政府は「厚ク力ヲ小学校ニ可用事、速ニ師表学校ヲ興スベキ事」等を太政官より指示している。また「小学校教員ハ男女ヲ論ゼズ、年齢二十歳以上ニシテ、師範学校卒業免状或ハ中学免状ヲ得セシモノ」と定めている。
栃木県では、同六年五月三十一日、「類似師範学校」を栃木市万町の近竜寺に開校し、教員の養成に着手した。
しかし、当初は正規の教員を採用することは困難であったので、寺子屋時代の師匠が教師となり、しばらくの間は寺子屋式の教育がなされたものとみられる。町村によっては、学資を支給して師範学校に学ばせたところもあった。本県の教員名称・俸給については次のとおりであった。
尋常小学校(明治六年)
大教頭上等 十円
同 下等 九円
中教頭上等 八円
同 下等 五円
一等助教上等 四円
同 下等 三円
二等助教上等 三円
同 下等 二円五十銭
明治八年
訓導本部(東京)師範学校卒業生
一等訓導 三十円
二 〃 二十五円
三 〃 二十円
四 〃 十五円
五 〃 十二円
授業、県下栃木師範卒業者該校試験者
大授業、権大授業 二十円―十三円
中授業、権中授業 十二円―九円
小授業、権少授業 八円―五円
一等授業補 四円
二〃 三円五十銭
三〃 三円
明治九年
一金三十円より二十八円迄 一等訓導
一金二十五円より二十三円迄 二等訓導
一金二十円より十五円迄 三等訓導
一金十四円より十円迄 四等訓導
一金九円より六円迄 五等訓導
一金五円 一級訓導補
一金四円五十銭 二 〃
一金四円 三 〃
一金三円五十銭 四 〃
一金三円 五 〃
(「栃木県史 史料編・近現代八」)
以後も法令の改正によって名称は変更されている。前記訓導のほかに明治十年(一八七七)には「小学授業生」を置き、その等級を定めている。
小学授業生等級
一級授業生 月俸三円五十銭
二級授業生 同三円
三級授業生 同二円五十銭
(「栃木県史 史料編・近現代八」)
授業生とは、学習面で教師の補助をしたものである。このほかに舎長とか生長の名称がよく出てくるが、生徒の生活面で教師の手助けをし、それぞれ月給が支給された。
明治六年六月、小学訓導の氏名を県より督学局へ開申している(第6表)。
第6表 小学訓導氏名表 |
職名 | 族籍 | 氏名 |
大訓導試補 | 当県士族 | 坂部教宜 |
中訓導 | 同 同 | 高瀬千万太 |
同 | 同 同 | 金枝健 |
同 | 同 平民 | 増渕素園 |
同 | 同 士族 | 戸田克巳 |
中訓導試補 | 同 同 | 富田証太郎 |
同 | 同 平民 | 大島桃三 |
同 | 同 同 | 斎藤松寿 |
同 | 同 同 | 上野甚四郎 |
少訓導 | 同 士族 | 川上定彝 |
同 | 同 同 | 正木成徳 |
同 | 同 同 | 中川省一 |
同 | 同 同 | 島村賀堅 |
同 | 同 同 | 関正 |
同 | 同 同 | 村野卓爾 |
同 | 同 同 | 石原寅二郎 |
同 | 同 同 | 横山臨吉 |
同 | 同 平民 | 高山政雄 |
同 | 同 同 | 萩原藤作 |
同 | 同 同 | 富永準三 |
同 | 同 僧侶 | 武田鳳洲 |
同 | 同 平民 | 大島宗一郎 |
少訓導試補 | 同 士族 | 神尾軌勝 |
同 | 同 平民 | 荒井永三郎 |
大訓導試補 | 当県士族 | 中山甫 |
中訓導 | 同 同 | 加藤逢吉 |
同 | 同 平民 | 宇津広之進 |
同 | 同 同 | 古沢庸軒 |
中訓導試補 | 同 士族 | 渋江重都 |
同 | 同 同 | 水野実連 |
同 | 同 平民 | 仁平三平 |
同 | 同 同 | 渡辺直吉 |
同 | 同 僧侶 | 稲木義億 |
少訓導 | 同 士族 | 山崎次昌 |
同 | 同 同 | 増田重威 |
同 | 同 同 | 鳥山勇夫 |
同 | 同 同 | 塩谷省三 |
同 | 同 同 | 広瀬秀勉 |
同 | 同 同 | 中村協 |
同 | 同 同 | 川村徳祐 |
同 | 同 同 | 川俣要人 |
同 | 同 平民 | 赤羽宥松 |
同 | 同 同 | 高坂一郎 |
同 | 同 同 | 鱒渕元策 |
同 | 同 平民 | 関掬一郎 |
同 | 同 僧侶 | 松木宗階 |
少訓導試補 | 同 同 | 星智乗 |
同 | 同 平民 | 角田総三郎 |
大訓導試補 | 当県士族 | 田辺権 |
中訓導 | 同 同 | 金枝道三 |
同 | 同 平民 | 増田金吾 |
同 | 同 同 | 米津確 |
中訓導試補 | 同 士族 | 福井誠太郎 |
同 | 同 平民 | 谷中義武九郎 |
同 | 同 同 | 阿久津譲 |
同 | 同 同 | 小地秀英 |
少訓導 | 同 士族 | 滝田千秋 |
同 | 同 同 | 石川重定 |
同 | 同 同 | 竹嶌武則 |
同 | 同 同 | 要田節三 |
同 | 同 同 | 阿久津忠武 |
同 | 同 同 | 志村真澄 |
同 | 同 同 | 安形信格 |
同 | 同 同 | 石原六方 |
同 | 同 僧侶 | 市石恵能 |
同 | 同 平民 | 塚原文和 |
同 | 同 同 | 上野田郎 |
同 | 同 同 | 稲木義景 |
同 | 同 同 | 嶌武彦 |
同 | 同 平民 | 星野喜一郎 |
同 | 同 同 | 伊藤健二郎 |
総計 七十一名 |
(「栃木県史 史料編・近現代八」) |
大田原地方の人達の氏名がみえる。
同十四年(一八八一)、文部省は「小学校教員授与心得」を定めて検定制を設け、有資格教員の確保をはかった。
訓導 小学校全科教員免許状を得た者
准訓導 一部の教科の授業免許状を得た者
また、学力検定を要しない無資格の補助教員として、授業生の存続を認めた。
同十九年「小学校教員免許規則」が定められ、同二十年から学力検定を実施して、免許を与えた。
御受書
第二九九号 免許状
栃木県士族 阿久津真喜多
十九年十一月
右ハ明治二十年八月ヨリ、明治二十五年七月マデ五ケ年間小学校授業生タル事ヲ免許ス
明治二十年八月二十二日
栃木県
右謹而御請申候也
右 阿久津真喜多
明治二十年八月三十一日
栃木県知事 樺山資雄 殿
(大田原・第八三)
御請書
秋元音吉
那須郡第一番学区大田原尋常小学校授業生ヲ命ズ但月俸六円ヲ給ス
明治二十年八月六日
右謹而御請申上候也
右 秋元音吉
明治二十年九月一日
栃木県那須郡長 安藤小次郎 殿
(大田原・第八三)
御請書
北城直諒
那須郡第一高等小学校事務掛ヲ命ス
但月俸 金二円ヲ給ス
明治二十年九月六日
右、謹而御請申上候也
明治二十年九月六日
北城直諒
栃木県那須郡長 安藤小次郎 殿
(大田原・第八三)
卒業証書有効年限満期御届
那須郡第一番学区大田原小学校
四等訓導 阿久津鼎三
栃木県師範学校ニ於テ受領候卒業証書本月二十六日ヲ以テ有効年限満期相成候間此段御届申上候也
右 阿久津鼎三
明治二十年三月十八日
戸長 神田貞
栃木県知事 樺山資雄 殿
那須郡第一番学区大田原小学校
四等訓導 阿久津鼎三
栃木県師範学校ニ於テ受領候卒業証書本月二十六日ヲ以テ有効年限満期相成候間此段御届申上候也
右 阿久津鼎三
明治二十年三月十八日
戸長 神田貞
栃木県知事 樺山資雄 殿
(大田原・第八三)
小学校授業生学力検定試験願
私儀小学校授業生志願ニ付御試験ヲ願度依テ履歴書及ビ手数料相添ヘ此段相願候也
士族 北城徳三
明治二十年四月二十三日
栃木県知事 樺山資雄 殿
(以下略)
履歴書
一栃木県那須郡大田原宿在籍
一那須郡大田原宿八十八番地住
士族 北城徳三
明治三年四月生
当十七年一ケ月
一卒業証書
小学高等科卒業候事
明治十八年十二月二十五日
大田原小学校
一学業
明治十年四月二日ヨリ大田原小学校ヘ入学普通学科修業同十四年一月ヨリ十九年二月迄大田原宿八十八番地北城直温ニ就キ和算ヲ学ビ同十六年十月ヨリ十七年四月迄中田原村四番地印南嵐ニ就キ漢学ヲ学ビ同十九年一月ヨリ同二月迄大田原小学校一等訓導兼校長堀川常吉ニ就キ筆算物理ヲ学ブ
一職務
(中略)
一賞罰
明治十年十二月六日下等小学第八級卒業試験ノ際抜群優等ニ付栃木県ヨリ賞与トシテ書籍御下賜セラル
(中略)
右之通相違無之候也
右 北城徳三
明治二十年四月二十三日
(大田原・第八三)
御請書
北城徳三
那須郡第一番学区大田原尋常小学校授業生ヲ命ス 但月俸四円ヲ給ス
明治二十年九月十二日
右 謹而御請申候也
右 北城徳三
明治二十年九月十五日
栃木県那須郡長 安藤小次郎 殿
(大田原・第八三)
御請書
第二五八号 免許状
栃木県士族 北城徳三
右ハ明治二十年八月ヨリ明治二十五年七月マテ五ケ年間小学校授業生タル事ヲ免許ス
明治二十年八月二十二日 栃木県
右謹而御請仕候也
明治二十年九月十三日 右 北城徳三
栃木県知事 樺山資雄 殿
(大田原・第八三)
御請書
第三四号 免許状
栃木県士族 太田芳五郎
二十三年九ケ月
右ハ明治二十年六月ヨリ明治二十五年五月マデ五ケ年間小学校授業生タル事ヲ免許ス
明治二十年六月二十日 栃木県
右謹而御請申候也
明治二十年七月七日 右 太田芳五郎
栃木県知事 樺山資雄 殿
御請書
大谷りく
那須郡第一高等小学校裁縫課教員雇ヲ命ズ
但月俸三円ヲ給ス
右御請申上候也
右 大谷りく
明治二十三年十一月一日
栃木県那須郡長 安藤小次郎 殿
御請書
地方免許状
栃木県平民 井上孝三郎
元治元年三月生
右ハ明治二十年十一月二十六日ヨリ明治二十五年十一月二十五日マテ五ケ年間小学校歴史科修身科教員タルコトヲ免許ス
明治二十年十一月二十六日
栃木県知事従五位 樺山資雄
検第二号
右謹テ御請ニ及候也
右 井上孝三郎
明治二十年十二月三日
栃木県知事 樺山資雄 殿
(大田原・第八三)