川に一か所かけられ、結局、大田原市域内の簗は五か所ということになり、この変動はほとんどない。それは、簗については、今後も漁業組合では、申請があっても漁場保護の立場から、枠もあって認可しない方針であり、那珂川北部漁業協同組合内の一七か所(用水堀=黒羽・伊王野・喜連川=三か所を加えれば二〇か所)は、以前から変動がないとのことである。ちなみに、簗のかけられている那珂川水系北部地区の河川は、那珂川・荒川・内川・箒川・蛇尾川・余笹川・黒川・湯坂川の八河川である。
 そのほか、瀬付漁業(一般に「あいそ付」という)なども、庶民に親しまれているが、北部漁協での認可取得者は、五十年度で二五五人となっている。なお、投網漁業については、支部発行券数をみると、大田原三八三人、佐久山二四四人、矢板(野崎が含まれる)四七二人となっていて、北部漁協内では三、五九四人に達している。
 その他の漁獲法については、特殊なものであるので、ここでは省略したい。