第三節 内水面養殖

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 大田原市域における内水面養殖の本格的展開は、昭和三十年以降の高度経済成長期とともに、余暇の増大に伴う観光ブームの中で、養鱒を主体に発展していくのである。それまでは、第一節でみたように、副業としての漁業が主体であり、また、自給自足的要素の強い水田養鯉などが行われていた。
 現在、市域における内水面養殖の地位は高く、栃木県第一位、全国第四位(昭和五十五年四月一日現在)で、その生産額は約六億円に達しており、その魚種は、ニジマス・アユ・ギンザケが主体となっている(第11表)。
第11表 大田原市の特産
(昭和55年4月1日現在)
作目名戸数面積等生産量生産額備考
千円
椎茸1851,401千本497t419,965栃木県第1位
養魚106,840千尾500t593,000栃木県第1位 全国第4位 (ニジマス・アユ・ギンザケ・他)
養蚕554,180a35t75,000
洋ラン等8150a1,000鉢25,000
いちご32590a133t93,880
キク11200a527千本65,000
トマト16200a162t33,720
ニラ37350a105t26,000
加工用トマト682,012a1,332t43,042
29900a180t38,000
花木1054,200a1,325千本15,000
乳牛1262,136頭7,311t948,000
肉用牛6053,200頭890t598,000
養豚763,920頭15,760t512,000
鶏卵9420千羽6,1501,356,000
(大田原市農務課)

 昭和五十二年の栃木県の内水面養殖業(食用)収獲量をみると、総合で栃木県は、四七都道府県中第一六位に位置していることがわかる(第3図)。そのほか、魚種別にみると、コイ一八位、アユ六位、マス類五位と、多額な生産高をあげている(第4~6図)。

第3図 昭和52年主要県別内水面養殖業(食用)収穫量


第4図 コイ


第5図 アユ


第6図 マス類

 第12表をみると、西那須野地区の那須町・黒磯市・黒羽町・湯津上村・大田原市・西那須野町の六市町村の総生産高のうち、年度によっても多少の変動はみられるが、大田原市の占める割合は七〇パーセントといわれている。ちなみに大田原市の養殖魚家一〇戸の五十三年度、五十五年度の生産高は、次のとおりであり(第13表)、これらの生産高は、栃木県の内水面養殖生産高の三〇パーセントに該当している。
第12表 西那須野地区の養殖漁業生産高の推移
魚種県生産高
A
西那須野地区生産高 BB/A
tt
50マス類1,07451748
アユ1954925
コイ27612144
ウナギ20.210
その他7114
1,554688.244
51マス類1,03154453
アユ2686725
コイ29511740
ウナギ12433
その他8
1,61473245
52マス類99446847
アユ2666023
コイ1989246
ウナギ47919
その他9111
1,51463042
(備考)西那須野地区:那須町,黒磯市,黒羽町,湯津上村,大田原市,西那須野町
(大田原市農務課)

第13表 大田原市の養殖漁業生産高
53年55年
漁種
tt
ニジマス390359
アユ4039
コイ94
ギンザケ2774
ヤマメ205
(大田原市農務課)

 第13表をみると、ギンザケの養殖の伸びの著しいのに気づくはずである。ギンザケ養殖は日魯漁業との契約養殖として、近年、急速に伸びた魚種である。
 ギンザケ契約養殖は卵を仕入れ、それを孵化して、一〇〇~一五〇グラムに育ったのを、日魯漁業のルートで宮城県の静川漁業協同組合へ出荷する。静川漁協では、海水に枠組をして漁場として養殖する。十一月に孵化すると、五月には一〇〇~一五〇グラムに育ち、秋には海水で一~二キログラムに発育して、それを日魯漁業が買い上げるという仕組になっている。この方法は、大企業のルートに乗るため、やや割安ではあるが価格が安定しているため、現在、すばらしい伸び率を示しているわけである。市域内では一〇戸の養殖魚家のうち、現在八戸が、マス・アユ・ギンザケの養殖を行っている。他の二戸は、それぞれコイとヤマメを専門に養殖している。
 アユの養殖は、琵琶湖から稚魚を仕入れて養殖し、観光簗や那須・塩原・鬼怒川等の温泉地へ出荷するわけである。
 大田原市域一〇戸の養殖魚家は、「生産者相互の連絡を密にし、養殖漁業の生産合理化、並びに生産の改善を図ることを目的」として(大田原市養魚団体連絡協議会規約「第二条」)連絡協議会を結成している。この会の事業は、
 
   一、養殖漁業者相互の連絡、協調に関する事業
   二、養殖漁業の生産合理化、並びに、生産改善に関する事業
   三、養殖漁業の研究、並びに、情報交換に関する事業
   四、その他、目的達成に必要な事業
を行うことを規定している(前掲「第四か条」)。次にこれら漁家の所在地区を挙げると、次のとおりである。
 
  親園・町島・市野沢・乙連沢二つ・滝沢・花園・滝岡・実取・戸野内
 これらのうち、乙連沢地内の二つの養魚場経営は、黒羽の人である。
 これら内水面養殖も、大雨等による農薬禍などの大きな問題を抱えているが、ギンザケ養殖のような契約養殖という新しい方式を加えながら、今後も大きく飛躍しようとしている。